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「すまないジュリア」 

時折そう背後から聞こえてまいりますが、出来損ないとののしられ続ける妻を庇うことさえやめ、、あまつさえ浮気をし側妃をさっさと迎えてしまった夫に何を言っても満足していただけるような返事は出来ないでしょう。 

今更そんな言葉をかけられてもエラルドに返す言葉がございません。 

返事をする気もわざわざ振り返って最後に顔を合わせる必要もありません。もしそうしたとして一体何の意味があるのでしょう。 

ふてぶてしいと思われてもこの私の態度に今更何を言われてもこれで終わる人間に誰が何を文句が言えましょう。 

「ジュリアやめろ!やめてくれ!!」 

はるか彼方からお兄様の声が聞こえてきたような気が致しました。 

声をたどると衛兵に押さえつけられているお兄様が遠くで私に叫んでおられました。 

「お兄様…」 

お兄様だけでも私のことを惜しいと思って下さるのだと最後の最後でやっと救われた気持ちが致しました。 

気が付けばお兄様に向けてゆらゆらと手を振っておりました。 

愕然とするお兄様に最後のはなむけとばかりに笑顔でお別れをお伝えいたします。 

「今までありがとうございました。さようならお兄様。」 

 

目下に魔空間がごうごうと轟音を轟かせ私の体を吸い込むかのように風がトグロを巻いております。 

これでやっと全てから解放される…そんな思いでした。 

一歩踏み出した先には真っ黒の空間が広がっており、落ちて行くと同時に何もしなくても体が吸い込まれて行きます。 

わたしはただその流れに身を任せて目を閉じました。 

「ってえな!はっ?何やってんだお前!くそっ!死にてえなら勝手に死ね!なんなんだいったい!俺を巻き込むな、くそっ!」 

グワンと体が急浮上して気が付けば王宮の屋上を見下ろしておりました。 

「あれがお前の仲間たちか?下らねえな。チッ…胸糞わりぃ…お前のようなお荷物…ああくそっ!仕方がねえか…」 

「ジュリア!」「ジュリア!」「王妃様!」「王妃様!」「ジュリア!」 

ばっさばっさという音が耳に気持ちよく響きます。
乱暴に抱えられているというのに、人肌がこんなに暖かかったことをこんな時に思い出してしまいました。

王宮がどんどん遠ざかっていく中、もう私のことを出来損ない王妃とののしる声は聞こえてまいりませんでした。 
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