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第47話 図書館でお勉強

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 一緒に帰って途中で別れると思って学校を出たのだが、なんだかタレカの先導で歩いていたら普段と違う景色になってきた。

 別に誘拐されているわけでもないのに、いつも同じように過ごしている僕としては、急に落ち着かない気持ちになって、胸がそわそわしてきた。

「昼の感じからして、それぞれの家に行くんだと思ってたんだけど、違うのか? こっちは僕の家の方向でもないよな?」

「もう少しで戻れそうなんでしょ? なら、やっておきたいことをやっておこうと思って」

 ここよ、と示されたのは近くの図書館だった。

 もう少し先まで行けば、さらに所蔵数が多い図書館もあるのだが、近い方の図書館の方が利便性は高い。

 はたと、昨日の夜に見たノートの内容を思い出した。

『またやりたいことリスト』その中に、こなしていないものとして印象に残っていたもの。そのうちの一つが図書館で勉強、ということだった。

「どうしたの? そんなところでぼーっとして。何かわかったの?」

 不思議そうに振り返るタレカを追いかけるように僕は少し駆けた。

「いや、なんでもない。タレカの方こそ、急にこんなところに来て何がしたいんだ?」

「だから言ったでしょ。やりたいことよ。別にヒントがあるわけじゃないわ」

 それからにやっとタレカは笑うと、僕の額を小突いてきた。

 つかれた箇所を押さえつつタレカを見やる。

「なに?」

「出来の悪い妹に勉強を教えるのは、やってみたかったことなのよ」

 くすくす笑いつつタレカは図書館へ入っていく。

「おい、待ってくれ。やりたいことを口にしてくれるのはいいが、その言い方はどうなんだ?」

 ちょっと声が大きかったせいか、周囲の人が迷惑そうににらんできた。

 ペコペコと頭を下げると、またしてもタレカが面白がるように笑んでいた。

 まんまとハメられた感じだ。

「はあ……」

 気を取り直して、図書館の中に目をやる。

 そういえば、最近はあまり来ていなかった気がする。

 空調がきいているせいか、少しひんやりするものの、タレカ行きつけのあのスーパーほど寒いとは感じない。

 とはいえ、久しぶりの図書館は何故だか少し緊張する。

 周りにどんなものがあったか見回しながら歩いていると、突然立ち止まったタレカとぶつかった。

「どうしたのよ本当に」

「いや、どんなだったかと思って」

「来ないの?」

「来ると思うか?」

「でしょうね」

 やれやれという感じで息を吐くと、タレカの方は、慣れた様子でカウンターのお姉さんと会話をすると何やら予約? を取り付けたらしかった。

 成山さんのお友だち? なんて聞かれているところを見ると、タレカの方は顔が知られているようだ。

 わからないながらに会釈をして、再度移動。

 いつからか予約制になった机までくると、タレカはスクールバックを置いて座った。

「思ってたより空いてて助かったわ」

「そう、なのか」

「そこそこ混むのよ。人気スポットだから」

「ふーん?」

 今は妹扱いに甘んじているが、どうも新しい場所ってのは苦手だ。遊園地の次くらいに苦手かもしれない。と言っても、ここは一度以上来たことがあるはずなのだが。

「にしても、わざわざ図書館で勉強ってのは、どうなんだ?」

「いいじゃない。なんだか青春って感じでしょ」

「かもしれないけど」

「それに、ここには流石に私の家族も来ないわよ」

 グッとサムズアップして言うタレカの顔には、もうかげりは見えない。

 勝手な意見だが、タレカファミリーの三人は三人とも、特別な用がなければ図書館には来ない人たちに思える。

 なるほど。だからこそ特別な場所なのかもしれない。

「まだやってない課題があったはずだし、それにするか」

「数学だったかしら? メイトは数学得意なの?」

「全教科平均点前後の得点で赤点を回避している僕に得意教科があるとすれば」

「微妙ね。もう少しわかりやすくならないの?」

「人をキャラクターみたいに扱わないでもらいたい」

 ヒソヒソとツッコミを入れつつ、タレカの隣で課題を解く。

 一応、タレカの家でだって同じような状況にはなっていたが、なんだか図書館という環境のせいか、はたまた隣に座るタレカのせいか、心拍が変な感じになっている。

 いつもよりも静かなせいで、息遣いまで聞こえるようで、問いの内容が頭に入ってこない。

 僕は今、何をしているんだっけ?

「メイト、そこ間違ってる」

「え?」

「ほらここ。一つ前の問題と同じ数値になってる。単純なミスだし、テストだったらもったいないわよ」

「ほんとだ」

 よく見直してみると、全部の問題で一つ前の問題の数値を使って解いていた。

 なんとも器用なミスだが、どうにも目が滑る。

「計算の進め方は、そうね。四問目以外は合ってそうじゃない?」

「え。いや」

 計算ミスもしていた。

 というか人の宿題なのに何をやっているんだ。これはタレカのものとして評価されるのに。

「まったく、ダメな妹は教えがいがあるわね」

「ダメで悪かったな。それに、ミスだけだからな。教わってない」

 すねつつ消しゴムをかけると、タレカはくすくす笑うのだった。

「なんだよ」

「いいえ。料理だって上達したんだから、きっと、メイトはやればできちゃうんだろうなと思って」

「……急になんだよ」

「頑張りましょ。勉強はできるようになると面白いわよ」

「言っとくけど、そこまで悪くはないからな」
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