出来損ないの王妃と成り損ないの悪魔

梅雨の人

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「皇帝陛下…それはさすがに…」 

「なんだザンガ卿。本当のことだから仕方ないだろ?いいじゃないか、どうせあの男は聞いちゃいないさ。よくこんないい女を差し置いて…理解できんな。ああそうだ。ジュリア王妃、後ろを向いてくれ。」 

「?ええ。え?アシュリーヌ皇帝陛下?!」 

「ほら、これでいい。…あははははっ今更だろ、あの男…くくくっ…」 

「ええ、こちらに明らかに足を向けようとしているエラルド陛下をあの側妃殿が必死に引きとどめておりますねえ。今更ジュリア王妃陛下に視線が向くとは…くっははっ!」 

「まあ…では楽しまれた分のお支払いはアシュリーヌ国からの農産物をあと一割増にして頂くということでいかがでしょうか?」 

「ぶははっ!さすがだなジュリア王妃は!さすがだよ君はっ!」 



「皇帝陛下…少々笑いすぎでございますよ。そうでございましょう、ザンガ外務大臣?」 

「…くっくくくっ…あっはっはっはっは!」 

「まあ、真剣に言っておりますのに…ふふふっふふふふふふっ!」 

このように楽しい気持ちになりましたのはいつぶりでしたでしょうか。 

舞踏会の招待客もそこで働く者もみな私をお飾りの出来損ないの王妃だと蔑んだ目でみてきており、夫のエラルドも側妃にべったりというこの状況で、まさかこのように冗談を言い合えるなど思ってもおりませんでした。 

悲しみもむなしさも、この隣国の皇帝陛下とザンガ卿のお二人が一瞬で吹き飛ばしてくださいました。

それがこのひと時のことでもかまいませんでした。こうしてわたくしを評価してくださる方々もいるのだと、心の片隅に忘れずに大切に覚えておこうと思えました。 

その後もなぜかアシュリーヌ皇帝陛下はわたくのの横にいて下さり、窮屈だった舞踏会もいつの間にか終盤に近付いておりました。 

「ジュリア王妃、見るなよ?君の後ろ。ぶっくくくっ…たまらないな…」 

「まあ、皇帝陛下…またでございますか?っふふふっ…」 

「そういう君もっ…くくくっ…だっておかしいだろ?やはり私は側妃など持たないぞ。皇后だけで十分だ。あの男のようになるのはごめんだな…くくくっ。よしっ、ジュリア王妃よ、踊るぞ。行こう。」 

管弦楽団の奏でる曲が難易度の高い踊りの曲にちょうど変わったタイミングでアシュリーヌ皇帝陛下に手を引かれて踊りの輪の中に入りました。 

一瞬で人々が踊りを止め私たちを取り囲みます。

見目麗しい大陸最強国であるアシュリーヌ皇帝陛下とただのお飾りであるはずのロプノール王国王妃の組み合わせに周囲は未だに唖然としております。 

「まさかあのアシュリーヌ皇帝陛下があの出来損ない王妃にずっと寄り添い、あまつさえ踊りに誘うとは」 

「何ということだ…エラルド陛下を差し置いて。いくらエラルド国王陛下がファーストダンスに側妃様を選んだとはいえ…これは陛下に失礼ではないのか…」 

「いや、しかしあのアシュリーヌ皇帝陛下だぞ。何をしても許されるだろう。」 

ざわざわとした騒めきは、アシュリーヌ皇帝陛下と私が向き合った瞬間にぴたりと止んだのでした。
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