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お似合いの二人
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煌びやかな王宮での夜会で、ひときわ目立つ男女一組が華麗で息の合うダンスを披露していた。
「本当に、絵にかいたようなお二人ですこと…。」
「羨ましいですわ…。わたくしもあのように陛下に見つめられてみたいですわ…。」
「お似合いのお二人だわ…。息もぴったりで、まるで長年連れ添った夫婦のよう…。」
そこはまるで二人だけの世界のようにダンスを披露しているその男には、周囲の声が聞こえていないのだろう。
ゆっくりとしたワルツの音楽に合わせて、男は女の腰に手を回し、女はその身を男に全て任せて密着している。
数週間前、サミュエルの兄ウィリアム前国王が毒殺された。
国内外はこの事件に強い衝撃を受け混乱を極めたが、その事件の犯人はまだ特定されていない。
そして今日、私の夫であるサミュエルが前国王である兄の死を受け、新たな国王になった。
大変優秀で、国内外問わず支持を受けていた前国王ウィリアムを偲ぶと同時に、新たに王となったサミュエルを祝うための宴がその日開かれていた。
今回の戴冠式とそれを祝う宴では、前国王の死を受け、皆黒を基調としたドレスを纏っていたし、ダンスを踊る二人もそれに従っているのだが、どうしてもそこだけ鮮やかに色づいているようにローズには見えた。
ポキンと、また一つ心が折れる音が聞こえたような気がした。
あとどのくらい、私の心はこの状態に耐えてくれるのだろうか。
ワルツのゆったりした音楽はまるで二人の為のように流れており、皆が新たな王とそのダンスの相手に注目をしていたため、ローズの気持ちを慮るものは少なかった。
「ふっ…。全く皆さんのおっしゃっている通り、本当にお似合いのお二人だわ…。」
「王妃様…。」
「王妃様だなんて…。ごきげんよう、お父様…。」
「ローズ…」
幸せそうな二人を呆然と今日も眺めるだけの娘を気遣う父ハーゲンシュタイン公爵の目は全く笑ってはおらず、笑顔を張り付けているがその怒りのオーラが滲み出ていた。
「本当に、絵にかいたようなお二人ですこと…。」
「羨ましいですわ…。わたくしもあのように陛下に見つめられてみたいですわ…。」
「お似合いのお二人だわ…。息もぴったりで、まるで長年連れ添った夫婦のよう…。」
そこはまるで二人だけの世界のようにダンスを披露しているその男には、周囲の声が聞こえていないのだろう。
ゆっくりとしたワルツの音楽に合わせて、男は女の腰に手を回し、女はその身を男に全て任せて密着している。
数週間前、サミュエルの兄ウィリアム前国王が毒殺された。
国内外はこの事件に強い衝撃を受け混乱を極めたが、その事件の犯人はまだ特定されていない。
そして今日、私の夫であるサミュエルが前国王である兄の死を受け、新たな国王になった。
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「王妃様…。」
「王妃様だなんて…。ごきげんよう、お父様…。」
「ローズ…」
幸せそうな二人を呆然と今日も眺めるだけの娘を気遣う父ハーゲンシュタイン公爵の目は全く笑ってはおらず、笑顔を張り付けているがその怒りのオーラが滲み出ていた。
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