もうあなたを離さない

梅雨の人

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巻き戻り前

父の祈り

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倒れてしまったレオナルドは既に三日間眠り続けていた。

リングシャー伯爵本家の屋敷にそのまま寝かせることにしたレオナルドの両親と兄は、リズリーだけ先に、レオナルドの屋敷へ帰ってもらった。

当主夫婦不在の屋敷ではこれ幸いとばかりに、これまで以上に使用人をこき使い散財をやめないレズリーをだれも止めることはできなかった。

一方で、残されたレオナルドの両親と兄ジャックはレオナルドの倒れる前に見せたおかしなその変化に戸惑いを隠せないでいた。

まるでアイシャの存在をその時ようやく思い出したかのような、あの何とも言えない息子の表情がそしてその時の涙が何を意味するのか考えあぐねていた。

既に三日間眠り続ける息子を心配したリングシャー伯爵は息子が目を覚ますよう藁をもつかむ思いで教会で祈りを捧げた。

祈りをささげたあと、リングシャー伯爵はそこに並べられた椅子に腰を掛け、息子が愛人を作ってしまってからこのようになるまで、父として何もできなかったことを深く後悔していた。。

そんな伯爵を気に留めた神官が伯爵に声をかけた。

「お久しぶりです。リングシャー伯。もしよろしければお茶でもお付き合い願いませんでしょうか?」

神官のその低く穏やかな声は耳に心地よく、快くその誘いに応じた。
招かれた部屋は暖かく、しかし天井には蛇のような奇病な女の絵が描かれていた。

その蛇女は男を捕らえ、その奇妙な女の目じりあたりから発せられる強い光で男の体を包み込んでいた。

伯爵は目を疑った。
その絵に描かれている女の目じりにはあのリズリーとかいう愛人と同じく星のようなあざが描かれていたからだ。

髪色こそ違えど、まるでそこに描かれている恐ろしい女がリズリーに面影がある事にも戦慄した。

「その壁画に興味がおありですか?」
「ええ…私の息子が知り合った女性に目元のあざから顔立ちまでそっくりだったもので…。」

「…それはなんと。差し支えなければその女性についてお話を伺えますか?」

そう神官に聞かれたリングシャー伯爵は、身内の恥にはなるがこれまでのいきさつを己が知っている限り説明した。

そして話をすべて聞き終わった神官はまさか、まさかと独り言を繰り返すばかりであったが、急に用事が出来たが後日また連絡すると言い残し立ち去って行った。
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