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「ジュリア」
私の背後で夫、ロプノール王国国王であるエラルドが私の名を呼んでいるのが聞こえます。
今更、罪悪感でも湧いてきたということなのでしょうか。いいえ、そんなはずがありません。
私は出来損ないの王妃として、夫にも実家の家族にとっても、もはやお荷物でしかなかったのですから。
寝る間も削り、体もボロボロになり、頑張っても頑張ってもいつも足りない、出来損ないと言われ続けもうくたくたでございます。
全ては夫エラルドのため、家族のため、国のためにと、切れかけの糸に縋るが如く非情で過酷な日々を幼いころより過ごして参りました。
今回、私が生贄として選ばれてしまったとエラルドに告げられ、もうこの過酷な日々から逃れられるのだと思うと内心安堵しました。
努力は報われずとも、これ以上辛いことはないだろう、やっと魂を休めることが出来ると。
突然王宮の屋上に現れた魔空間を目の前に、何の戸惑いもなく一歩また一歩と踏み出します。
出来損ないの王妃としての最後の役目としては上出来なのではないでしょうか。
議論を重ねた結果とエラルドはおっしゃいましたが、大した議論もされず満場一致ですぐに決定されたのでしょう。
「王妃ジュリア、魔空間を鎮めるためにそなたを生贄とする。」
エラルドが皆の前で私に生贄になるように告げた瞬間、周囲が満場一致で納得して側妃ロレッタがエラルドを慰めるように寄り添っておりました。
ロレッタが新たな王妃となるだろう、これでこの王国も安泰だ、魔空間も消滅し、出来損ないの王妃もいなくなると言葉で聞こえてこない期待をあちらこちらから感じました。
「すまない、ジュリア」
衛兵にぎっちりと囲まれ屋上に向かうために背を向けた私に、夫でありこの国の若き国王であるエラルドは声を絞り出すようにしてそう私に伝えてきました。
どちらにしても、出来損ないとののしられ続ける妻を庇うことさえやめ、あまつさえ浮気をし側妃をさっさと迎えてしまった夫に何を言っても満足していただけるような返事は出来ないでしょう。
今更人様に何を言われてもこれで終わる人生です。
もうエラルドを振り返る必要性も感じませんので、先ほど謁見の間でちらりと顔を合わせたのが今生のお別れとなるのでしょう。
来生がもしもあるのだとしたらもうあなたにも、ここにいる誰にも会うことがないことを祈ります。生贄になる可哀そうな女の唯一の願いをかなえて下さる神がいると良いのですが。
目下に魔空間がごうごうと轟音を轟かせ私の体を吸い込むかのように風がトグロを巻いております。
これでやっと全てから解放される…一歩踏み出した先には真っ黒の空間が広がっており、何もしなくても体が吸い込まれて行きます。
それは一瞬の出来事かのように、落ちて行く身を流れに任せて目を閉じました。
ごっつっ!
「ってえな!はっ?何やってんだお前!くそっ!死にてっつうんなら死ねばいいけど俺を巻き込むな!よっ、っと!」
グワンと体が急浮上して気が付けば王宮の屋上を見下ろしておりました。
「あれがお前の仲間たちか?下らねえな。チッ…胸糞わりぃ…お前のようなお荷物…仕方がねえか…」
「ジュリア!ジュリアーーー!!!」「王妃様!」「王妃様!」
王宮がどんどん遠ざかっていく中、私のことを出来損ない王妃とののしる声は聞こえてまいりませんでした。
私の背後で夫、ロプノール王国国王であるエラルドが私の名を呼んでいるのが聞こえます。
今更、罪悪感でも湧いてきたということなのでしょうか。いいえ、そんなはずがありません。
私は出来損ないの王妃として、夫にも実家の家族にとっても、もはやお荷物でしかなかったのですから。
寝る間も削り、体もボロボロになり、頑張っても頑張ってもいつも足りない、出来損ないと言われ続けもうくたくたでございます。
全ては夫エラルドのため、家族のため、国のためにと、切れかけの糸に縋るが如く非情で過酷な日々を幼いころより過ごして参りました。
今回、私が生贄として選ばれてしまったとエラルドに告げられ、もうこの過酷な日々から逃れられるのだと思うと内心安堵しました。
努力は報われずとも、これ以上辛いことはないだろう、やっと魂を休めることが出来ると。
突然王宮の屋上に現れた魔空間を目の前に、何の戸惑いもなく一歩また一歩と踏み出します。
出来損ないの王妃としての最後の役目としては上出来なのではないでしょうか。
議論を重ねた結果とエラルドはおっしゃいましたが、大した議論もされず満場一致ですぐに決定されたのでしょう。
「王妃ジュリア、魔空間を鎮めるためにそなたを生贄とする。」
エラルドが皆の前で私に生贄になるように告げた瞬間、周囲が満場一致で納得して側妃ロレッタがエラルドを慰めるように寄り添っておりました。
ロレッタが新たな王妃となるだろう、これでこの王国も安泰だ、魔空間も消滅し、出来損ないの王妃もいなくなると言葉で聞こえてこない期待をあちらこちらから感じました。
「すまない、ジュリア」
衛兵にぎっちりと囲まれ屋上に向かうために背を向けた私に、夫でありこの国の若き国王であるエラルドは声を絞り出すようにしてそう私に伝えてきました。
どちらにしても、出来損ないとののしられ続ける妻を庇うことさえやめ、あまつさえ浮気をし側妃をさっさと迎えてしまった夫に何を言っても満足していただけるような返事は出来ないでしょう。
今更人様に何を言われてもこれで終わる人生です。
もうエラルドを振り返る必要性も感じませんので、先ほど謁見の間でちらりと顔を合わせたのが今生のお別れとなるのでしょう。
来生がもしもあるのだとしたらもうあなたにも、ここにいる誰にも会うことがないことを祈ります。生贄になる可哀そうな女の唯一の願いをかなえて下さる神がいると良いのですが。
目下に魔空間がごうごうと轟音を轟かせ私の体を吸い込むかのように風がトグロを巻いております。
これでやっと全てから解放される…一歩踏み出した先には真っ黒の空間が広がっており、何もしなくても体が吸い込まれて行きます。
それは一瞬の出来事かのように、落ちて行く身を流れに任せて目を閉じました。
ごっつっ!
「ってえな!はっ?何やってんだお前!くそっ!死にてっつうんなら死ねばいいけど俺を巻き込むな!よっ、っと!」
グワンと体が急浮上して気が付けば王宮の屋上を見下ろしておりました。
「あれがお前の仲間たちか?下らねえな。チッ…胸糞わりぃ…お前のようなお荷物…仕方がねえか…」
「ジュリア!ジュリアーーー!!!」「王妃様!」「王妃様!」
王宮がどんどん遠ざかっていく中、私のことを出来損ない王妃とののしる声は聞こえてまいりませんでした。
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