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第26話 お買い物タイム
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店内に入ると少しひんやりとした空気が肌を撫でた。
少し腕をさすりつつカートを探して引っ張り出してから近くにあったカゴを載せる。
「あら、少し慣れた様子ね」
意外そうに言われて僕は首をかしげた。
「こんな動きに慣れた様子もないんじゃないか?」
「そうでもないわよ。買い物を全部他人任せにしてたら、もう少し手間取るだろうと思ってたもの」
「時々だけど手伝いぐらいはしてるしな」
「高校生くらいだとそういうの恥ずかしいんじゃないの?」
「それこそ人それぞれだよ。僕の場合、恥ずかしさより申し訳なさのが勝ってるだけ」
「そういうこともあるのね」
なんだか顔を暗くしながらタレカは店内を見回し出した。夕飯の食材を探しているのだろう。今日の分だけでなく、数日分くらいの食材は買い溜めるつもりかもしれない。
「にんじんとじゃがいも、玉ねぎはこの辺にあるわね」
僕よりよほど慣れた様子で、カゴの中にホイホイと食材が投げ込まれていく。
「あれ、僕の料理力を確かめるって話じゃなかったっけ? 食材選びから僕がやらなくていいのか?」
僕の疑問に、サラダ用らしい野菜を品定めしていたタレカが振り返ってきた。
「どうせ同じようなの選ぶつもりだったとか言うんでしょ。内容も普通だろうし」
「普通って言うけど、普通を作ろうって話だろ?」
「変なの買うのを止めてほしかったの?」
「昨日はまだ実力の一端しか見せてない!」
抗議する僕の言葉を軽く聞き流しつつ、タレカは納得したようにキャベツをカゴの中に入れた。
やはり、その動きには無駄がないように見える。
タレカは僕に対して慣れた様子とか言ってくれたが、このスーパーは来たことがない。家の近くにスーパーがあることから、遠出してまで買い物を手伝ったことはなかった。つまり、どこも似たようなものってことだろう。
精肉コーナーで豚肉をカゴに入れ、次は魚のところかな? と思いつつ、通りに出ようとしたところで、いきなりカートごと急転換させられた。入ったのは調味料とかの一角だった。
「おい。急に押したら危ないだろ。小さい子とかいたら引いてたぞ」
「うん。そうね」
なんだか難しい顔で、タレカは少し固まっていた。返事にもキレがない。
見たところ、棚に並べられた調味料の中に特別おかしなものは見当たらない。一体何かあったのだろうか。
「どうかしたのか? もしかして見られたらまずいタイプの知り合い?」
通りの先をうかがおうとしたところで、僕はタレカに肩を押されて止められる。
「カレールウがあったかどうか自信がなくて」
苦笑いを作りつつ、タレカは不慣れな感じで棚を指差しながら確かめ出した。
「ないかもしれないなら買っとけばいいんじゃないか? すぐ腐るもんでもないだろ?」
「そうよね。そう思って追加で買っておこうかなって」
「ふーん?」
「それに、隣がお菓子コーナーなのよ」
「あんまり食べると太るぞ」
僕が素直に思ったことを言うと、タレカは恨めしそうに僕のことをにらみつけてきた。
しまったと思い、反射的に目線をそらす。
「女の子にそういうことを言ってると嫌われるわよ」
「でも、言わなきゃ気づけないだろ?」
「わかってるわよそれくらい。ってことがわからないの?」
「いやぁ……」
「だから言ってるでしょ。嫌われるって」
「そもそも嫌われてるから、これ以上嫌われようがない気もするけどな」
「ああ。ぼっちなメイトはそうだったわね」
「だからフォローしろよ。男子から嫌われるぞ」
「メイトは軟派な男じゃなく、硬派な男だものね。女子から嫌われることくらい大したことじゃないんでしょう」
「それはフォローになってるのか?」
なんだか納得いかないままお菓子コーナーの棚を巡り、それからいくつか追加でカゴに入れ、レジで会計を済ませた。
「なんか悪いな。何から何まで」
「いいのよ。依頼料だと思えばね」
「なるほど」
悠々と歩くタレカは僕のことを見て楽しそうに笑うのだった。
対して、僕はと言えば、両腕に袋を下げて一歩一歩踏みしめるように歩いていた。
よく考えれば誰かが持たなくてはいけないので、こうなると当然のように男が持つことになる。だが、今は男じゃないんだよー。
「なあタレカ」
「持たない」
「まだ何も言ってないぞ」
「私の名前を呼んだじゃない」
「呼んだだけで内容がわかると?」
「だいたい」
ふふんっとご機嫌に笑うタレカは、かかとでターンして軽い足取りで歩いて行ってしまう。必死に追いかけようとスピードを上げるも、手に食い込む袋のせいであまりうまく動けない。
「ほら、必要なものは買ったのだし、さっさと帰りましょ」
「誰のせいだと思ってぇ……」
これは太るとか言った腹いせだろうか。
ただ、そんな仕返しはどうあれ、今のタレカからは先ほど感じた違和感はないように思えた。が、それでもやはり、いつもと違うという感覚は拭いきれない。
どうしてタレカは急に僕のことを押したのだろう。普段のタレカからはそんなことをする奴には思えない。もしかして何かを隠しているのだろうか。
ふと、僕の方を振り返ったタレカと目があった。
「早く帰らないと腐るわよ」
「そんな早くに腐らねぇよ!」
少し腕をさすりつつカートを探して引っ張り出してから近くにあったカゴを載せる。
「あら、少し慣れた様子ね」
意外そうに言われて僕は首をかしげた。
「こんな動きに慣れた様子もないんじゃないか?」
「そうでもないわよ。買い物を全部他人任せにしてたら、もう少し手間取るだろうと思ってたもの」
「時々だけど手伝いぐらいはしてるしな」
「高校生くらいだとそういうの恥ずかしいんじゃないの?」
「それこそ人それぞれだよ。僕の場合、恥ずかしさより申し訳なさのが勝ってるだけ」
「そういうこともあるのね」
なんだか顔を暗くしながらタレカは店内を見回し出した。夕飯の食材を探しているのだろう。今日の分だけでなく、数日分くらいの食材は買い溜めるつもりかもしれない。
「にんじんとじゃがいも、玉ねぎはこの辺にあるわね」
僕よりよほど慣れた様子で、カゴの中にホイホイと食材が投げ込まれていく。
「あれ、僕の料理力を確かめるって話じゃなかったっけ? 食材選びから僕がやらなくていいのか?」
僕の疑問に、サラダ用らしい野菜を品定めしていたタレカが振り返ってきた。
「どうせ同じようなの選ぶつもりだったとか言うんでしょ。内容も普通だろうし」
「普通って言うけど、普通を作ろうって話だろ?」
「変なの買うのを止めてほしかったの?」
「昨日はまだ実力の一端しか見せてない!」
抗議する僕の言葉を軽く聞き流しつつ、タレカは納得したようにキャベツをカゴの中に入れた。
やはり、その動きには無駄がないように見える。
タレカは僕に対して慣れた様子とか言ってくれたが、このスーパーは来たことがない。家の近くにスーパーがあることから、遠出してまで買い物を手伝ったことはなかった。つまり、どこも似たようなものってことだろう。
精肉コーナーで豚肉をカゴに入れ、次は魚のところかな? と思いつつ、通りに出ようとしたところで、いきなりカートごと急転換させられた。入ったのは調味料とかの一角だった。
「おい。急に押したら危ないだろ。小さい子とかいたら引いてたぞ」
「うん。そうね」
なんだか難しい顔で、タレカは少し固まっていた。返事にもキレがない。
見たところ、棚に並べられた調味料の中に特別おかしなものは見当たらない。一体何かあったのだろうか。
「どうかしたのか? もしかして見られたらまずいタイプの知り合い?」
通りの先をうかがおうとしたところで、僕はタレカに肩を押されて止められる。
「カレールウがあったかどうか自信がなくて」
苦笑いを作りつつ、タレカは不慣れな感じで棚を指差しながら確かめ出した。
「ないかもしれないなら買っとけばいいんじゃないか? すぐ腐るもんでもないだろ?」
「そうよね。そう思って追加で買っておこうかなって」
「ふーん?」
「それに、隣がお菓子コーナーなのよ」
「あんまり食べると太るぞ」
僕が素直に思ったことを言うと、タレカは恨めしそうに僕のことをにらみつけてきた。
しまったと思い、反射的に目線をそらす。
「女の子にそういうことを言ってると嫌われるわよ」
「でも、言わなきゃ気づけないだろ?」
「わかってるわよそれくらい。ってことがわからないの?」
「いやぁ……」
「だから言ってるでしょ。嫌われるって」
「そもそも嫌われてるから、これ以上嫌われようがない気もするけどな」
「ああ。ぼっちなメイトはそうだったわね」
「だからフォローしろよ。男子から嫌われるぞ」
「メイトは軟派な男じゃなく、硬派な男だものね。女子から嫌われることくらい大したことじゃないんでしょう」
「それはフォローになってるのか?」
なんだか納得いかないままお菓子コーナーの棚を巡り、それからいくつか追加でカゴに入れ、レジで会計を済ませた。
「なんか悪いな。何から何まで」
「いいのよ。依頼料だと思えばね」
「なるほど」
悠々と歩くタレカは僕のことを見て楽しそうに笑うのだった。
対して、僕はと言えば、両腕に袋を下げて一歩一歩踏みしめるように歩いていた。
よく考えれば誰かが持たなくてはいけないので、こうなると当然のように男が持つことになる。だが、今は男じゃないんだよー。
「なあタレカ」
「持たない」
「まだ何も言ってないぞ」
「私の名前を呼んだじゃない」
「呼んだだけで内容がわかると?」
「だいたい」
ふふんっとご機嫌に笑うタレカは、かかとでターンして軽い足取りで歩いて行ってしまう。必死に追いかけようとスピードを上げるも、手に食い込む袋のせいであまりうまく動けない。
「ほら、必要なものは買ったのだし、さっさと帰りましょ」
「誰のせいだと思ってぇ……」
これは太るとか言った腹いせだろうか。
ただ、そんな仕返しはどうあれ、今のタレカからは先ほど感じた違和感はないように思えた。が、それでもやはり、いつもと違うという感覚は拭いきれない。
どうしてタレカは急に僕のことを押したのだろう。普段のタレカからはそんなことをする奴には思えない。もしかして何かを隠しているのだろうか。
ふと、僕の方を振り返ったタレカと目があった。
「早く帰らないと腐るわよ」
「そんな早くに腐らねぇよ!」
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