キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK

文字の大きさ
上 下
38 / 51

第38話 買ってきてくれるのか?

しおりを挟む
「だまされた……」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。楽しかったでしょ?」

「うーん……」

「やっぱり楽しかったんじゃない。楽しそうに叫んでたもんね」

「今のはうなったんだし、そういう叫びじゃないような……」

 ゲロゲロの気分になりながら、僕はまたしても、人が避けてくれるほどのよろめき具合で近くのベンチにもたれかかった。健康器具並みにもたれかかっているけれど、気道は確保できているだろうか……。

 隣に座ったタレカも、今回は少しだけ申し訳なさそうに小さくなっていた。

「本当にダメなんだ。冗談とか、そういう芸風じゃなくって」

「芸風ってなんだよ。そう。本当にダメ。休憩を取れば多少いけるかもしれないけど、いかんせん苦手なんだよな」

「ここに来るまでも結構ダメージ負ってたもんね。私、電車で酔ってる人初めて見たわよ」

「ああ……まあね」

 苦笑いする僕にタレカはおかしそうに声を漏らして笑った。

 今の症状は乗り物酔いではないのだろうが、それでも乗り物は苦手だった。学校の遠足とか修学旅行なんかは、僕のぼっちという特性以前に、乗り物酔いが酷すぎて基本的に内容を覚えていない。それくらいには弱点だ。そのせいで、終わった後の作文なんかは、死ぬほど難易度が高かった。あれは僕にとって、旅のしおりから内容をおぼろげながら引っ張り出す作業だ。

「ん?」

 鈍くなった感覚でもわかるほど僕の体は引っ張られていた。

 頭から伝わる温かい感触から人に触れているとわかる。ふんわり僕の着てる服と同じ匂いがしてきて、それがタレカのものだとわかる。

 急に密着してきたのかと思ったが、違った。弱った僕を見かねたように抱き寄せていたようだ。

「よーしよしよし」

 それだけにとどまらず、タレカは僕の頭を優しく撫でてきた。まるで母性でも感じてそうな優しい表情で、タレカはゆっくりと、そして何度も僕の頭を撫でてくる。

「なにしてんの」

「いや、メイトが妹らしく振る舞ってくれてるのに、私がそれに乗っからないのは失礼だと思って」

 天然みたいなことを言ってるタレカから僕はシュバっと離れた。

 ああ……と、タレカが少しだけさみしそうな声を漏らしたが、スルーだ、スルー。

「妹がいるメイトは妹らしさが人より抜きん出てるよね」

「僕は別に妹になりたいわけじゃない」

「いやいや、そうやって照れて離れるところとか、まさにっ妹って感じなのでは?」

 ニヤニヤ笑いを浮かべるタレカは手招きして僕を誘う。

 本当、僕を手玉に取らせたらこいつは一番なんじゃないだろうか。僕の妹じゃ、僕にうまいこと恥をかかせることはない。すぐに手が出て口が出る。

「仕方ないわね。今はこの辺にしておきましょうか」

「ここから先はないと思うぞ」

 警戒しつつ隣に座るとタレカがばっと動き出すので、僕は慌てて立ち上がった。

「冗談よ。なにもしてないじゃない。かわいいわね」

「うっさい」

 クスクス笑うタレカを見つつ、僕は口をとがらせて再度隣に座った。

 甘やかされてるんだかなんなんだか、よくわからないが、おかげで多少気分は落ち着いてきた、か?

 新しい衝撃で上書きされただけな気もするが、いつもの調子には近づいていると思う。

「そろそろ軽食にしましょうか」

「何かあるのか?」

 カバンの方を見たが、タレカは首を横に振った。

「売ってるものよ」

「ポップコーンとかだっけ?」

「チュロスとどっちがいい?」

「おすすめで」

「わかったわ」

 メイトは動くとすぐ迷子になるだろうから、と待機させられ、待つこと数分強。

 思っていたよりも早くに戻ってきたタレカは、両手に一本ずつ棒状のものを持っていた。おそらくチュロスの方だろう。よく見るとどちらも色が違う。

「こっちがチョコでこっちがシナモン」

「いや、わからんて。好きな方選んでいいよ」

「じゃあシナモンあげる」

「ん」

 タレカに差し出されるまま、僕はほのかに温かさが残る紙の部分を持った。口に入れようとして、じっと見ているタレカの視線を感じ取り、僕は首を戻す。

「何か入ってないだろうな」

「入ってないわよ。疑いすぎ」

 肩を小突かれ反省する。

 すぐにチュロスを口に入れて噛みちぎる。シナモンの香りと甘さ、それに揚げ物特有の温かさと油分が混ざり合って絶妙だった。硬めの食感もこれはこれで面白い。

「一口ちょうだい」

「こっちは嫌いなんじゃなかったのか?」

「比較的苦手なだけ。どっちも好きよ」

「ふーん?」

「私のもいいわよ」

 言われて差し出されたチュロスをかじる。

 こっちはこっちでチョコって感じでしっかり甘い。チョコなのにあったかいってのが不思議な感じだ。

「意外といけるな」

「これは大丈夫なのね」

「無限に食えって言われたら無理だけど」

「言えてる」

 お互い食べさせあったことには触れず、僕はなんとはなしに体を正面に戻した。

 ふっと視線を感じる。それもタレカからではない。

 自分の体を見下ろすが、特別ミスを冒したとも思えなかった。怪我をしてるとか、スカートがめくれてるとかでもなさそうだ。

 それなのに、なぜだかカメラが向いている。

 首をかしげチュロスをかじるも、そんな僕の違和感を感じ取ったのか、タレカはなぜだか申し訳なさそうにスカートの裾を掴んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!

コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。 性差とは何か?

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...