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第29話 帰還して
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帰ってきてからも、しばらくの間、沈黙が続いた。
ひとまず、あのおっさんが家まで追ってくることはなかった。そして何より僕がタレカの家の場所を知っていことが幸いだったと思う。おかげでタレカが落ち着くまでの間、安心していられる場所を作ることができた。
そのタレカはと言えば、未だ呼吸は浅く、脂汗が額に浮かんでいる。まるで夜勤明けの父親のように憔悴した表情を浮かべていた。
いつもの元気も毒気もない。かれこれ一時間はこうしているだろうか。
「勝手になんか宣言しちゃってごめんな」
僕が謝るとタレカは首を左右に振った。気にしてないってことだと思う。
「ありがとう」
僕もできるだけ優しくほほえみ返す。
「それと、話したくないなら話さなくてもいいよ。僕は師匠と違って、キセキの専門家じゃない。だから、付随する事の取り扱いも素人だしさ」
「うん。ありがとう」
なんとか声を出している。そんな感じでタレカは小さくうなずいた。声からは震えが消えていて僕は小さく息を吐き出した。
「さて、と。料理にするか。今日は僕が作っちゃおうかな」
腕をまくり、パンっと威勢よく太ももを叩いて立ちあがろうとすると、そこでタレカが僕のスカートの裾をつまんできた。パンツを見よう、というわけじゃないよな。
「どうかしたか? これでも少しは所作を気をつけてるつもりだけど」
僕が聞くと、ふるふるとタレカは首を横に振った。どうやらパンツが見えそうだったわけでもないらしい。
うつむき加減だったタレカが、まるで懇願するような顔で僕のことを見上げてくる。その顔は先ほどスーパーで見た時のように青くなっていて、今にも倒れてしまいそうなほど白かった。
「大丈夫か?」
「今は大丈夫。大丈夫よ。だからメイト、一人で料理するのだけはやめて!」
まるで猛獣を前にした小動物のように引きつった顔で、タレカは僕のことを引き留めるように、スカートをつまんでいるのとは反対の手で、僕の手を掴んできた。
怯えたような震えが手から伝わり、落ち着いてきたはずのタレカには、またしても恐怖がよみがえってきているようだった。
って、なんで僕の料理がそんな凶器みたいに扱われてるんだよ。
「話してくれないのはいい。事情は人それぞれだからな」
「うん」
「だがなタレカ。その僕に対する過剰なまでの軽んじた態度非常にショックだ。うん。普通にショックだぞ」
「でも」
「……」
弱った様子のタレカに調子が狂い、反射的に頭をかく。
いつもならトドメを狙うように追撃を繰り出してくるはずなのだが、やはり今のタレカは本調子じゃないみたいだ。
「わかったわかった。一人じゃ料理しないよ」
「よかった」
「でも料理はやらないとだろ? 平常時なら飯を抜いてもなんとかなっても、今は食べておいた方がいい」
「だからね。一緒に作ろ?」
僕が妹役のはずなのだが、今だけは、かつての可愛かった頃の妹のように、タレカが甘えた声を出して頼んでくる。なんだこの生き物。保存しておきたい。
パシンッ! と自分のほほを張って僕はタレカの言葉にうなずいた。
「そうしよう。でも、タレカ、今、料理できるか?」
「できるよ。大丈夫。いつもやってることだもん」
頼りがいのあることを言ってくれる。それに、僕が一人で料理をしないことが、よほどの安心材料となったようだ。体の震えも顔色の悪さも気づけば改善しているように見えた。
だから、なんで僕が悪役みたいな扱いを受けてるんだよ。昨日のカレーは食えただろ。美味いって言ってたじゃないか。
そこかしこに納得のいかない展開が盛り込まれているが、僕ら二人でキッチンに入る。
昨日と同じく僕がチャーハンを作っている間にタレカが他の部分を準備してくれるみたいだ。
「ふぅ……」
「ん? どうかしたの?」
「いいや。なんでもない」
タレカから普通に心配されるのも、なんだかいつもと違うことのようで変に緊張してしまう。
だが、弱音も吐いていられない。今日は今日でタレカのヘルプを望むべくもない。こうなったら昨日と同じように現代の利器作戦といくか。
「材料はご飯と玉子と、あと色々な野菜を少々……」
「ふふっ」
口に手を当ててお上品に笑うタレカは僕の視線に気づくと少しだけほほを赤くした。
「ち、違うの。昨日とおんなじだなって思って、安心しちゃって」
「別にいいよ。お互い本調子じゃなさそうだし。気楽に行こうぜお姉ちゃん」
「……うん!」
若干、表情にいつもの鋭さを戻したのを見て僕はスマホに視線を向けた。
カレーのような見たことのあるメニューと違い、書いてあることはわかるのだが理解ができない。
そもそも、あまり料理をしないせいで焼くと炒めるの違いが曖昧だった。家庭科の授業で出てきたような気もするが、覚えられるか!
「ええい。具材はあるんだ。作り方も書いてあるんだ。この通りにやればなるようになるだろ」
タレカも何回か作っているし、家で母親がチャーハンを作っているところを見たこともある。僕はできる。僕はできる!
自分に言い聞かせるようにしてから、僕はスマホの内容を頭に叩き込み、具材をフライパンへとぶち込んだ。
これが男のチャーハンじゃあ!
ひとまず、あのおっさんが家まで追ってくることはなかった。そして何より僕がタレカの家の場所を知っていことが幸いだったと思う。おかげでタレカが落ち着くまでの間、安心していられる場所を作ることができた。
そのタレカはと言えば、未だ呼吸は浅く、脂汗が額に浮かんでいる。まるで夜勤明けの父親のように憔悴した表情を浮かべていた。
いつもの元気も毒気もない。かれこれ一時間はこうしているだろうか。
「勝手になんか宣言しちゃってごめんな」
僕が謝るとタレカは首を左右に振った。気にしてないってことだと思う。
「ありがとう」
僕もできるだけ優しくほほえみ返す。
「それと、話したくないなら話さなくてもいいよ。僕は師匠と違って、キセキの専門家じゃない。だから、付随する事の取り扱いも素人だしさ」
「うん。ありがとう」
なんとか声を出している。そんな感じでタレカは小さくうなずいた。声からは震えが消えていて僕は小さく息を吐き出した。
「さて、と。料理にするか。今日は僕が作っちゃおうかな」
腕をまくり、パンっと威勢よく太ももを叩いて立ちあがろうとすると、そこでタレカが僕のスカートの裾をつまんできた。パンツを見よう、というわけじゃないよな。
「どうかしたか? これでも少しは所作を気をつけてるつもりだけど」
僕が聞くと、ふるふるとタレカは首を横に振った。どうやらパンツが見えそうだったわけでもないらしい。
うつむき加減だったタレカが、まるで懇願するような顔で僕のことを見上げてくる。その顔は先ほどスーパーで見た時のように青くなっていて、今にも倒れてしまいそうなほど白かった。
「大丈夫か?」
「今は大丈夫。大丈夫よ。だからメイト、一人で料理するのだけはやめて!」
まるで猛獣を前にした小動物のように引きつった顔で、タレカは僕のことを引き留めるように、スカートをつまんでいるのとは反対の手で、僕の手を掴んできた。
怯えたような震えが手から伝わり、落ち着いてきたはずのタレカには、またしても恐怖がよみがえってきているようだった。
って、なんで僕の料理がそんな凶器みたいに扱われてるんだよ。
「話してくれないのはいい。事情は人それぞれだからな」
「うん」
「だがなタレカ。その僕に対する過剰なまでの軽んじた態度非常にショックだ。うん。普通にショックだぞ」
「でも」
「……」
弱った様子のタレカに調子が狂い、反射的に頭をかく。
いつもならトドメを狙うように追撃を繰り出してくるはずなのだが、やはり今のタレカは本調子じゃないみたいだ。
「わかったわかった。一人じゃ料理しないよ」
「よかった」
「でも料理はやらないとだろ? 平常時なら飯を抜いてもなんとかなっても、今は食べておいた方がいい」
「だからね。一緒に作ろ?」
僕が妹役のはずなのだが、今だけは、かつての可愛かった頃の妹のように、タレカが甘えた声を出して頼んでくる。なんだこの生き物。保存しておきたい。
パシンッ! と自分のほほを張って僕はタレカの言葉にうなずいた。
「そうしよう。でも、タレカ、今、料理できるか?」
「できるよ。大丈夫。いつもやってることだもん」
頼りがいのあることを言ってくれる。それに、僕が一人で料理をしないことが、よほどの安心材料となったようだ。体の震えも顔色の悪さも気づけば改善しているように見えた。
だから、なんで僕が悪役みたいな扱いを受けてるんだよ。昨日のカレーは食えただろ。美味いって言ってたじゃないか。
そこかしこに納得のいかない展開が盛り込まれているが、僕ら二人でキッチンに入る。
昨日と同じく僕がチャーハンを作っている間にタレカが他の部分を準備してくれるみたいだ。
「ふぅ……」
「ん? どうかしたの?」
「いいや。なんでもない」
タレカから普通に心配されるのも、なんだかいつもと違うことのようで変に緊張してしまう。
だが、弱音も吐いていられない。今日は今日でタレカのヘルプを望むべくもない。こうなったら昨日と同じように現代の利器作戦といくか。
「材料はご飯と玉子と、あと色々な野菜を少々……」
「ふふっ」
口に手を当ててお上品に笑うタレカは僕の視線に気づくと少しだけほほを赤くした。
「ち、違うの。昨日とおんなじだなって思って、安心しちゃって」
「別にいいよ。お互い本調子じゃなさそうだし。気楽に行こうぜお姉ちゃん」
「……うん!」
若干、表情にいつもの鋭さを戻したのを見て僕はスマホに視線を向けた。
カレーのような見たことのあるメニューと違い、書いてあることはわかるのだが理解ができない。
そもそも、あまり料理をしないせいで焼くと炒めるの違いが曖昧だった。家庭科の授業で出てきたような気もするが、覚えられるか!
「ええい。具材はあるんだ。作り方も書いてあるんだ。この通りにやればなるようになるだろ」
タレカも何回か作っているし、家で母親がチャーハンを作っているところを見たこともある。僕はできる。僕はできる!
自分に言い聞かせるようにしてから、僕はスマホの内容を頭に叩き込み、具材をフライパンへとぶち込んだ。
これが男のチャーハンじゃあ!
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