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第32話 仰せのままにお姫様

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 僕らは今、ショッピングモールに来ていた。

「いいのか?」

「いいって、何が?」

 買い出しではない理由で、二人して外出というはじめてのシチュエーションに、多少ドギマギしつつもタレカの様子をうかがう。だが、タレカの方は特に気にした様子もなく、不思議そうに聞き返してきた。

「また会うかもしれないだろ? その……」

「いいのよ。その時はその時でしょ。今を楽しみましょ」

 そう言って、タレカは僕の手を引いてきた。

 ちょっとした動きでふわりと広がるスカートの裾がひらひらと揺れる。

 どうして持っていたのか、女体化した僕にぴったりのサイズな、お出かけ用の服に着替えて、僕ら二人はショッピングモール内を歩き出した。

 どうして近くのショッピングモールなんかにいるのかと言えば、昨日突然、タレカが言い出したことに起因する。

 そう、「カフェに行きたい」というあれだ。

 そんな目的を満たすため、僕らはカフェを目指してショッピングモールへ訪れていた。

 とはいえ特別有名なお店ではなかったと思う。聞いたことがないわけではないが、入った事は無い。目の前を通り過ぎる時に、チラッと中を覗く程度。そんな感じのお店だ。

「これって姉妹というより、友人同士とやることなのでは?」

「いいのよ」

 僕なんかは改めてショップマップでも見ながらでないと、場所がわからなくなりそうだが、タレカは慣れた様子でつらつらと進んでいく。そのまま店内に入ると店員さんに人数を伝え、スムーズに席の方まで案内された。

 店内は静かで落ち着いた雰囲気だ。休日だが、まだそこまでお客さんの数も多くない。話し声よりも店内に流れるBGMの方が大きく聞こえるくらいだった。もっとも、ひとたび外へ出れば騒がしい喧騒のショッピングモールなので、時間が経てばこの状況も変わってしまうのかもしれない。

「まだモーニングやってるのね」

「もうこれでいいんじゃないか?」

「不満がないならそうしましょ。すいませーん」

「待て、飲み物」

「今日くらい飲んでもいいんじゃない?」

「いや」

 タレカの声に応えるように店員さんがやってくる。二人でモーニングを注文し、セットでドリンクも頼んだ。カフェインはカフェインだが、コーヒーではなく紅茶にしておいた。タレカの方はココアを頼んで店員さんは戻っていく。

 モーニングの内容としてはトーストにサラダがついた軽めながらしっかりとした量がありそうなメニューだった。

「さ、写真撮りましょ」

 僕はタレカの言葉を受けて、店内をキョロキョロ見回した。これといって面白そうなものはどこにも飾ってなさそうだ。

「何を撮るんだ?」

「自分たち?」

「なんでだよ」

「せっかく来たんだから思い出に」

「ふーん。そういうものか?」

「そういうもの」

 タレカは器用にスマホを向けてくるので、僕もその画角に収まるように身を乗り出してカメラを向いた。

 要望通りのはずだったが、カメラに映る僕の顔が頬をつかれて歪んでしまう。

「おい。何すんだよ」

「何すんだはこっちよ。何よその顔。もっと笑えないの?」

「笑ったら前みたいになるぞ」

「もう。仕方ないわね」

 ぐいぐいと頬を押されながらシャッターが切られた。カメラに映った僕の顔は片方だけつまみ上げられた感じの変顔みたいになってしまった。実物としては僕がタレカの見た目なので、タレカがいいならいいのだろう。

 そんなタレカの方はと言えば、言わずもがな、とんでもない笑顔だったんで僕はすぐに目線をそらした。凝視したら、また意識を持ってかれるからな。

「失礼します」と声がかかり、店員さんがやってきたことに気づいた。気まずそうな表情をしているところから、今のやりとりを見ていたということがなんとなくわかる。めちゃくちゃハズい。

 それでも、流石はプロと言うべきか、店員さんはほとんど表情には出さずにモーニングを置いて足早に去っていった。

 モーニングは普通に美味しくいただけた。

 こんな簡単な描写をしてしまうのも、なんだかんだタレカの飯がうまいからかもしれない。それと、おそらく本題がここにはなかったからかも。

「美味かったな。満足か?」

「すいませーん」

 お腹を伸ばしてゆっくりする僕を無視して、タレカが店員さんを呼んだ。コーヒーのおかわりかと思ったが、「このパフェください」と言って追加注文し出した。

「コーヒーじゃないのかよ」

「違うわよ。女子二人でカフェに来たのにモーニングだけ食べて帰るわけないじゃない」

 女子二人、そんな言葉を少し反すうして考えている間に、パフェは届いてしまった。

 一人で食べるには明らかに大きいサイズの特盛パフェ。

 カシャカシャスマホで撮ってから

「はい、あーん」

「なんだよ」

「なに照れてんの?」

「そんなんじゃない」

 アイスなので顔面に塗りたくられてはたまったものではなく、仕方なく口を開ける。

「顔真っ赤」

「うっさい」

 ニヤニヤして煽ってくるタレカを無視してパフェを時々いただく。これまたうまい。というより、そこそこしっかり食べたはずなのに、パフェも余裕で食べられそうだった。

 これが、お菓子好きの肉体か……。

「あの」

 突然パフェを食べているところにおばさんが声をかけてきた。

 ここまで結構騒いでいたし、料理が届くたびテンション高く写真も撮っていた。僕じゃない。タレカが、だ。だが、そのせいで、周りにとっては迷惑だったかもしれない。

 謝ろうとおばさんを見たが、しかし、怒っている様子ではなかった。むしろ、なんだか異様な雰囲気を漂わせている。別の理由で話してきた感じだった。

 それはまるで、久しぶりに会った知り合いみたいな感じだろうか。

 タレカの苦々しい表情がそのことを物語っていた。

 加えて、僕に向けられたおばさんの顔は、どことなくタレカを彷彿とさせたのだ。
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