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前王妃様の執務の一部を以前からお手伝いしていた苦労が報われたと申しますか、王妃としての執務は順調で、厳しく身につけさせられた作法にも問題はなく、本音を隠した社交もつつがなくこなす毎日を送っておりました。 

時間はいくらあっても足りずそれはエラルドも同じことで、お互いに顔を合わせるのは一日の終わった寝室で閨を共にするときと朝起きた瞬間だけでございました。 

閨でエラルドと話すことと言えば、その日お互いに行った業務の情報交換と、これからのこの国を立て直すためにすべきことでございました。 

若くして国王と王妃と成った私たちに、公私を分けるなど器用なことが出来るはずもありませんでした。 

いつしか私とエラルドの話すことといえばお互いの執務のことばかりで、夫婦という純粋にお互いが癒しを感じる時間というものが無くなっていたのだと思います。 

未熟者ではありましたが国のために、エラルドのためにとひたすらに奔走しプレッシャーに耐え続けあっという間に、一年が経過いたしました。 

しかしそのころになると、若い王妃の私の頑張りと功績をなかなか認めようとしない者たちが現れて参りました。 

「出来損ない王妃様のご登場だ。」「ああ、見目が良いだけのあの出来損ない王妃だったか。」「ごらんになって、出来損ない王妃様がいらしたわ。」「しっ、そんな大きな声で言ってしまっては聞こえてしまうわよ、出来損ない王妃様に」 

 

今考えたらそれが誰の仕業だったのかなど簡単にわかることでございましたが、その当時のエラルドとわたくしにとって知る由ございませんでした。 

 

自慢するわけではありませんが、わたくしが長年このロプノール王国を立て直すために練りに練ってきた計画は幸運にもうまく行き順調に国の経済も潤い国民の皆にも安全で落ち着いた生活が戻って参りました。 

ですので、出来損ないと陰で言われているのを聞いて腹立たしいのと同時に、やはり私は未熟者だと思い知らされたものです。 

「ジュリア、君のおかげだよ。本当にありがとう。」 

「何をおっしゃるのエラルド。あなたがいればこそじゃない。あなたがいなければ私の計画なんて実現なしえなかったわ。」 

「しかし、王宮内での君の評価についてだが納得いかないな。しかも君を出来損ないだなどと…」 

「大丈夫よエラルド。言いたい者たちには言わせておけばいいわ。」 

「それでは駄目だよジュリア。君は王妃である前に私の大切な妻だからね。早々に黙らせるよう取り図ろう。」 

「エラルド…」 

それから本当に王宮内で私を出来損ない王妃と呼ぶ声を聴くことはしばらくの間ございませんでした。 

そう、それはほんのつかの間のことでございました。 
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