もうあなたを離さない

梅雨の人

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巻き戻り前

愛人の登場

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レオナルドの変化に心が追い付かないまま数か月が過ぎたころ、執務室に呼ばれた。

最近全く会話どころか視線さえ向けてくれようとしない夫に呼ばれたのだから、あまりよくないことだろうと簡単に予想できた。
まだ開いてもいない扉の前で緊張感に襲われてしまった。

勇気を振り絞って扉をノックすると、中から執事のロニーがその扉を開けてくれた。
奥様、と一言声をかけてくれたロニーの目は明らかにうろたえたもだった。

「アイシャ、紹介する。リズリーだ。」

「はじめまして。奥様。リズリーと申します。」

茶色のウェーブがかった髪を肩まで垂らし薄紅色の瞳を細め、淡い紫色のワンピースに豊満な肉体を収めた女性は、嫌らしい愛想笑いを浮かべて私に自己紹介してきた。

「リズリーを今日からこの屋敷に住まわせることにする。仲良くするように。では、私は忙しいから話は以上だ。出て行くように。」

ものの数分の間の出来事だった。
現実とは思えない事態をすぐに受け入れられなかった私は、気がついたら侍女のメアリーに手を引かれて部屋に戻っていた。

メアリーの煎れていくれたお茶を口に含み、戻りたくもない現実に戻されると、涙がとめどなく溢れてきた。
心配したロニーがその後私の様子を窺いに来た。

「奥様、私が旦那様のおそばについていながらこのようなことになり大変申し訳ございません。しかし、私も先ほどまで知らされておりませんでした。この数か月、旦那様の様子が少し変わったように見受けられましたが、やはりその時にきちんと対処しておくべきでした。申し訳ございません。」

「ロニー、あなたのせいではないわ。これはすべてレオが決めたこと…。突然のことで取り乱してしまってごめんなさいね。使用人のみんなには、あのリズリー様にも丁寧に対応するように伝えておいてね。」

それを聞いたロニーは、何とも言えない顔をして分かりましたと言い残し部屋を出て行った。

リズリーが屋敷に現れたことで使用人一同は大変戸惑っていたが、ロニーが丁寧に対応するようにと伝えてくれたのもあって皆それに従っていた。

そして、レオがリズリー様を愛妾として屋敷に住まわせたという話は社交界にも親族にもすぐに伝わった。

愛人を持つ貴族は珍しくはないが、まさか本妻のいる屋敷に住まわせるというのは聞いたことがないと、私に同情する声や嘲笑うかのような声がいたるところで囁かれた。

特におしどり夫婦で有名だった私たちにそんなことが起こるなど、皆思ってなかったのだろう。
私の社交界での居場所はとても居心地の悪いものとなってしまった。

今回の件で義父と義姉夫婦にとってもまさかあのレオがそんなことをとショックだったようで何度も謝罪された。
私の父と兄は私に実家へ帰ってくるように何度も使いをよこしてきた。
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