上 下
5 / 100

4

しおりを挟む
「ジョルジョ、ありがとう。おじいさまの代から使えてくれているあなたがこうしていてくれるだけでとても心強いのよ。あなたも無理をしないで健康に気を付けて頂戴ね?」 

「…畏まりました。お嬢様。」 

しわが刻まれたジョルジョの目元に涙が光っております。 

ジョルジョを心配させないためにも疲れた体を叱咤して再び自分の部屋に戻り書類と向き合います。

今日はその後王太子妃教育が入っておりますので急いで書類を片付けてお母さまのすべき家政も取り組まなければなりませんので時間との戦いです。 

「ジョルジョ、申し訳ないのだけれどこれで間違いがないか家政婦長と騎士団長に確認してきてくれないかしら。それが確認出来たら明日の朝いちばんに給金を手配する手はずを整えてあるからと伝えて頂戴。後は、ガゼボと温室の修繕なのだけれども庭師達の意見をまとめておくように伝えておいてくれるかしら?来週には時間を作るからそこで詳細を協議するわ。後は……」 

「ジュリアお嬢様、失礼いたします。王宮へ向かう馬車の手配が整いました。」 

「すぐに行くわ、ジョルジョ、慌ただしくて申し訳ないのだけれどよろしくね。」

目まぐるしく思考を切り替えて余計なことを考えさえしなければ今日一日も気が付けば過ぎてしまうとこの身をもって理解しております。 

王宮に向かう馬車の中で、侯爵家夫人の仕事を長女の私にすべて丸投げして、勉強や執務、社交の分刻みの予定を気にせずにのんびりと過ごすお母さまや、周囲に可愛がられ甘やかされるばかりの妹のラウラの顔がなぜか脳裏に浮かびます。

そんなお母さまをとがめることもせず、何なら自分の執務を私に手伝わせ、粗相ばかりの末娘を優しい目で見守り続ける父に、私のことも労わって可愛がってほしかったと、考えても仕方のないことをついつい思ってしまうのです。 

お父様、お母様のお手伝いに加えて王太子妃教育を行うには私一人の睡眠を削りに削って何とかなっている状態です。

泥のように倒れこむように眠り、三時間ほどで起床する毎日の中で私の人生に何か楽しいことがあっただろうかと考えてしまえば惨めな気持ちになると分かっておりますのに、ついつい考えてしまうのです。 

蓄積された疲労と麻痺しつつある感情が体の内側から重くのしかかり息苦しさを覚えたのでした。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

ただずっと側にいてほしかった

アズやっこ
恋愛
ただ貴方にずっと側にいてほしかった…。 伯爵令息の彼と婚約し婚姻した。 騎士だった彼は隣国へ戦に行った。戦が終わっても帰ってこない彼。誰も消息は知らないと言う。 彼の部隊は敵に囲まれ部下の騎士達を逃がす為に囮になったと言われた。 隣国の騎士に捕まり捕虜になったのか、それとも…。 怪我をしたから、記憶を無くしたから戻って来れない、それでも良い。 貴方が生きていてくれれば。 ❈ 作者独自の世界観です。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

処理中です...