23 / 54
ローズ
妻の席
しおりを挟む
国王の仕事に追われる忙しい日々を過ごすサミュエルに、せめて朝夕の食事だけでも時間を合わせて一緒にといわれたローズはその日、夕餉の席に足を運んだ。
国王としての仕事以外はブリアナに寄り添っている愛しい夫に振り向いてもらえない寂しさを堪えつつも、食事だけでも一緒にというサミュエルの気持ちを嬉しく思った。
そこはいつも、夫婦のほかに、ルイスとブリアナも時間が合えば食事に同席できるようになっていて、ただ、国王と王妃夫妻の席の位置だけは決められていた。
部屋に到着したローズは、思わず足を止めた。
納得のいかない顔のルイスと、仲良く国王夫妻の席に座るサミュエルとブリアナがいたのだった。
「ローズ様…申し訳ないのだけれど、どうしてもここに来るとウィリアム様との楽しかった食事の時間を思い出してしまうの。私がこの席を使うことを許していただけるかしら…。」
ブリアナの声はさも、申し訳なさそうに震えていたが、サミュエルから見えないようにしているその表情は厭らしい笑みを含んでいるのをルイスもローズも見逃さなかった。
サミュエルもわずかに申し訳なさそうにしているものの、ブリアナが自分の妻の席に座っている状況を満足げに見ているのを目にたローズは拒否することができなかった。
美味しいはずの食事は、ローズには何の味も感じることはできなかった。
会話も全く頭の中に入ってくることはなく、ローズは早々に席を立った。
「ローズ義姉さん。」
「ルイス様。」
「申し訳ない。ブリアナ義姉さんがあんなことをいいだすなんて。いや、あの人ならあれくらい普通にやりそうな気もするが…。ローズ義姉さん、申し訳ない。兄さんがブリアナ義姉さんを止めてくれたらよかったんだけど…。」
「ルイス様。ルイス様のせいじゃありません。どうかこれ以上私に謝らないでくださいませ。」
「しかし…。」
やるせない気持ちでいたのだろうルイスに、大丈夫だと言い聞かせその場を後にしたローズだった。
部屋に戻ったローズは、先ほどの光景を思い浮かべると、あれはまるでサミュエルがまだ婚約者だった時にブリアナと逢瀬を繰り返した光景のようだったと悲しく思った。
こんな時、ウィリアムがいたらきっと自分を助けてくれただろうにと、今は亡きウィリアムの存在の大きさを改めて感じ、もういなくなってしまったウィリアムを想い涙を流した。
国王としての仕事以外はブリアナに寄り添っている愛しい夫に振り向いてもらえない寂しさを堪えつつも、食事だけでも一緒にというサミュエルの気持ちを嬉しく思った。
そこはいつも、夫婦のほかに、ルイスとブリアナも時間が合えば食事に同席できるようになっていて、ただ、国王と王妃夫妻の席の位置だけは決められていた。
部屋に到着したローズは、思わず足を止めた。
納得のいかない顔のルイスと、仲良く国王夫妻の席に座るサミュエルとブリアナがいたのだった。
「ローズ様…申し訳ないのだけれど、どうしてもここに来るとウィリアム様との楽しかった食事の時間を思い出してしまうの。私がこの席を使うことを許していただけるかしら…。」
ブリアナの声はさも、申し訳なさそうに震えていたが、サミュエルから見えないようにしているその表情は厭らしい笑みを含んでいるのをルイスもローズも見逃さなかった。
サミュエルもわずかに申し訳なさそうにしているものの、ブリアナが自分の妻の席に座っている状況を満足げに見ているのを目にたローズは拒否することができなかった。
美味しいはずの食事は、ローズには何の味も感じることはできなかった。
会話も全く頭の中に入ってくることはなく、ローズは早々に席を立った。
「ローズ義姉さん。」
「ルイス様。」
「申し訳ない。ブリアナ義姉さんがあんなことをいいだすなんて。いや、あの人ならあれくらい普通にやりそうな気もするが…。ローズ義姉さん、申し訳ない。兄さんがブリアナ義姉さんを止めてくれたらよかったんだけど…。」
「ルイス様。ルイス様のせいじゃありません。どうかこれ以上私に謝らないでくださいませ。」
「しかし…。」
やるせない気持ちでいたのだろうルイスに、大丈夫だと言い聞かせその場を後にしたローズだった。
部屋に戻ったローズは、先ほどの光景を思い浮かべると、あれはまるでサミュエルがまだ婚約者だった時にブリアナと逢瀬を繰り返した光景のようだったと悲しく思った。
こんな時、ウィリアムがいたらきっと自分を助けてくれただろうにと、今は亡きウィリアムの存在の大きさを改めて感じ、もういなくなってしまったウィリアムを想い涙を流した。
428
お気に入りに追加
5,537
あなたにおすすめの小説

そういう時代でございますから
Ruhuna
恋愛
私の婚約者が言ったのです
「これは真実の愛だ」ーーと。
そうでございますか。と返答した私は周りの皆さんに相談したのです。
その結果が、こうなってしまったのは、そうですね。
そういう時代でございますからーー
*誤字脱字すみません
*ゆるふわ設定です
*辻褄合わない部分があるかもしれませんが暇つぶし程度で見ていただけると嬉しいです

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる