もうあなたを離さない

梅雨の人

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巻き戻り前

妻の許し3

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妻の体が強張ったのを感じたレオナルドはすぐさま向きを変えてアイシャの視界にその醜悪なものが入らないようにした。

心配いらない、とアイシャにささやいたレオナルドはその頬を慈しむようにそっと撫で額にキスを送った。

二人の親密な様子を目の当たりにしたリズリーは再び顔を歪めた。

「リズリー、君には大事な話がある。すぐにでも話したいがここではなんだから、後で執務室に来てくれ。」

とだけ言い残しレオナルドとアイシャはその場を去っていった。

未だにアイシャを抱えたまま屋敷の主人夫婦の部屋へ向かっていたレオナルドだが、急に行き先を客室へと変更した。

リズリーを連れ込んでしまったあの夫婦の部屋にはアイシャを連れていけなかった。
当時を思い出し吐き気を催しそうになるのをぐっと耐えた。

本意ではなかったとしてもあの時の自分はなぜかリズリーに言われるがまま夫婦の寝室で閨を共にしてしまったのだ。

そして、これまでの醜悪な自らの行いの記憶を少しでも消し去るため、夫婦の部屋の変更と家具と調度品の一新をするとアイシャに伝えた。
そして、それまではこの部屋を夫婦そろって使おうと伝えるレオナルドにただ涙を流して頷いた。

「すまなかった…。」
そう伝えるのが精いっぱいのレオナルドは、愛しい妻の頬に流れる涙をその唇で拭い続けた。

レオナルドは、アイシャをベッドに優しく横たえ自ら妻の身の回りの世話をした後、リズリーと今後一切関係を断ち切り屋敷を即出て行くように告げてくると立ち上がった。

「レオ…、お願い行かないで。私と一緒にここにいて…?」

そう言って小指をチョンと弱弱しく握ってきたアイシャを見たレオナルドは、またしても彼女を不安にさせていたのだと激しく後悔し、アイシャがせめて眠りにつくまでは一緒にいようとベッドにもぐりこみ腕枕で愛しい妻を引き寄せた。

冷たいベッドで、ずっと一人で横たわっていたアイシャにとってレオナルドの腕枕が暖かくて心地よくて、嬉しさが込み上げたアイシャは嗚咽と共に涙を流した。

レオナルドはそんな妻の背中をさすり、その頭にキスを送り続けた。

やっと眠りに落ちた妻を間近で見つめながら、胸が締め付けられる思いでいたレオナルドは、二度と同じ過ちはくりかえさないことを心の中で強く誓った。
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