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「…いらぬ苦労ばかり君には欠けてしまうな…」 

「陛下、とんでもないお言葉でございます…」 

髪の毛を梳きながらエラルドが話かけてきます。 

「君を犠牲にする決断をしてしまったこと、深く後悔している。謝罪させてくれ。すまなかったジュリア。」 

手を止めて鏡越しに私をじっと見つめたエラルドがその場で頭を下げてきました。 

「陛下、おやめください。皆が見ております。私は何とも思っておりませんので。」 

「何とも思ってない…か。そうか…」 

髪の毛を梳き終わったエラルドと再び向かい合わせのソファに座ると、侍女が温かなお茶をさしだしてきます。この王宮で暖かなお茶を頂くのは一体いつぶりのことでしょうか。 

「失礼いたします、王妃陛下。側妃ロレッタ様が是非ともお目にかかりたいとお越しになっております。」 

「王妃陛下!よく無事にお戻りくださいました!」 

「おい、ロレッタ、ジュリアが許可もしていないのに部屋に押し入ってくるとは無礼だぞ。衛兵、そこで何をしていた?」 

「エラルド…ごめんなさい、そんなに怒らないで?衛兵たちも私がどうしても王妃様にお目通りを願いたいと無茶を言ってしまったから…私が、私が…側妃の私が犠牲になるべきだったのにっ…王妃様に代わりに犠牲になってもらったのだものっ…心苦しかったの。だから無事に戻って来てもらえて本当にうれしくって…攫った男に王妃様が傷物にされていようとっ、私もエラルドも王妃様を快く王宮にお迎えいたしますわ。ねえっ、エラルドッ?」 

「…ロレッタ、もういい、やめてくれ。君は自分の部屋に戻っていなさい。」 

「でも、エラルド…折角王妃様がお戻りになられたのに…エラルドだけ王妃様とゆっくりするだなんてずるいわ…それに王妃様がお戻りになられたからエラルドには私はもう必要ないのよね?ううっ…お父様…いえ、宰相に相談して私に見合った方に臣籍降下させてもらった方が良いのかしら…」 

「そんなロレッタ側妃様!!そんな卑屈になってはいけませんわ!!国王陛下の寵愛はロレッタ様だけのもの。王宮中の者たちが存じております。さあ、行きましょう。わたくし共がお部屋までお供いたしますので…」 

ロレッタを心配する衛兵や侍女らに支えられてぞろぞろと部屋を出て行く様子はとても滑稽で、その様子を他人事のように見送りました。 

「騒がしくなってしまってすまなかった。」

「何度も私ごときにそう謝らないでくださいませ陛下。私は大丈夫ですのでお気遣いなく。」」

「いや、しかし…君はいつからそんな他人行儀になったんだろうな。いや、そうさせてしまったのは私のせいか。」

今更…今更そのようなことを言うエラルドを目の前にもう何も心が動かされることはありませんでした。
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