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「王妃陛下をお連れ致しました。」 

「おおっ!!王妃陛下お待ちしておりましたぞ。」 

宰相が真っ先に声をかけてきました。それから正面を見据えると玉座に座るエラルドとその脇にロレッタ様が座っておられました。 

眉間にしわを寄せるエラルドがこちらをなぜか沈痛の面持ちで見据えております。 

お兄様の姿は見当たらず、ただただ重苦しい雰囲気に包まれております。 

「王妃ジュリア、先ほどの揺れで大変なことになった。あの揺れで魔界と通じる魔空間が生じたらしい。このままでは魔族達がこちらの世界に流れ込んでくるだろう。昔の書物で魔族のことについて読んだだけだから未だに現実として受け止められないのだが…。先ほど占師に占ってもらったのだがこの魔空間を鎮めるためには生贄が必要だと…それで……この空間を鎮めるためには、この国の高貴な人間界の人物の犠牲が必要だと告げられた。ジュリア、君には…」 

「陛下、私から王妃陛下へお告げ致しましょう。」 

「いや、それには及ばない。ジュリア、すまない。……生贄になって我が国を救ってくれないだろうか。」 

 

―――エラルドを支えよう、この国を、国民を支えようとこれまで歯を食いしばってここまで駆け抜けるように這いずるように寝る間もなく頑張ってまいりました。愛する者から、いえ、かつて愛した者から告げられた言葉はこれまでどの言葉よりも残酷で非情なもののはずですのに心は落ち着いたままでした。 

再びエラルドの声が響きます。 

「王妃ジュリア、魔空間を鎮めるためにそなたを生贄とする。」 

ーー頑張っても…頑張っても…私の場合は何も得ることが出来なかったようです。
目の前にいるはずのエラルドも、周囲にいる者たちの姿も今は朧気と見えるだけ。
 

「畏まりました、陛下。」 

乾ききった体にはもう涙さえ残っておりませんし、もう何も感じることもありません。 

 
「…感謝する、ジュリア」 

こちらをじっと見つめるエルラルドの瞳が揺れ動いているような気がしますが、そんなこともうどうでも良いのです。 

「では王妃陛下、早速ですが今から魔空間のできた王宮へご同行願えますでしょうか。」 

有無をいわさないとばかりに、宰相の合図とともに衛兵に前後左右を固められてしまいました。 

あまりにも乱暴に腕を取られ、その衝撃で皇帝陛下からいただいた髪留めが床にカランと音を立てて落ち、踏みつけられていきます。 


それからもうすでにこうなることが決まっていたかのように、手際よく王宮の屋上へと到着したのでした。 
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