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第50話 最後の区切り
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家で言ったとおり、妹とは家を出てからすぐに別れた。今は走って学校を目指している。
すぐそこ、というところまでやってきて、見覚えのある男が僕の前に立ちふさがっているのが見えてきた。
タレカの父だ。
おのれフリーランス。いや個人事業主か? この際どっちでもいいが、時間の融通とか言ってないでどこか行ってくれ!
「タレカ!」
どうやら、僕の念は伝わらなかったようで男は叫びながらこちらへ走ってくる。
反射的に、ぴくりと体が反応してしまう。ここ最近で僕の精神の方が、僕イコール成山タレカと学習してしまったらしい。
だが、今はもうタレカじゃない。タレカならきっと、もう校舎の中だろう。
一応、キョロキョロと周囲を見回すも、それらしい人影は見つからなかった。やはり校舎入ったのだ。つまり、タレカの父は無視でいいだろう。
精神的に追い詰められて幻覚でも見るようになったか、と思いつつ学校へ向かって再び走ろうとすると、ガッチリと僕の肩を掴まれた。
なんというデジャヴ。
「タレカ! こっちを見ろ。タレカ!」
飛びついてきたタレカの父は、僕のことを学校へは行かせまいと強い力で掴んできている。
今なら、肉体的にもそこまで脅威じゃないと思うが、反射的に体はすくんで動かない。一度経験した恐怖が完全には拭えていないらしい。
マジか。
思考が回っているのに、体の方が言うことを聞かない。
「タレカ、いい加減にしろ。遊びはここまでだ」
キレているらしいタレカの父は、僕の顔面にツバを飛ばしながら、何やら色々なことを言ってくる。
動画の再生が回らなくなっただの、お前が勝手な行動をしたせいだの、弟の方は一人で再生を取ろうとして困るだの。完全に成山家の事情で、遠谷メイトに戻った僕としては対処できないものだった。
「な。わかるだろタレカ。いい加減にするんだ。これまでは大目に見てきたが、そろそろ頃合いじゃないか。大人になれ」
「いい加減にしろはこっちのセリフだわ。話す相手を間違えてるだろ」
一瞬だけタレカの父はきょとんとした顔をして固まった。
それから、苦虫でも噛み潰したように顔をしかめた。
「それもキャラか? たしかに強制すればなんとかなるだろうが、そんな話し方をするように教えてつもりはない」
「いやそもそも、あんたからは何も教わってないんだよ。僕が誰だかわかってないだろ」
「わかってる! 間違えるはずがあるものか。この髪はタレカの」
「痛っ」
ブチブチッ、と数本毛が抜けたような音とともに、ビリッ、と何かがちぎれる音がした。
困惑する父を前に、僕は一歩距離を取って、触れられた後頭部を確かめる。すると、何やら紙のような感触があった。
そっとはがして見てみると、それはタレカに渡していたお札。入れ替わり時に使えるという触れ込みだった、自分の姿を相手に見せる札だった。
「あれ……」
いや、おかしい。破れてしまったが、あくまでこのお札は自分の姿を見せるはず。そのはずなのだが、どう考えても僕がタレカに間違われていた。
つまりこれは、対になっているだけで、自分に見えるのではなく、タレカに見える札だったってことか……?
「え、誰……? 男……? いや、そんなはず」
少しずつ状況が読めてきた僕に対して、父は額に脂汗を浮かべながら、怒りを恐怖へと変貌させていた。
何が起きているのかわからない。そんな様子で、イヤイヤをする子どものように首を左右に振りながら、一歩、また一歩と僕から後ずさっている。
「なんで。どうして。どうひてタレカじゃない?」
「初めから言ってるだろ。別人だって」
「……」
目の前で起きていることが理解できないらしくタレカの父は何も言わない。
「あんたみたいな無礼な人間に丁重な対応を取る必要はない」
動揺した様子の父は、悔しそうに顔を歪めたが、自分の先ほどの行動を思い出したのか、口を開けただけで、その口からは何も言葉は聞こえてこない。
代わりに、恐ろしいものでも見たように怯え返って、うあうあ、とよくわからない音が漏れていた。
「何か言うことは?」
「あ、あの。人違いで大変失礼な対応をしてしまい。申し訳ございませんでした」
ぼそぼそとかろうじて聞こえる声で父は言った。
「だから言ったろ。誰と間違えてんだって。娘を娘として見てないから、こんな紙切れで騙されるんだよ」
僕の妹は紙切れだけじゃ完全には騙せなかった。今朝だって僕を僕だと看破していた。にもかかわらず、目の前の男は、僕がタレカに見えていたのだ。
しかし、僕の言ってることが理解できないらしく、完全に精神がやられた様子でタレカの父は何度もごめんなさいと謝ってくる。
「僕が求めているのはそういうことじゃないんだよ。それに謝る相手が違うだろ」
「すいません。ごめんなさい」
今の状態では話ができないらしい。平謝りで切り抜けてきた人種なのかもしれない。
落ち着いた時にタレカに対して対応を変えてくれるといいのだが。
「メイト……」
「え……」
話しかけにくそうな声が、僕の背中に投げかけられた。
僕は驚いて後ろを振り返った。
歩いてきていたのは、本物の成山タレカだった。
そのまま僕を通り過ぎて、父親の方へと向かうタレカ。
「タレカ、あああああ!」
僕に何か言うより先に、タレカは父隣に立つと、ふっと、その耳を吹いた。
すると、タレカの父はびくんと大きく体を跳ねさせて、いきなりその場に倒れ込んだ。
「耳が弱いのは家族で一緒なのよ。さ、この場はアレに任せていきましょ」
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
きっと遠目にやり取りを見ていたのだろう。
タレカが僕を見つけてからは、タレカの描いたシナリオどおりだったってことか。
すぐそこ、というところまでやってきて、見覚えのある男が僕の前に立ちふさがっているのが見えてきた。
タレカの父だ。
おのれフリーランス。いや個人事業主か? この際どっちでもいいが、時間の融通とか言ってないでどこか行ってくれ!
「タレカ!」
どうやら、僕の念は伝わらなかったようで男は叫びながらこちらへ走ってくる。
反射的に、ぴくりと体が反応してしまう。ここ最近で僕の精神の方が、僕イコール成山タレカと学習してしまったらしい。
だが、今はもうタレカじゃない。タレカならきっと、もう校舎の中だろう。
一応、キョロキョロと周囲を見回すも、それらしい人影は見つからなかった。やはり校舎入ったのだ。つまり、タレカの父は無視でいいだろう。
精神的に追い詰められて幻覚でも見るようになったか、と思いつつ学校へ向かって再び走ろうとすると、ガッチリと僕の肩を掴まれた。
なんというデジャヴ。
「タレカ! こっちを見ろ。タレカ!」
飛びついてきたタレカの父は、僕のことを学校へは行かせまいと強い力で掴んできている。
今なら、肉体的にもそこまで脅威じゃないと思うが、反射的に体はすくんで動かない。一度経験した恐怖が完全には拭えていないらしい。
マジか。
思考が回っているのに、体の方が言うことを聞かない。
「タレカ、いい加減にしろ。遊びはここまでだ」
キレているらしいタレカの父は、僕の顔面にツバを飛ばしながら、何やら色々なことを言ってくる。
動画の再生が回らなくなっただの、お前が勝手な行動をしたせいだの、弟の方は一人で再生を取ろうとして困るだの。完全に成山家の事情で、遠谷メイトに戻った僕としては対処できないものだった。
「な。わかるだろタレカ。いい加減にするんだ。これまでは大目に見てきたが、そろそろ頃合いじゃないか。大人になれ」
「いい加減にしろはこっちのセリフだわ。話す相手を間違えてるだろ」
一瞬だけタレカの父はきょとんとした顔をして固まった。
それから、苦虫でも噛み潰したように顔をしかめた。
「それもキャラか? たしかに強制すればなんとかなるだろうが、そんな話し方をするように教えてつもりはない」
「いやそもそも、あんたからは何も教わってないんだよ。僕が誰だかわかってないだろ」
「わかってる! 間違えるはずがあるものか。この髪はタレカの」
「痛っ」
ブチブチッ、と数本毛が抜けたような音とともに、ビリッ、と何かがちぎれる音がした。
困惑する父を前に、僕は一歩距離を取って、触れられた後頭部を確かめる。すると、何やら紙のような感触があった。
そっとはがして見てみると、それはタレカに渡していたお札。入れ替わり時に使えるという触れ込みだった、自分の姿を相手に見せる札だった。
「あれ……」
いや、おかしい。破れてしまったが、あくまでこのお札は自分の姿を見せるはず。そのはずなのだが、どう考えても僕がタレカに間違われていた。
つまりこれは、対になっているだけで、自分に見えるのではなく、タレカに見える札だったってことか……?
「え、誰……? 男……? いや、そんなはず」
少しずつ状況が読めてきた僕に対して、父は額に脂汗を浮かべながら、怒りを恐怖へと変貌させていた。
何が起きているのかわからない。そんな様子で、イヤイヤをする子どものように首を左右に振りながら、一歩、また一歩と僕から後ずさっている。
「なんで。どうして。どうひてタレカじゃない?」
「初めから言ってるだろ。別人だって」
「……」
目の前で起きていることが理解できないらしくタレカの父は何も言わない。
「あんたみたいな無礼な人間に丁重な対応を取る必要はない」
動揺した様子の父は、悔しそうに顔を歪めたが、自分の先ほどの行動を思い出したのか、口を開けただけで、その口からは何も言葉は聞こえてこない。
代わりに、恐ろしいものでも見たように怯え返って、うあうあ、とよくわからない音が漏れていた。
「何か言うことは?」
「あ、あの。人違いで大変失礼な対応をしてしまい。申し訳ございませんでした」
ぼそぼそとかろうじて聞こえる声で父は言った。
「だから言ったろ。誰と間違えてんだって。娘を娘として見てないから、こんな紙切れで騙されるんだよ」
僕の妹は紙切れだけじゃ完全には騙せなかった。今朝だって僕を僕だと看破していた。にもかかわらず、目の前の男は、僕がタレカに見えていたのだ。
しかし、僕の言ってることが理解できないらしく、完全に精神がやられた様子でタレカの父は何度もごめんなさいと謝ってくる。
「僕が求めているのはそういうことじゃないんだよ。それに謝る相手が違うだろ」
「すいません。ごめんなさい」
今の状態では話ができないらしい。平謝りで切り抜けてきた人種なのかもしれない。
落ち着いた時にタレカに対して対応を変えてくれるといいのだが。
「メイト……」
「え……」
話しかけにくそうな声が、僕の背中に投げかけられた。
僕は驚いて後ろを振り返った。
歩いてきていたのは、本物の成山タレカだった。
そのまま僕を通り過ぎて、父親の方へと向かうタレカ。
「タレカ、あああああ!」
僕に何か言うより先に、タレカは父隣に立つと、ふっと、その耳を吹いた。
すると、タレカの父はびくんと大きく体を跳ねさせて、いきなりその場に倒れ込んだ。
「耳が弱いのは家族で一緒なのよ。さ、この場はアレに任せていきましょ」
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
きっと遠目にやり取りを見ていたのだろう。
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