上 下
8 / 100

7

しおりを挟む
前王妃様の執務の一部を以前からお手伝いしていた苦労が報われたと申しますか、王妃としての執務は順調で、厳しく身につけさせられた作法にも問題はなく、本音を隠した社交もつつがなくこなす毎日を送っておりました。 

時間はいくらあっても足りずそれはエラルドも同じことで、お互いに顔を合わせるのは一日の終わった寝室で閨を共にするときと朝起きた瞬間だけでございました。 

閨でエラルドと話すことと言えば、その日お互いに行った業務の情報交換と、これからのこの国を立て直すためにすべきことでございました。 

若くして国王と王妃と成った私たちに、公私を分けるなど器用なことが出来るはずもありませんでした。 

いつしか私とエラルドの話すことといえばお互いの執務のことばかりで、夫婦という純粋にお互いが癒しを感じる時間というものが無くなっていたのだと思います。 

未熟者ではありましたが国のために、エラルドのためにとひたすらに奔走しプレッシャーに耐え続けあっという間に、一年が経過いたしました。 

しかしそのころになると、若い王妃の私の頑張りと功績をなかなか認めようとしない者たちが現れて参りました。 

「出来損ない王妃様のご登場だ。」「ああ、見目が良いだけのあの出来損ない王妃だったか。」「ごらんになって、出来損ない王妃様がいらしたわ。」「しっ、そんな大きな声で言ってしまっては聞こえてしまうわよ、出来損ない王妃様に」 

 

今考えたらそれが誰の仕業だったのかなど簡単にわかることでございましたが、その当時のエラルドとわたくしにとって知る由ございませんでした。 

 

自慢するわけではありませんが、わたくしが長年このロプノール王国を立て直すために練りに練ってきた計画は幸運にもうまく行き順調に国の経済も潤い国民の皆にも安全で落ち着いた生活が戻って参りました。 

ですので、出来損ないと陰で言われているのを聞いて腹立たしいのと同時に、やはり私は未熟者だと思い知らされたものです。 

「ジュリア、君のおかげだよ。本当にありがとう。」 

「何をおっしゃるのエラルド。あなたがいればこそじゃない。あなたがいなければ私の計画なんて実現なしえなかったわ。」 

「しかし、王宮内での君の評価についてだが納得いかないな。しかも君を出来損ないだなどと…」 

「大丈夫よエラルド。言いたい者たちには言わせておけばいいわ。」 

「それでは駄目だよジュリア。君は王妃である前に私の大切な妻だからね。早々に黙らせるよう取り図ろう。」 

「エラルド…」 

それから本当に王宮内で私を出来損ない王妃と呼ぶ声を聴くことはしばらくの間ございませんでした。 

そう、それはほんのつかの間のことでございました。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

処理中です...