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ローズ
茶会での茶番劇1
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その日、少しばかり早く到着してしまったローズを迎えたサミュエルの側近が気を利かせて、王宮の庭園で色とりどりに綺麗に咲き誇っている花園に案内をかってでてくれた。
案内された花々は、筆舌に尽くしがたいほど美しく、かといって控えめで甘い香りを放っていた。
丁度ガゼボが見えてきたのでそこで休憩でもしようかと近づいた時、花々の隙間から婚約者となったサミュエルがブリアナをその腕に囲うように抱きしめているのを目撃したのだった。
「ああ…可哀そうに。大変であろうブリアナ嬢の心情をなぜ兄上は分かってあげられないのだろうか…。こんなにあなたが涙を流しているのを見るのは私にとって一番つらいことだ…。せめてあなたが少しでも笑顔になれるといいのだが。そうだ。気晴らしに今度一緒に出掛けよう。そして何かあなたへ贈らせてもらえないだろうか。」
「サミュエル殿下…。いつもそのようなお心遣いをしていただいてありがとうございます。殿下の前ではなぜかいつも情けない自分を見せてしまっていて恥ずかしいですわ…。でも、このようなことを繰り返してしまってはローズ様に申し訳なくて…。」
「何を言っているんですか、ブリアナ嬢。ローズ嬢だって妃教育を受ける身なのだから、あなたのつらい気持ちは痛いほどわかるはずだ。落ち込むあなたを放っておけるほど私は冷たい人間にはなれません。私と距離を置こうなんて言わないでくれ…。」
「ああ…サミュエル殿下…」
「ブリアナ嬢…」
別にサミュエル殿下に婚約者として何かを期待していた訳ではないが、何とも陳腐な茶番劇を見ている気分になってしまった。
こうなればこの後この男とお茶をするなんて拷問以外の何物でもないと溜息を押し殺した。
案内された花々は、筆舌に尽くしがたいほど美しく、かといって控えめで甘い香りを放っていた。
丁度ガゼボが見えてきたのでそこで休憩でもしようかと近づいた時、花々の隙間から婚約者となったサミュエルがブリアナをその腕に囲うように抱きしめているのを目撃したのだった。
「ああ…可哀そうに。大変であろうブリアナ嬢の心情をなぜ兄上は分かってあげられないのだろうか…。こんなにあなたが涙を流しているのを見るのは私にとって一番つらいことだ…。せめてあなたが少しでも笑顔になれるといいのだが。そうだ。気晴らしに今度一緒に出掛けよう。そして何かあなたへ贈らせてもらえないだろうか。」
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