27 / 51
第27話 僕の実力を見せてやろう
しおりを挟む
「さあ、やって見せなさい」
「余裕だ余裕。こんなの、レシピ通りに切って入れるだけだろ?」
煽るような調子のタレカに僕がスマホでレシピを調べ始めると、タレカの顔は引きつったまま固まってしまった。
「なんだよ」
「嘘でしょ。レシピを見てる……」
「僕をなんだと思ってるんだよ」
「飯テロ」
「絶対褒めてないな。うん。わかるぞ。流石にここ数日一緒に過ごしてきたから、タレカが何を言いたいかはよーくわかる」
しかもこのタレカとかいう女、僕が包丁を持ったところしか見ていない。
確かに、持ち方は多少おぼつかないところはあったかもしれない。だが、それとこれとは別問題だ。
「タレカからのヒントはなしでいいさ。僕には、この現代の利器がある。今日は大人しく座っているがいい」
「とりあえず隣でサラダでも作ってるわね」
「あ。うん」
景気付けに盛大にカッコつけたというのに、それをスルーしてタレカはサラダ用のレタスをちぎり始めた。
本当、マイペースというかなんというか……。
気にせず、僕は用意された材料を見る。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、豚肉、カレールウ。この辺がメインか。
カレールウは家にあったもののようだ。この感じだと、実はあったのに買ってしまったということだろう。
飴色玉ねぎは僕の小手先では難しそうなので、全て煮込んで作るスタイルでいこうと思う。フライパンのなかった飯盒炊爨を再現する形だ。
「テレレッ!」
「うるさい。あと音外れてるから」
「う、うるさいのはそっちだ。それにまだ出だしだけだろ」
じゃっかん顔が熱くなるのを無視して、音楽は脳内で再生することにする。
こほんと一つ咳払いしてから、僕はまな板に野菜を並べ皮をむいて小さく切っていった。無論、皮むきに関してはタレカににらまれたので、今回はピーラーで行った。
「まずはにんじん、続いてじゃがいも、最後に玉ねぎを入れていきます」
「ねえ、それやらないとできなかったっていうネタバラシなの?」
「そっちこそいちいちツッコまないと……」
鋭い視線で僕を見るタレカは、すでにサラダを作り終えていた。そのうえ、食卓にはドレッシングを含めた調味料だけでなく、箸やスプーンも並べられている。ほとんど準備は万端らしい。
「ツッコまないと、何よ」
「いえ、なんでもないです。静かにやります」
「別に言わないとできないなら言っていいわよ?」
「違います。できます」
「なんで敬語なのよ」
申し訳なさのせいです。
なんていう心中はさておき、僕はスマホに書いてあるレシピを見ながら鍋に具材を適宜投入していった。簡易的なものなのでやるのは時間管理だ。
背後では、炊飯器が稼働している。どうやら、こっちの手配も済ませてくれていたらしい。本当、自分の世界に入ってほとんど何もしていないじゃないか。
「いや待て。ここはタレカの家なんだから、タレカは一手一手を止まらずにできるんだし、早くできるのは当然じゃないか!」
「何を当たり前のこと言ってるのよ」
そもそも、タレカは別に自分の仕事を自慢してきたわけではない。僕が勝手に萎縮しているだけだ。本当に、さっきから何をしているのだ。
ずっと、姉妹ごっこをしてるのか。
なんて、物思いにふけっていると、いい感じにカレーが煮えてきた。
「なんだかハヤシライスみたいね」
「カレーとハヤシって何が違うんだ?」
「味じゃないの?」
「そういや違うな」
なんだか使っている具材とかも微妙に違そうだが、今日はカレーライスとハヤシライスの違いを研究する会ではない。そのため、意識を目の前のカレーに戻す。
煮えたカレーの味見をして最後の調整を済ました。
「うん。バッチリだな」
「待ちなさい」
タレカの待ったが入った。
「私に貸して」
「ど、どうぞ」
僕はタレカに場所を譲った。
不思議と心臓が少し早くなって、タレカの動きから目を離せない。タレカも僕と同じようにカレーの味を確かめると、一つうなずいた。
「普通ね」
「だから普通のカレーを作ろうって話だろ?」
「いや、変な隠し味とか、嘘みたいなテクニックとかを使おうとしてない普通の味ってことよ」
「同じなのでは?」
「全然違うわよ。だって、下手だったら口に入れることもできないようなものが出来上がるじゃない」
「僕にそれを期待していたのか?」
「……」
無言になるタレカ。
「期待していたのか!」
「メイトじゃないけど、せめて指を切ってくれると良かったんだけどね」
「応急手当てしてくれたのかな?」
「キットならあるわよ」
「自分でやれと……」
何か引っかかっているようだが、過去の僕を引き合いに出されては何も言えない。
ぱっぱと盛り付け食卓へ並べた。
「お味は?」
「普通。普通ね」
「普通か」
「ええ。普通に美味しいわ」
その後も普通普通と連呼しつつ、なんだかんだ完食してくれた。
どうやら、タレカの普通はここでは褒め言葉だったみたいだ。
「その顔の方がこないだの笑顔より断然いいわよ」
「は?」
ハッとして、僕は顔を押さえた。
どんな顔をしていたのかわからずタレカを見ると、タレカが意地悪そうにニヤニヤして僕のことを見てきた。
まじでどんな顔してたんだよ。
どんどん熱くなる僕の顔を無視してタレカが食べ終えた皿を片すように立ち上がった。
「さて、カレーは作れるとわかったし、次はチャーハンかしらね」
「これまだやるの?」
「余裕だ余裕。こんなの、レシピ通りに切って入れるだけだろ?」
煽るような調子のタレカに僕がスマホでレシピを調べ始めると、タレカの顔は引きつったまま固まってしまった。
「なんだよ」
「嘘でしょ。レシピを見てる……」
「僕をなんだと思ってるんだよ」
「飯テロ」
「絶対褒めてないな。うん。わかるぞ。流石にここ数日一緒に過ごしてきたから、タレカが何を言いたいかはよーくわかる」
しかもこのタレカとかいう女、僕が包丁を持ったところしか見ていない。
確かに、持ち方は多少おぼつかないところはあったかもしれない。だが、それとこれとは別問題だ。
「タレカからのヒントはなしでいいさ。僕には、この現代の利器がある。今日は大人しく座っているがいい」
「とりあえず隣でサラダでも作ってるわね」
「あ。うん」
景気付けに盛大にカッコつけたというのに、それをスルーしてタレカはサラダ用のレタスをちぎり始めた。
本当、マイペースというかなんというか……。
気にせず、僕は用意された材料を見る。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、豚肉、カレールウ。この辺がメインか。
カレールウは家にあったもののようだ。この感じだと、実はあったのに買ってしまったということだろう。
飴色玉ねぎは僕の小手先では難しそうなので、全て煮込んで作るスタイルでいこうと思う。フライパンのなかった飯盒炊爨を再現する形だ。
「テレレッ!」
「うるさい。あと音外れてるから」
「う、うるさいのはそっちだ。それにまだ出だしだけだろ」
じゃっかん顔が熱くなるのを無視して、音楽は脳内で再生することにする。
こほんと一つ咳払いしてから、僕はまな板に野菜を並べ皮をむいて小さく切っていった。無論、皮むきに関してはタレカににらまれたので、今回はピーラーで行った。
「まずはにんじん、続いてじゃがいも、最後に玉ねぎを入れていきます」
「ねえ、それやらないとできなかったっていうネタバラシなの?」
「そっちこそいちいちツッコまないと……」
鋭い視線で僕を見るタレカは、すでにサラダを作り終えていた。そのうえ、食卓にはドレッシングを含めた調味料だけでなく、箸やスプーンも並べられている。ほとんど準備は万端らしい。
「ツッコまないと、何よ」
「いえ、なんでもないです。静かにやります」
「別に言わないとできないなら言っていいわよ?」
「違います。できます」
「なんで敬語なのよ」
申し訳なさのせいです。
なんていう心中はさておき、僕はスマホに書いてあるレシピを見ながら鍋に具材を適宜投入していった。簡易的なものなのでやるのは時間管理だ。
背後では、炊飯器が稼働している。どうやら、こっちの手配も済ませてくれていたらしい。本当、自分の世界に入ってほとんど何もしていないじゃないか。
「いや待て。ここはタレカの家なんだから、タレカは一手一手を止まらずにできるんだし、早くできるのは当然じゃないか!」
「何を当たり前のこと言ってるのよ」
そもそも、タレカは別に自分の仕事を自慢してきたわけではない。僕が勝手に萎縮しているだけだ。本当に、さっきから何をしているのだ。
ずっと、姉妹ごっこをしてるのか。
なんて、物思いにふけっていると、いい感じにカレーが煮えてきた。
「なんだかハヤシライスみたいね」
「カレーとハヤシって何が違うんだ?」
「味じゃないの?」
「そういや違うな」
なんだか使っている具材とかも微妙に違そうだが、今日はカレーライスとハヤシライスの違いを研究する会ではない。そのため、意識を目の前のカレーに戻す。
煮えたカレーの味見をして最後の調整を済ました。
「うん。バッチリだな」
「待ちなさい」
タレカの待ったが入った。
「私に貸して」
「ど、どうぞ」
僕はタレカに場所を譲った。
不思議と心臓が少し早くなって、タレカの動きから目を離せない。タレカも僕と同じようにカレーの味を確かめると、一つうなずいた。
「普通ね」
「だから普通のカレーを作ろうって話だろ?」
「いや、変な隠し味とか、嘘みたいなテクニックとかを使おうとしてない普通の味ってことよ」
「同じなのでは?」
「全然違うわよ。だって、下手だったら口に入れることもできないようなものが出来上がるじゃない」
「僕にそれを期待していたのか?」
「……」
無言になるタレカ。
「期待していたのか!」
「メイトじゃないけど、せめて指を切ってくれると良かったんだけどね」
「応急手当てしてくれたのかな?」
「キットならあるわよ」
「自分でやれと……」
何か引っかかっているようだが、過去の僕を引き合いに出されては何も言えない。
ぱっぱと盛り付け食卓へ並べた。
「お味は?」
「普通。普通ね」
「普通か」
「ええ。普通に美味しいわ」
その後も普通普通と連呼しつつ、なんだかんだ完食してくれた。
どうやら、タレカの普通はここでは褒め言葉だったみたいだ。
「その顔の方がこないだの笑顔より断然いいわよ」
「は?」
ハッとして、僕は顔を押さえた。
どんな顔をしていたのかわからずタレカを見ると、タレカが意地悪そうにニヤニヤして僕のことを見てきた。
まじでどんな顔してたんだよ。
どんどん熱くなる僕の顔を無視してタレカが食べ終えた皿を片すように立ち上がった。
「さて、カレーは作れるとわかったし、次はチャーハンかしらね」
「これまだやるの?」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
寝たふりして机に突っ伏していると近くから僕の配信について感想を言い合う美少女たちの声が聞こえてくるんだが!?
マグローK
青春
木高影斗(きだかかげと)はいじめられっ子である。
学校に居場所はなく、友人などいるわけがなく、親しい人すらいなかった。
いや、正確には一人だけ、幼なじみの入間日向(いるまひなた)だけは、影斗唯一の信頼できる人間だった。
しかしそんな日向に対しても、迷惑をかけないため、高校に入ってからは校内では他人のフリをしてもらっていた。
つまり、学校で影斗と親しくしている人物はゼロだった。
そのため、大神ヒロタカといういじめっ子とその取り巻きにいいようにされる日々が続いていた。
だが、彼は家に帰ってから本領を発揮する。
ひとたび雲母坂キララ(きららざかきらら)というバーチャル美少女の皮を被るなり、影斗はVTuberへと姿を変える。
思いつきで始めた配信者生活だったが、気づけば大人気VTuberと言われるまでになっていた。
「ここでなら僕は本当の自分でいられる」
そんな確信と心の支えがあることで、影斗は学校でもなんとか平静を保って生きていられた。
今までは。
「ねえ、キララちゃんの配信見た?」
「昨日もかわいかったよねー!」
なんと、学級委員、庄司怜(しょうじれい)の所属するグループが雲母坂キララの配信について話をしていたのだ。
思わず美少女グループの話に耳を傾けていたところ、影斗は怜に目をつけられてしまう。
不意打ちのように質問をぶつけられ、周囲の注意を集めることに。
その場ではなんとか答え、胸をなで下ろし油断していた矢先。
「あなたが雲母坂キララってこと?」
怜から確信的な質問をされる。
慌てふためく影斗だったが、その目は失望よりも期待に満ちていて?
影斗の日常はこの日を境に狂い出す。
一方、影斗をいじめていた大神はその地位を失っていく。
いじめられっ子バーチャル美少女の僕が配信している内容をクラスの美少女たちが話してるんだが!?
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
この小説は他サイトでも投稿しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。
貧乳姉と巨乳な妹
加山大静
青春
気さくな性格で誰からも好かれるが、貧乳の姉
引っ込み思案で内気だが、巨乳な妹
そして一般的(?)な男子高校生な主人公とその周りの人々とおりなすラブ15%コメディー80%その他5%のラブコメもどき・・・
この作品は小説家になろうにも掲載しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる