13 / 14
さようなら
しおりを挟む
あの襲撃から、一月が過ぎた。
ようやく気持ちが落ち着いてきて、父や兄を少し安心させることが出来たのではと思っている。
今は王都から少し離れた領地で、静養中だ。
学園もあれ以来休学している。
一時は絶望のあまり、命を絶ってしまおうとさえ思ったが、父や兄それと幼馴染のクレイグがずっとそばで励ましてくれたのもあり、今は少しでも前を向いて行けたらと思っている。
あの襲撃で、グレゴリーが命を懸けて守ってくれたのだから私は頑張って生きていかなければ。
襲撃犯は捕まり、もうすでに処罰は下されたと父は私に教えてくれた。
アレクといつも一緒にいたアンネマリー様が指示を出し、彼女は既に罰を受け修道院に送られていったらしい。
父は私の体調を慮って、私に真相を伝えようか迷ったらしいが、私は知る権利があるだろうと判断してくれたようだ。
私もその真相を知ることが出来てよかったと思っている。
あの学園では、嫌な思いしかない。
私の体調が回復した際に、父が無理に通わずに今は休んでも良いと言ってくれて正直ほっとした。
ただ、ずっと学園に通わなくていいわけでもないので、いずれはどうするのかを決めなければならないのだろう。
アレクとの婚約は破棄された。彼とはもうずっと会っていない。
私と婚約が破棄されて喜んでいるのではないだろうか。
アンネマリー様が修道院に送られて悲しんでいるのだろうけれども。
アレクとアンネマリー様の計画についても教えてもらった。
恋人のふり―――。
聞いてあきれてしまった。
そんなことをされて、自分の婚約者が他の女生徒一緒にいるところを見せつけられるよりは、アレクの婚約者という事で嫉妬してきた周囲に嫌がらせを受けた方がよっぽどかよかったと思う。
私はアレクの婚約者として彼のことを理解したつもりでいたけれど、今回の件で、お互いのことを理解できていなかったのだと思い知らされた。
「シャル、対岸に大きな木があるだろう?あっちを見てごらん?」
クレイグにそう言われて、私は指をさされた方を見る。
そこの大きな木の目の前を流れる川に、可愛いカモの親子が並んで泳いでた。
私は今、ゆっくりとした穏やかな時間を過ごしている。
声が出なくなって、特に困ったこともないし案外、この静かな時間の流れが気に入っている。
静養先にクレイグも同行してくれた。
父も兄も、現在取引している交渉のため、一緒に来ることが出来なかったのでクレイグが代わりに私に同行してくれたのだ。
おかげで、クレイグばかりに話させて申し訳ないが、いつも穏やかで楽しい時間を過ごせている。
先日は馬に乗せてもらい遠出に行った。
頬に触れる風がさわやかで、馬上から見える景色は雄大で素晴らしく、到着した先で食べたサンドイッチは格別の味がした。
クレイグと二人で、持ってきたものを全部食べ切ってしまった私は、うたた寝をしてしまっていたらしい。
目を開けたら、クレイグのシャツが私にかけられていた。
クレイグは、いつも私のことを気遣ってくれているのがよくわかる。
おかげで、自分でも最近ではよく笑顔をみせることができる。
そんなある日のこと、クレイグに誘われて夕日の綺麗に見える丘にやってきた。
心なしか緊張した面持ちのクレイグが、おもむろに私に向かって跪いた。
「シャル。実は、君は僕の初恋の人で、その初恋はまだ僕の中で終わっていないんだ。シャル。僕は死ぬまで君を大事にしてずっと一緒にいられたらと心から思っている。僕と結婚してください。シャル。お願いします。」
クレイグは震える手で私の手をおもむろに救い上げ、緊張した面持ちで私を見上げた。
私はクレイグの綺麗な緑色の瞳を見つめて頷いた。
自然とお互いの目に涙が溢れてきた。
言葉で返せない代わりに、私はクレイグの頬にキスを送った。
言葉にはできない、ありがとうの気持ちを込めて。
周囲が何と言おうとクレイグは私のそばにずっといて穏やかな時間をあたえてくれた。
穏やかなで幸せな時間を。
私の声が出ないのにもかかわらず、いつもそこにいてくてそれだけで安らげた。
ずっと、クレイグから溢れ出る私の感情に気が付いていた。
そして最近では、クレイグから溢れ出るその感情をとても心穏やかで心地よいものと受け止めることが出来ていた。
アレクの時と少し違うかもしれない。
でもこのように心穏やかな心地よい好きという感情も愛と言えるのかもしれないと思った。
クレイグへのこの気持ちがこれからもっと膨らんでいけばいい。
そう思った。
さようなら、アレク。
二年後
私達は、クレイグの元居た留学先の学園を無事卒業した。
卒業後すぐに結婚し、いずれクレイグが継いでいく予定のヴァルキリー伯爵家の離れに居を構えた。
結婚式の途中、気のせいかもしれないが遠くの方にアレクを見た気がする。
そんなことも、たくさんの人々に祝福されて幸せいっぱいだった私はすぐに忘れてしまったけれども。
クレイグと一緒になれて本当に毎日が幸せだ。
最近になって、クレイグが捨て犬を拾ってきた。
商談が終わって馬車に乗り込む道すがら、見つけてきたまだ小さな子犬だ。
名前はもちろんグレゴリーと名付けた。
もうすぐ産まれてくる私とクレイグの大事なこの子と一緒に大きくなってほしいと思っている。
ようやく気持ちが落ち着いてきて、父や兄を少し安心させることが出来たのではと思っている。
今は王都から少し離れた領地で、静養中だ。
学園もあれ以来休学している。
一時は絶望のあまり、命を絶ってしまおうとさえ思ったが、父や兄それと幼馴染のクレイグがずっとそばで励ましてくれたのもあり、今は少しでも前を向いて行けたらと思っている。
あの襲撃で、グレゴリーが命を懸けて守ってくれたのだから私は頑張って生きていかなければ。
襲撃犯は捕まり、もうすでに処罰は下されたと父は私に教えてくれた。
アレクといつも一緒にいたアンネマリー様が指示を出し、彼女は既に罰を受け修道院に送られていったらしい。
父は私の体調を慮って、私に真相を伝えようか迷ったらしいが、私は知る権利があるだろうと判断してくれたようだ。
私もその真相を知ることが出来てよかったと思っている。
あの学園では、嫌な思いしかない。
私の体調が回復した際に、父が無理に通わずに今は休んでも良いと言ってくれて正直ほっとした。
ただ、ずっと学園に通わなくていいわけでもないので、いずれはどうするのかを決めなければならないのだろう。
アレクとの婚約は破棄された。彼とはもうずっと会っていない。
私と婚約が破棄されて喜んでいるのではないだろうか。
アンネマリー様が修道院に送られて悲しんでいるのだろうけれども。
アレクとアンネマリー様の計画についても教えてもらった。
恋人のふり―――。
聞いてあきれてしまった。
そんなことをされて、自分の婚約者が他の女生徒一緒にいるところを見せつけられるよりは、アレクの婚約者という事で嫉妬してきた周囲に嫌がらせを受けた方がよっぽどかよかったと思う。
私はアレクの婚約者として彼のことを理解したつもりでいたけれど、今回の件で、お互いのことを理解できていなかったのだと思い知らされた。
「シャル、対岸に大きな木があるだろう?あっちを見てごらん?」
クレイグにそう言われて、私は指をさされた方を見る。
そこの大きな木の目の前を流れる川に、可愛いカモの親子が並んで泳いでた。
私は今、ゆっくりとした穏やかな時間を過ごしている。
声が出なくなって、特に困ったこともないし案外、この静かな時間の流れが気に入っている。
静養先にクレイグも同行してくれた。
父も兄も、現在取引している交渉のため、一緒に来ることが出来なかったのでクレイグが代わりに私に同行してくれたのだ。
おかげで、クレイグばかりに話させて申し訳ないが、いつも穏やかで楽しい時間を過ごせている。
先日は馬に乗せてもらい遠出に行った。
頬に触れる風がさわやかで、馬上から見える景色は雄大で素晴らしく、到着した先で食べたサンドイッチは格別の味がした。
クレイグと二人で、持ってきたものを全部食べ切ってしまった私は、うたた寝をしてしまっていたらしい。
目を開けたら、クレイグのシャツが私にかけられていた。
クレイグは、いつも私のことを気遣ってくれているのがよくわかる。
おかげで、自分でも最近ではよく笑顔をみせることができる。
そんなある日のこと、クレイグに誘われて夕日の綺麗に見える丘にやってきた。
心なしか緊張した面持ちのクレイグが、おもむろに私に向かって跪いた。
「シャル。実は、君は僕の初恋の人で、その初恋はまだ僕の中で終わっていないんだ。シャル。僕は死ぬまで君を大事にしてずっと一緒にいられたらと心から思っている。僕と結婚してください。シャル。お願いします。」
クレイグは震える手で私の手をおもむろに救い上げ、緊張した面持ちで私を見上げた。
私はクレイグの綺麗な緑色の瞳を見つめて頷いた。
自然とお互いの目に涙が溢れてきた。
言葉で返せない代わりに、私はクレイグの頬にキスを送った。
言葉にはできない、ありがとうの気持ちを込めて。
周囲が何と言おうとクレイグは私のそばにずっといて穏やかな時間をあたえてくれた。
穏やかなで幸せな時間を。
私の声が出ないのにもかかわらず、いつもそこにいてくてそれだけで安らげた。
ずっと、クレイグから溢れ出る私の感情に気が付いていた。
そして最近では、クレイグから溢れ出るその感情をとても心穏やかで心地よいものと受け止めることが出来ていた。
アレクの時と少し違うかもしれない。
でもこのように心穏やかな心地よい好きという感情も愛と言えるのかもしれないと思った。
クレイグへのこの気持ちがこれからもっと膨らんでいけばいい。
そう思った。
さようなら、アレク。
二年後
私達は、クレイグの元居た留学先の学園を無事卒業した。
卒業後すぐに結婚し、いずれクレイグが継いでいく予定のヴァルキリー伯爵家の離れに居を構えた。
結婚式の途中、気のせいかもしれないが遠くの方にアレクを見た気がする。
そんなことも、たくさんの人々に祝福されて幸せいっぱいだった私はすぐに忘れてしまったけれども。
クレイグと一緒になれて本当に毎日が幸せだ。
最近になって、クレイグが捨て犬を拾ってきた。
商談が終わって馬車に乗り込む道すがら、見つけてきたまだ小さな子犬だ。
名前はもちろんグレゴリーと名付けた。
もうすぐ産まれてくる私とクレイグの大事なこの子と一緒に大きくなってほしいと思っている。
504
お気に入りに追加
3,130
あなたにおすすめの小説

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる