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第38話 買ってきてくれるのか?
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「だまされた……」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。楽しかったでしょ?」
「うーん……」
「やっぱり楽しかったんじゃない。楽しそうに叫んでたもんね」
「今のはうなったんだし、そういう叫びじゃないような……」
ゲロゲロの気分になりながら、僕はまたしても、人が避けてくれるほどのよろめき具合で近くのベンチにもたれかかった。健康器具並みにもたれかかっているけれど、気道は確保できているだろうか……。
隣に座ったタレカも、今回は少しだけ申し訳なさそうに小さくなっていた。
「本当にダメなんだ。冗談とか、そういう芸風じゃなくって」
「芸風ってなんだよ。そう。本当にダメ。休憩を取れば多少いけるかもしれないけど、いかんせん苦手なんだよな」
「ここに来るまでも結構ダメージ負ってたもんね。私、電車で酔ってる人初めて見たわよ」
「ああ……まあね」
苦笑いする僕にタレカはおかしそうに声を漏らして笑った。
今の症状は乗り物酔いではないのだろうが、それでも乗り物は苦手だった。学校の遠足とか修学旅行なんかは、僕のぼっちという特性以前に、乗り物酔いが酷すぎて基本的に内容を覚えていない。それくらいには弱点だ。そのせいで、終わった後の作文なんかは、死ぬほど難易度が高かった。あれは僕にとって、旅のしおりから内容をおぼろげながら引っ張り出す作業だ。
「ん?」
鈍くなった感覚でもわかるほど僕の体は引っ張られていた。
頭から伝わる温かい感触から人に触れているとわかる。ふんわり僕の着てる服と同じ匂いがしてきて、それがタレカのものだとわかる。
急に密着してきたのかと思ったが、違った。弱った僕を見かねたように抱き寄せていたようだ。
「よーしよしよし」
それだけにとどまらず、タレカは僕の頭を優しく撫でてきた。まるで母性でも感じてそうな優しい表情で、タレカはゆっくりと、そして何度も僕の頭を撫でてくる。
「なにしてんの」
「いや、メイトが妹らしく振る舞ってくれてるのに、私がそれに乗っからないのは失礼だと思って」
天然みたいなことを言ってるタレカから僕はシュバっと離れた。
ああ……と、タレカが少しだけさみしそうな声を漏らしたが、スルーだ、スルー。
「妹がいるメイトは妹らしさが人より抜きん出てるよね」
「僕は別に妹になりたいわけじゃない」
「いやいや、そうやって照れて離れるところとか、まさにっ妹って感じなのでは?」
ニヤニヤ笑いを浮かべるタレカは手招きして僕を誘う。
本当、僕を手玉に取らせたらこいつは一番なんじゃないだろうか。僕の妹じゃ、僕にうまいこと恥をかかせることはない。すぐに手が出て口が出る。
「仕方ないわね。今はこの辺にしておきましょうか」
「ここから先はないと思うぞ」
警戒しつつ隣に座るとタレカがばっと動き出すので、僕は慌てて立ち上がった。
「冗談よ。なにもしてないじゃない。かわいいわね」
「うっさい」
クスクス笑うタレカを見つつ、僕は口をとがらせて再度隣に座った。
甘やかされてるんだかなんなんだか、よくわからないが、おかげで多少気分は落ち着いてきた、か?
新しい衝撃で上書きされただけな気もするが、いつもの調子には近づいていると思う。
「そろそろ軽食にしましょうか」
「何かあるのか?」
カバンの方を見たが、タレカは首を横に振った。
「売ってるものよ」
「ポップコーンとかだっけ?」
「チュロスとどっちがいい?」
「おすすめで」
「わかったわ」
メイトは動くとすぐ迷子になるだろうから、と待機させられ、待つこと数分強。
思っていたよりも早くに戻ってきたタレカは、両手に一本ずつ棒状のものを持っていた。おそらくチュロスの方だろう。よく見るとどちらも色が違う。
「こっちがチョコでこっちがシナモン」
「いや、わからんて。好きな方選んでいいよ」
「じゃあシナモンあげる」
「ん」
タレカに差し出されるまま、僕はほのかに温かさが残る紙の部分を持った。口に入れようとして、じっと見ているタレカの視線を感じ取り、僕は首を戻す。
「何か入ってないだろうな」
「入ってないわよ。疑いすぎ」
肩を小突かれ反省する。
すぐにチュロスを口に入れて噛みちぎる。シナモンの香りと甘さ、それに揚げ物特有の温かさと油分が混ざり合って絶妙だった。硬めの食感もこれはこれで面白い。
「一口ちょうだい」
「こっちは嫌いなんじゃなかったのか?」
「比較的苦手なだけ。どっちも好きよ」
「ふーん?」
「私のもいいわよ」
言われて差し出されたチュロスをかじる。
こっちはこっちでチョコって感じでしっかり甘い。チョコなのにあったかいってのが不思議な感じだ。
「意外といけるな」
「これは大丈夫なのね」
「無限に食えって言われたら無理だけど」
「言えてる」
お互い食べさせあったことには触れず、僕はなんとはなしに体を正面に戻した。
ふっと視線を感じる。それもタレカからではない。
自分の体を見下ろすが、特別ミスを冒したとも思えなかった。怪我をしてるとか、スカートがめくれてるとかでもなさそうだ。
それなのに、なぜだかカメラが向いている。
首をかしげチュロスをかじるも、そんな僕の違和感を感じ取ったのか、タレカはなぜだか申し訳なさそうにスカートの裾を掴んでいた。
「人聞きの悪いこと言わないでよ。楽しかったでしょ?」
「うーん……」
「やっぱり楽しかったんじゃない。楽しそうに叫んでたもんね」
「今のはうなったんだし、そういう叫びじゃないような……」
ゲロゲロの気分になりながら、僕はまたしても、人が避けてくれるほどのよろめき具合で近くのベンチにもたれかかった。健康器具並みにもたれかかっているけれど、気道は確保できているだろうか……。
隣に座ったタレカも、今回は少しだけ申し訳なさそうに小さくなっていた。
「本当にダメなんだ。冗談とか、そういう芸風じゃなくって」
「芸風ってなんだよ。そう。本当にダメ。休憩を取れば多少いけるかもしれないけど、いかんせん苦手なんだよな」
「ここに来るまでも結構ダメージ負ってたもんね。私、電車で酔ってる人初めて見たわよ」
「ああ……まあね」
苦笑いする僕にタレカはおかしそうに声を漏らして笑った。
今の症状は乗り物酔いではないのだろうが、それでも乗り物は苦手だった。学校の遠足とか修学旅行なんかは、僕のぼっちという特性以前に、乗り物酔いが酷すぎて基本的に内容を覚えていない。それくらいには弱点だ。そのせいで、終わった後の作文なんかは、死ぬほど難易度が高かった。あれは僕にとって、旅のしおりから内容をおぼろげながら引っ張り出す作業だ。
「ん?」
鈍くなった感覚でもわかるほど僕の体は引っ張られていた。
頭から伝わる温かい感触から人に触れているとわかる。ふんわり僕の着てる服と同じ匂いがしてきて、それがタレカのものだとわかる。
急に密着してきたのかと思ったが、違った。弱った僕を見かねたように抱き寄せていたようだ。
「よーしよしよし」
それだけにとどまらず、タレカは僕の頭を優しく撫でてきた。まるで母性でも感じてそうな優しい表情で、タレカはゆっくりと、そして何度も僕の頭を撫でてくる。
「なにしてんの」
「いや、メイトが妹らしく振る舞ってくれてるのに、私がそれに乗っからないのは失礼だと思って」
天然みたいなことを言ってるタレカから僕はシュバっと離れた。
ああ……と、タレカが少しだけさみしそうな声を漏らしたが、スルーだ、スルー。
「妹がいるメイトは妹らしさが人より抜きん出てるよね」
「僕は別に妹になりたいわけじゃない」
「いやいや、そうやって照れて離れるところとか、まさにっ妹って感じなのでは?」
ニヤニヤ笑いを浮かべるタレカは手招きして僕を誘う。
本当、僕を手玉に取らせたらこいつは一番なんじゃないだろうか。僕の妹じゃ、僕にうまいこと恥をかかせることはない。すぐに手が出て口が出る。
「仕方ないわね。今はこの辺にしておきましょうか」
「ここから先はないと思うぞ」
警戒しつつ隣に座るとタレカがばっと動き出すので、僕は慌てて立ち上がった。
「冗談よ。なにもしてないじゃない。かわいいわね」
「うっさい」
クスクス笑うタレカを見つつ、僕は口をとがらせて再度隣に座った。
甘やかされてるんだかなんなんだか、よくわからないが、おかげで多少気分は落ち着いてきた、か?
新しい衝撃で上書きされただけな気もするが、いつもの調子には近づいていると思う。
「そろそろ軽食にしましょうか」
「何かあるのか?」
カバンの方を見たが、タレカは首を横に振った。
「売ってるものよ」
「ポップコーンとかだっけ?」
「チュロスとどっちがいい?」
「おすすめで」
「わかったわ」
メイトは動くとすぐ迷子になるだろうから、と待機させられ、待つこと数分強。
思っていたよりも早くに戻ってきたタレカは、両手に一本ずつ棒状のものを持っていた。おそらくチュロスの方だろう。よく見るとどちらも色が違う。
「こっちがチョコでこっちがシナモン」
「いや、わからんて。好きな方選んでいいよ」
「じゃあシナモンあげる」
「ん」
タレカに差し出されるまま、僕はほのかに温かさが残る紙の部分を持った。口に入れようとして、じっと見ているタレカの視線を感じ取り、僕は首を戻す。
「何か入ってないだろうな」
「入ってないわよ。疑いすぎ」
肩を小突かれ反省する。
すぐにチュロスを口に入れて噛みちぎる。シナモンの香りと甘さ、それに揚げ物特有の温かさと油分が混ざり合って絶妙だった。硬めの食感もこれはこれで面白い。
「一口ちょうだい」
「こっちは嫌いなんじゃなかったのか?」
「比較的苦手なだけ。どっちも好きよ」
「ふーん?」
「私のもいいわよ」
言われて差し出されたチュロスをかじる。
こっちはこっちでチョコって感じでしっかり甘い。チョコなのにあったかいってのが不思議な感じだ。
「意外といけるな」
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「無限に食えって言われたら無理だけど」
「言えてる」
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ふっと視線を感じる。それもタレカからではない。
自分の体を見下ろすが、特別ミスを冒したとも思えなかった。怪我をしてるとか、スカートがめくれてるとかでもなさそうだ。
それなのに、なぜだかカメラが向いている。
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