キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK

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第46話 タレカの誤解

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「お姉さんが可哀想よ」

 タレカが出し抜けに言ってきた。

 いつもの場所のようになった僕らの溜まり場。人通りの少ない場所のベンチにて、タレカの発言。

「ん、ん?」

 僕としては、タレカのいきなりすぎる言葉に、全く話が飲み込めないのだが、タレカは、僕の家のことをここまで我慢していたらしく、ようやく話せたからか、すっきりしてるように見えた。

 しかし、お姉さん……?

「ん? じゃないわよ。お姉さんでしょ?」

「待ってくれ。僕には妹しかいないぞ」

「???」

 今度は僕の言葉を受けて、タレカの方が困惑気味に首をかしげた。

 若干不安になってきたのか、表情の余裕がなくなってきているように見える。

「どういうこと? 私、もしかして他の人に家に行っちゃったのに、童島さんの道具のおかげで、なんとか助かったってことなの?」

「いや、そんな道具ではないはずだから」

 流石に、僕が預かっている謎のペンダントは、どこの家に入っても、その家の子どもとして迎えてもらえるタイプのアイテムではないはずだ。

 となると……?

 考えられる可能性は一つ。

 あの妹は、タレカに対しても普段通りに接した。そうして、姉もいると勘違いしたタレカが、妹の姉ごっこを真に受けた。それによって、妹は気をよくして異変に気づくことがなかった。QED、証明終了。

「多分それは妹だよ。一応どっちでもあってるけど、僕にとっては妹だから」

「何それ」

「いいから。そういう概念なんだ」

「キセキのせい?」

「生まれた時から」

 なぞなぞ? と聞かれたが、そんなところ、と軽く返す。

 きっとそんなに重要なことでもない。

「それで、その妹がどうしたんだ?」

 僕の言葉に不満そうに口をとがらすタレカだったが、僕の対応を見て諦めたらしく、肩を落として僕の目を見てきた。

「妹さんなら妹さんで余計によ。あんないい子がメイトと同じ屋根の下にいるなんて信じられないわ。もっと大切にしないとダメよ」

 ビシッと人差し指で刺されてしまった。

 問答無用で僕が悪者扱いされている。

「待ってくれ。被害者は僕の方だ」

「普段は兄で力も強いのに被害者ヅラするなんて、メイトって卑怯なのね」

「卑怯って、いや、どんな会話があったか知らないが、物理的攻勢に出ることが必ずしも相手を御する方法じゃないということはタレカなら」

「はいはい」

 僕の言い分を聞きもせず、タレカは両手を打った。

「とにかく! 仲がいいんだから、優しくしてあげなさい」

「…………わかったよ」

「それでよろしい」

 満足げなタレカに、ここは僕が折れておいた。

 実際、昔はそこまで仲が悪かったわけでもない。

 双子ということもあり、いつもずっと一緒にいたし、それは両親にしてみれば心配になるくらいだったそうだ。けれど、今はそうでもない。男女ということもあって、距離感が難しいのだ。

 仲がいいように映ったのなら、それは……。

「そういえば、性別はどうやって処理されたんだ?」

「忘れたの? これがあると女の子扱いされるじゃない」

 僕の唐突な質問に、タレカはあっさり答えた。

 やっぱりそうか。

 女子同士のシスターズなら、仲がよくても問題はない。それはそれで別の問題があったかもしれないが、それでも、元が仲がよかっただけに、そういう世界線として落ち着いているということなのだろう。

 しかし、あの妹と一緒にいて、いい子、か。

 それにしても改めて、やっぱり家族にも効くのか。あのマジックアイテム。

「タレカの様子だと、もう戻ってもおかしくなさそうだけどな」

「そうでもないわよ。初めてのことだし、いっぱいいっぱいだったわ」

「そうなのか」

 有り合わせの弁当を食べ進めつつ、話も一段落したのか、タレカの言葉はスローダウン。

 持たされたらしい弁当箱を、やたら嬉しそうに進めるタレカは、擬似家族をまっとうできたように見える。

 あとはやはり、続けたいというタレカの気の持ちようか。

「何よ」

 ぼうっと横顔を見ていたら、タレカが鋭い目で僕のことを見てきた。

「い、いや?」

 誤魔化すように首を振って料理を口に運ぶ。

 ただ、下手な芝居じゃ誤魔化せなかったらしく、うまくやっているタレカとは違い、僕の本物の大根演技じゃタレカのことは化かせなかった。

「見てたじゃない。メイトの方からも何か話があるんじゃないの? 一人だったし、ね?」

「そ、そういうんじゃないって」

 本当はノートのことを聞こうか迷っていたのだが、ただ勝手に見てしまっただけに、うかうか口にできない。

「じゃあ何よ」

「あれだよあれ、えっとー……」

 なんとかネタを捻り出そうと視線をさまよわせて思い出そうとしてるフリをする。

 何かないかと思い出せたのは、やはり目の前のこと。

「料理。やっぱり僕がやるとうまくいかないなって思ったんだよ。それに比べて、タレカの料理はうまいなって。それだけじゃない。家事とか全般、タレカが全部自分でやってたのかと思うと、頭が上らないと思っただけだよ」

「と、当然でしょ」

 少し赤くなりながら、タレカは慌てて玉子焼きを口に入れた。

「いつも言ってるけど、やればうまくなるものだから」

「やっててもこんなだけどね」

 僕は弁当箱の中身を見つつ言う。中に入った崩れた具材から、実力の差は埋められなかったと少し落胆。

「上手よ。メイトだって」

 煽てたのがバレたのかと、一瞬どきりとしたが、タレカは気にせず、僕の弁当から昨日の残りであるおひたしを奪った。

「うん。いけるわ」

「本当か?」

「ええ。腕を上げたわね」

 タレカの微笑みからは、かすかにさびしさが感じられた。

「一人にして、ごめんなさいね。あれはこたえるわよね」

 タレカの言葉に、玄関でふと浮かんだ思考を思い出す。

 ひんやりとした胸の冷える感じだ。

 ただ、僕はすぐに首を振った。

「全然。気にならないよ。僕はぼっちだぜ? 一人は慣れっこだよ」

「そう言ってもらえるとありがたいわ」

「だからさ、もう少しだけ続けてみよう」

 空になった弁当箱にフタをして僕はベンチを立った。
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