もうあなたを離さない

梅雨の人

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巻き戻り前

妻の許し2

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馬車に向かい合わせに座るレオナルドは、妻のそのやつれ切った姿に改めて己がこれまでしてきた非情な行いを後悔した。

目は隈に覆われ、その肌艶は失われ、見る限り体の線が危険なほどまでに細くなっていた。

どうしてこんなになるまでアイシャを放っておいたのだろうとつくづく疑問に思う。
しかもそんなアイシャをずっと蔑ろにし続けていたのは自分だと思うとさらに自己嫌悪におちいってしまった。

温かな日ではあったが、やつれてしまったアイシャには冷えるのだろう。
腕をさすっているのが目に入った。

すぐに目の前のその華奢な肩に自らのジャケットを掛け、振動から守るためにそっと体を抱き上げ、膝の上に大事に抱えた。

そして妻の体温を慈しむように両腕で囲い、はやく妻が心身ともに回復するように心から祈った。

レオナルドとアイシャの帰宅の知らせを受けた屋敷の使用人一同は、すぐに主夫婦の帰りを揃って迎えた。

騒ぎを聞きつけたリズリーは、これでもかというほどの派手な宝飾品ときわどいドレスを身につけてレオナルドが馬車から降り立つのを待った。

馬車の扉が開かれて、降りてきたレオナルドに久しぶりの熱い抱擁を貰おうと期待していたリズリーであったが、現れたレオナルドの腕には妻であるアイシャが抱えられていた。

それはそれは、大事に守るように抱えられているのを見て、リズリーの表情は一瞬で醜悪な顔に変わった。

「おかえりなさいませ、旦那様、奥様。」
使用人一同のその声に二人が同時に顔を見合わせて笑顔を見せた。

ここ最近、ほとんど顔を合わせることもなかった二人が、今は二人揃って帰ってきたのだ。
リズリーと使用人一同の反応は真逆で、使用人一同がその夫婦の様子に安堵の表情を浮かべるのに対し、リズリーは肩を震わせながら、しかし笑顔を浮かべアイシャに食い掛った。

「奥様、おかえりなさいませ。まだ体調が回復していないみたいなのに早いお帰りですね。回復なさるまでご実家にいらした方がよかったのではありませんか?レオのことは私がいるので心配なさらなくてもよろしかったのに。せっかく帰ってらしたのに、レオのことだから私を今日も離してはくれないでしょうし、なんだか奥様に申し訳ないですわ。ふふっ。」

そう言い切ったレズリーは真っ赤な口紅を塗りたっくた唇をゆがめ、レオナルドの腕に抱えられているアイシャに微笑んだ。
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