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「へぇ、人間というものはこんなのがいいのか。」 

「人間がと一概に言われると答えかねます。この部屋は…昔、小さかったころに読んだ絵本に出てきた幸せな家族の住む屋敷そのものです。」 

「幸せな家族?そうか。気まぐれでこんなことしたのは初めてだが…まあ、いいか。」 

「あの、ありがとうございます、セーレ様。あの時私を攫って下さったことも、ここまで連れてきてくださったこともとても感謝してもしきれません。」 

「別に俺は好き好んであんたを助けたわけじゃねえ。偶然あそこに居合わせただけだ。
それに、なんだあそこにいた連中。人間界にやっと出てこれたのに、また魔族の連中にあっちまったと思ったぜ。
ぎゃんぎゃんわめいて俺の大好きな醜悪な感情が駄々洩れだったしな。魔界からやっと出てこれたってのにまた魔界に戻っちまったのかと思ったぜ。」 

「あのセーレ様。」 

「なんだ。」 

「わたくしはここにいてもよろしいのですか?」 

「好きにしろよ。ちなみにそのわたくしって自分のこと呼ぶのどうにかならねえのか?どうせ俺しかいねえんだしよ。それと俺のことはセーレでいい。様はいらねえ。ほら言ってみろ。」 

「セーレ…様」 

「だめだ」 

「セー…レ…さ「やり直し」」 

「セーレ」 

「よし。それでいい。飯だ。飯にするぞ。部屋はその後にでも行けばいい。ほらよっと。」 

テーブルの上に鳥の丸焼きと魚の丸焼き、赤ワインのボトルが出てきました。 

「腹が減ったな。食うかジュリア。」 

「頂きます、セーレ。すごいですね、これもセーレの魔法ですか?」 

「ああ、そうだ。」 

「この屋敷も家具も夕食もセーレが頭の中に描いたものが出てくるようになっているのですか?」 

「大方正解だ、羨ましいだろ。しかし俺が考えられる料理と言ったら丸焼きばかりだな。それ以外に思いつかねー。」 

生贄として生きることをあきらめておりましたのに、こうして今、セーレと夕食を食べていることががにわかに信じられません。 

今、目の前で鳥の丸焼きを豪快に切り分けて私に差し出したセーレは、華麗な作法で食事をしております。 

魔界人であるセーレを本来私は恐れるべきなのでしょうが、私にはお兄様と執事のジョルジョ以外のすべての王宮の人間の方が恐ろしいと感じるのです。 

不思議とセーレを怖いなどと感じることもなければ、むしろ私にこうして一時だけでも穏やかな時間を授けてくれた恩人だと感謝する気持ちしかありません。 

セーレがあの時助けてくれなければ…私は今生きてはいなかったでしょう。 

 

カシャンッ 

突然、視界がぐにゃりとゆがみ崩れ落ちて行きました。私をセーレが支えてくれたのに声も出せずに意そのまま識を手放しておりました。 
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