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エラルドが出ていって、すぐに準備を整えたわたくしは兄のアデルモと共に隣国との会見の場に向かいました。
「あら、何ということかしら。昨夜作成した書類を私室に残してきてしまったわ。急いで取りに行かなければ間に合わないわね。」
「大丈夫だジュリア、私が何とか時間を稼ぐからとりにいっておいで。」
「ありがとうお兄様。」
「ああ、それと会見では側近のリベラート小公爵として紹介してくれ。王妃陛下。」
「ええ、もちろんよ。リベラート公爵令息様。 」
私室に戻る際に側妃のロレッタ様の部屋の前を通らなければなりません。
急ぎ足で歩いている私の目の前にロレッタ様とぴったりと寄り添われるエラルドが歩いておりました。
「--しかしジュリアには無理をさせているのかもしれないな。書類の量を見て反省したよ。」
「ふふふっ、エラルド様ってば可愛いのね。反省しても私とこうして一緒にいてくれるのだもの。それにあの噂は私も聞いているわ。不出来の王妃陛下様でしたか?だから書類も嫌でも積もっていくのではなくて?」
「ロレッタ、それは言いすぎだ。私は幼いころからジュリアの頑張りをずっと見てきたんだ。言っていいことと悪いことがある。」
「あっ…私…私…そんなつもりで…ごめんなさい。エラルドがそんなにジュリア様のことをいうものだから…つい嫉妬してしまったわ…」
「ああ、別に怒っているわけではない。悪かったロレッタ…」
目の前で立ち止まった二人は二人の世界にいるようです。
周囲の近衛兵の何とも言えない視線を散々に受け止めつつも、廊下の真ん中で抱き合う二人を素通りして書類を早く取りに行かねばならないのです。
意を決して速足でなるべく音を立てないようにして部屋に入りました。
背後で「ジュリア…」とエラルドの声が聞こえましたが、私からは何も言うことはありません。
急いで書類をつかんだ私はもと来た道を急いで戻ります。
正面には申し訳なさそうにするエラルドとロレッタ様が佇んでおられます。
何か言いたげなエラルドに伝えることなどない私はただ無言で通り過ぎたのでした。
その晩もその後も、たかだか2時間程度の睡眠しかとれないわたくしは自室で泥のように眠りに落ちそのすぐ直後にムチ打って起床していました。
エラルドが訪れるなど思ってもおりませんでしたし、相も変わらずロレッタ様の元へいそいそと通うエラルドを想像してしまいましたが、もう何の感情も抱くことはありませんでした。
周囲も相変わらずエラルドとロレッタ様を暖かく見守っており、わたくしは正真正銘の名ばかりの出来損ない王妃となっていったのでした。
「あら、何ということかしら。昨夜作成した書類を私室に残してきてしまったわ。急いで取りに行かなければ間に合わないわね。」
「大丈夫だジュリア、私が何とか時間を稼ぐからとりにいっておいで。」
「ありがとうお兄様。」
「ああ、それと会見では側近のリベラート小公爵として紹介してくれ。王妃陛下。」
「ええ、もちろんよ。リベラート公爵令息様。 」
私室に戻る際に側妃のロレッタ様の部屋の前を通らなければなりません。
急ぎ足で歩いている私の目の前にロレッタ様とぴったりと寄り添われるエラルドが歩いておりました。
「--しかしジュリアには無理をさせているのかもしれないな。書類の量を見て反省したよ。」
「ふふふっ、エラルド様ってば可愛いのね。反省しても私とこうして一緒にいてくれるのだもの。それにあの噂は私も聞いているわ。不出来の王妃陛下様でしたか?だから書類も嫌でも積もっていくのではなくて?」
「ロレッタ、それは言いすぎだ。私は幼いころからジュリアの頑張りをずっと見てきたんだ。言っていいことと悪いことがある。」
「あっ…私…私…そんなつもりで…ごめんなさい。エラルドがそんなにジュリア様のことをいうものだから…つい嫉妬してしまったわ…」
「ああ、別に怒っているわけではない。悪かったロレッタ…」
目の前で立ち止まった二人は二人の世界にいるようです。
周囲の近衛兵の何とも言えない視線を散々に受け止めつつも、廊下の真ん中で抱き合う二人を素通りして書類を早く取りに行かねばならないのです。
意を決して速足でなるべく音を立てないようにして部屋に入りました。
背後で「ジュリア…」とエラルドの声が聞こえましたが、私からは何も言うことはありません。
急いで書類をつかんだ私はもと来た道を急いで戻ります。
正面には申し訳なさそうにするエラルドとロレッタ様が佇んでおられます。
何か言いたげなエラルドに伝えることなどない私はただ無言で通り過ぎたのでした。
その晩もその後も、たかだか2時間程度の睡眠しかとれないわたくしは自室で泥のように眠りに落ちそのすぐ直後にムチ打って起床していました。
エラルドが訪れるなど思ってもおりませんでしたし、相も変わらずロレッタ様の元へいそいそと通うエラルドを想像してしまいましたが、もう何の感情も抱くことはありませんでした。
周囲も相変わらずエラルドとロレッタ様を暖かく見守っており、わたくしは正真正銘の名ばかりの出来損ない王妃となっていったのでした。
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