キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK

文字の大きさ
上 下
26 / 51

第26話 お買い物タイム

しおりを挟む
 店内に入ると少しひんやりとした空気が肌を撫でた。

 少し腕をさすりつつカートを探して引っ張り出してから近くにあったカゴを載せる。

「あら、少し慣れた様子ね」

 意外そうに言われて僕は首をかしげた。

「こんな動きに慣れた様子もないんじゃないか?」

「そうでもないわよ。買い物を全部他人任せにしてたら、もう少し手間取るだろうと思ってたもの」

「時々だけど手伝いぐらいはしてるしな」

「高校生くらいだとそういうの恥ずかしいんじゃないの?」

「それこそ人それぞれだよ。僕の場合、恥ずかしさより申し訳なさのが勝ってるだけ」

「そういうこともあるのね」

 なんだか顔を暗くしながらタレカは店内を見回し出した。夕飯の食材を探しているのだろう。今日の分だけでなく、数日分くらいの食材は買い溜めるつもりかもしれない。

「にんじんとじゃがいも、玉ねぎはこの辺にあるわね」

 僕よりよほど慣れた様子で、カゴの中にホイホイと食材が投げ込まれていく。

「あれ、僕の料理力を確かめるって話じゃなかったっけ? 食材選びから僕がやらなくていいのか?」

 僕の疑問に、サラダ用らしい野菜を品定めしていたタレカが振り返ってきた。

「どうせ同じようなの選ぶつもりだったとか言うんでしょ。内容も普通だろうし」

「普通って言うけど、普通を作ろうって話だろ?」

「変なの買うのを止めてほしかったの?」

「昨日はまだ実力の一端しか見せてない!」

 抗議する僕の言葉を軽く聞き流しつつ、タレカは納得したようにキャベツをカゴの中に入れた。

 やはり、その動きには無駄がないように見える。

 タレカは僕に対して慣れた様子とか言ってくれたが、このスーパーは来たことがない。家の近くにスーパーがあることから、遠出してまで買い物を手伝ったことはなかった。つまり、どこも似たようなものってことだろう。

 精肉コーナーで豚肉をカゴに入れ、次は魚のところかな? と思いつつ、通りに出ようとしたところで、いきなりカートごと急転換させられた。入ったのは調味料とかの一角だった。

「おい。急に押したら危ないだろ。小さい子とかいたら引いてたぞ」

「うん。そうね」

 なんだか難しい顔で、タレカは少し固まっていた。返事にもキレがない。

 見たところ、棚に並べられた調味料の中に特別おかしなものは見当たらない。一体何かあったのだろうか。

「どうかしたのか? もしかして見られたらまずいタイプの知り合い?」

 通りの先をうかがおうとしたところで、僕はタレカに肩を押されて止められる。

「カレールウがあったかどうか自信がなくて」

 苦笑いを作りつつ、タレカは不慣れな感じで棚を指差しながら確かめ出した。

「ないかもしれないなら買っとけばいいんじゃないか? すぐ腐るもんでもないだろ?」

「そうよね。そう思って追加で買っておこうかなって」

「ふーん?」

「それに、隣がお菓子コーナーなのよ」

「あんまり食べると太るぞ」

 僕が素直に思ったことを言うと、タレカは恨めしそうに僕のことをにらみつけてきた。

 しまったと思い、反射的に目線をそらす。

「女の子にそういうことを言ってると嫌われるわよ」

「でも、言わなきゃ気づけないだろ?」

「わかってるわよそれくらい。ってことがわからないの?」

「いやぁ……」

「だから言ってるでしょ。嫌われるって」

「そもそも嫌われてるから、これ以上嫌われようがない気もするけどな」

「ああ。ぼっちなメイトはそうだったわね」

「だからフォローしろよ。男子から嫌われるぞ」

「メイトは軟派な男じゃなく、硬派な男だものね。女子から嫌われることくらい大したことじゃないんでしょう」

「それはフォローになってるのか?」

 なんだか納得いかないままお菓子コーナーの棚を巡り、それからいくつか追加でカゴに入れ、レジで会計を済ませた。

「なんか悪いな。何から何まで」

「いいのよ。依頼料だと思えばね」

「なるほど」

 悠々と歩くタレカは僕のことを見て楽しそうに笑うのだった。

 対して、僕はと言えば、両腕に袋を下げて一歩一歩踏みしめるように歩いていた。

 よく考えれば誰かが持たなくてはいけないので、こうなると当然のように男が持つことになる。だが、今は男じゃないんだよー。

「なあタレカ」

「持たない」

「まだ何も言ってないぞ」

「私の名前を呼んだじゃない」

「呼んだだけで内容がわかると?」

「だいたい」

 ふふんっとご機嫌に笑うタレカは、かかとでターンして軽い足取りで歩いて行ってしまう。必死に追いかけようとスピードを上げるも、手に食い込む袋のせいであまりうまく動けない。

「ほら、必要なものは買ったのだし、さっさと帰りましょ」

「誰のせいだと思ってぇ……」

 これは太るとか言った腹いせだろうか。

 ただ、そんな仕返しはどうあれ、今のタレカからは先ほど感じた違和感はないように思えた。が、それでもやはり、いつもと違うという感覚は拭いきれない。

 どうしてタレカは急に僕のことを押したのだろう。普段のタレカからはそんなことをする奴には思えない。もしかして何かを隠しているのだろうか。

 ふと、僕の方を振り返ったタレカと目があった。

「早く帰らないと腐るわよ」

「そんな早くに腐らねぇよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寝たふりして机に突っ伏していると近くから僕の配信について感想を言い合う美少女たちの声が聞こえてくるんだが!?

マグローK
青春
 木高影斗(きだかかげと)はいじめられっ子である。  学校に居場所はなく、友人などいるわけがなく、親しい人すらいなかった。  いや、正確には一人だけ、幼なじみの入間日向(いるまひなた)だけは、影斗唯一の信頼できる人間だった。  しかしそんな日向に対しても、迷惑をかけないため、高校に入ってからは校内では他人のフリをしてもらっていた。  つまり、学校で影斗と親しくしている人物はゼロだった。  そのため、大神ヒロタカといういじめっ子とその取り巻きにいいようにされる日々が続いていた。  だが、彼は家に帰ってから本領を発揮する。  ひとたび雲母坂キララ(きららざかきらら)というバーチャル美少女の皮を被るなり、影斗はVTuberへと姿を変える。  思いつきで始めた配信者生活だったが、気づけば大人気VTuberと言われるまでになっていた。 「ここでなら僕は本当の自分でいられる」  そんな確信と心の支えがあることで、影斗は学校でもなんとか平静を保って生きていられた。  今までは。 「ねえ、キララちゃんの配信見た?」 「昨日もかわいかったよねー!」  なんと、学級委員、庄司怜(しょうじれい)の所属するグループが雲母坂キララの配信について話をしていたのだ。  思わず美少女グループの話に耳を傾けていたところ、影斗は怜に目をつけられてしまう。  不意打ちのように質問をぶつけられ、周囲の注意を集めることに。  その場ではなんとか答え、胸をなで下ろし油断していた矢先。 「あなたが雲母坂キララってこと?」  怜から確信的な質問をされる。  慌てふためく影斗だったが、その目は失望よりも期待に満ちていて?  影斗の日常はこの日を境に狂い出す。  一方、影斗をいじめていた大神はその地位を失っていく。  いじめられっ子バーチャル美少女の僕が配信している内容をクラスの美少女たちが話してるんだが!? この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません この小説は他サイトでも投稿しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

貧乳姉と巨乳な妹

加山大静
青春
気さくな性格で誰からも好かれるが、貧乳の姉 引っ込み思案で内気だが、巨乳な妹 そして一般的(?)な男子高校生な主人公とその周りの人々とおりなすラブ15%コメディー80%その他5%のラブコメもどき・・・ この作品は小説家になろうにも掲載しています。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...