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第24話 料理力を見せてもらいましょう
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「ほら起きなさい!」
いきなり布団をひっぺがされそうになり、僕は奪われまいと必死に布団を掴んだ。
「まだ早いだろ? 昨日はこんな早く起きてなかったじゃないかぁ」
眠い中で寝続けたいがために必死になって抵抗するが、寝起きすぐの体は思うように動いてくれず、どうやらすでに目覚めてしばらくのタレカには力で勝つことができなかった。僕を守る布団は簡単に奪われてしまい、だらしなく寝ていた僕の姿が容赦なくさらされる。
「なにすんだよぉ。早朝トレーニングでも始めるのか? まだ寝てようぜ」
「似たようなものだけど違うわ」
「あのなタレカ、眠りの邪魔も恐ろしいんだぞ?」
「なに? 私に何かしようと言うのかしら?」
いつまでもベッドの上でゴロゴロする僕に冷ややかな声が浴びせられた。
朝の日差しから顔を守っていた腕の隙間からタレカを見ると、その表情は驚くほどの無表情だった。
え、怖い。昨日は、いや、昨日まで連日で結構気を回していい感じに過ごせていたと思うんだけど……。
タレカの顔を見た後では、気づくと眠気は吹き飛んでいて、頭は不思議なほど冴えていた。
ぱっちり開いた僕の目を見てタレカが優しくほほえんだ。
「どうやら目は覚めたみたいね。ほら、起きなさい」
「わかったよ」
頭を振りつつ僕はベッドから出る。
特に低血圧とかいうわけでもないのだが、それにしたっていつもより早く起きるというのはこたえるものだ。
そりゃ、毎日毎日全部の家事をやってもらうわけにはいかないと頭でわかっちゃいるけれど、何の前触れもなしにというのは僕だって難しいのだ。
あくびを噛み殺しながらタレカについていくと、キッチンのところにはもうすでに作られたらしい料理の完成系が置かれていた。それも、朝食の分だけでなく、量からしてお弁当用のものも含まれていそうだ。
「え、なに? 後片付けをしろってこと? 昨日やらなかったのに?」
てっきり後片付けもできないと思われていると思ったが、そうではなかったのか。
驚いてタレカに聞くも、タレカは僕の問いに首を左右に振るだけだった。
「違うわよ。あれ、盛り付けてちょうだい。流石にそれくらいできるでしょ?」
「だからなめるなよ! 僕はそこまで料理音痴じゃないはずだぞ」
「なら見せてみなさいよ。盛り付けも料理にとっては重要な工程なんだから」
一理ある。一理あるが、そうは言ってもプロの料理人ばりの盛り付けは求められていないはずだ。なら、僕にだって当然のようにできるだろう。
徐々に明晰になってくる思考を働かせながら、僕はキッチンに並べられた料理の前に立つ。
そこで一つの疑問。これはどれが何用なのだろうということ。
タレカは何のヒントを出すつもりもないらしく、僕の横にこそ並んでいるものの、特に何も言ってこない。タレカの方を見てもほほえみを返してくれるだけだった。
「緊張するんだけど」
「ここなら失敗してもすぐに助けられるわ」
「盛り付けくらいでそこまでの大惨事にはならないと思うぞ」
信頼のなさに打ちひしがれつつ、ええいままよ、と盛り付けていく。
メニューとしてはさして昨日と変わらない。サラダを朝飯用に皿へと盛り付けて、スクランブルエッグを載せていく。そして、残ったちくわやブロッコリー、昨日と同じタコさんウインナーは弁当へと隙間なく詰める。
とにかく入れたが、昨日の持ち物のように整然となるように入れていったからかなんとかなった。それとも、近くの皿に一気に盛り付けられそうなものが乗せられていたからかな? 案外綺麗に入った。
「どうだ。これくらい僕にだってできるってことがわかったろ」
自信ありげに振り向くとタレカは微妙な表情を浮かべて固まっていた。なんというか困惑、みたいな顔でじっと僕の盛り付けた皿と弁当を見ている。
「え、なに? そんなに悪い? 結構上手くできたと思ってるんだけど……」
「そうね。考えを改める必要がありそうだわ」
「それはどういう……?」
恐る恐る聞くとタレカは優しく僕の肩に手を乗せてきた。
「本当にできるとは思ってなかったわ」
「そっちかよ! できるよ。僕は三歳児とかだと思われてるのか?」
「料理スキルだけ見ればまだ乳児レベルだと思っていたわ」
「より低年齢なのか?」
「まあでも、可愛く盛り付けるわね。私はそういう遊び心好きよ」
「おう」
最後に少しだけ褒められたようで、やはり反応に困ってしまう。自分でもちょろいとわかっているが、嬉しいなんて思ってしまう。飴と鞭というのはこういうことを言うのだろうか。
「私のヒントも気づいたみたいだし、ちゃんと知っていればできるんでしょうね」
なぜか妙に嬉しそうな感じでタレカが微笑を浮かべた。
気になってそのままタレカを見ていると、じっとりとした目でにらまれてしまった。
「何見てるのよ」
「いや、満足そうだと思って」
「ええそうね。これはお昼が楽しみだわ。さ、朝ごはん食べて準備を済ませちゃいましょ」
「はーい」
この工程に何の意味があったのか納得はいかないが、これで僕の料理力をわかってくれたのならよしとしよう。
しかし、早く起こされたからか、いつもより余裕をもって食卓につけた。昨日と同じ感じなら、学校にはゆっくり行くことができそうだ。
早起きは三文の徳ってか?
いきなり布団をひっぺがされそうになり、僕は奪われまいと必死に布団を掴んだ。
「まだ早いだろ? 昨日はこんな早く起きてなかったじゃないかぁ」
眠い中で寝続けたいがために必死になって抵抗するが、寝起きすぐの体は思うように動いてくれず、どうやらすでに目覚めてしばらくのタレカには力で勝つことができなかった。僕を守る布団は簡単に奪われてしまい、だらしなく寝ていた僕の姿が容赦なくさらされる。
「なにすんだよぉ。早朝トレーニングでも始めるのか? まだ寝てようぜ」
「似たようなものだけど違うわ」
「あのなタレカ、眠りの邪魔も恐ろしいんだぞ?」
「なに? 私に何かしようと言うのかしら?」
いつまでもベッドの上でゴロゴロする僕に冷ややかな声が浴びせられた。
朝の日差しから顔を守っていた腕の隙間からタレカを見ると、その表情は驚くほどの無表情だった。
え、怖い。昨日は、いや、昨日まで連日で結構気を回していい感じに過ごせていたと思うんだけど……。
タレカの顔を見た後では、気づくと眠気は吹き飛んでいて、頭は不思議なほど冴えていた。
ぱっちり開いた僕の目を見てタレカが優しくほほえんだ。
「どうやら目は覚めたみたいね。ほら、起きなさい」
「わかったよ」
頭を振りつつ僕はベッドから出る。
特に低血圧とかいうわけでもないのだが、それにしたっていつもより早く起きるというのはこたえるものだ。
そりゃ、毎日毎日全部の家事をやってもらうわけにはいかないと頭でわかっちゃいるけれど、何の前触れもなしにというのは僕だって難しいのだ。
あくびを噛み殺しながらタレカについていくと、キッチンのところにはもうすでに作られたらしい料理の完成系が置かれていた。それも、朝食の分だけでなく、量からしてお弁当用のものも含まれていそうだ。
「え、なに? 後片付けをしろってこと? 昨日やらなかったのに?」
てっきり後片付けもできないと思われていると思ったが、そうではなかったのか。
驚いてタレカに聞くも、タレカは僕の問いに首を左右に振るだけだった。
「違うわよ。あれ、盛り付けてちょうだい。流石にそれくらいできるでしょ?」
「だからなめるなよ! 僕はそこまで料理音痴じゃないはずだぞ」
「なら見せてみなさいよ。盛り付けも料理にとっては重要な工程なんだから」
一理ある。一理あるが、そうは言ってもプロの料理人ばりの盛り付けは求められていないはずだ。なら、僕にだって当然のようにできるだろう。
徐々に明晰になってくる思考を働かせながら、僕はキッチンに並べられた料理の前に立つ。
そこで一つの疑問。これはどれが何用なのだろうということ。
タレカは何のヒントを出すつもりもないらしく、僕の横にこそ並んでいるものの、特に何も言ってこない。タレカの方を見てもほほえみを返してくれるだけだった。
「緊張するんだけど」
「ここなら失敗してもすぐに助けられるわ」
「盛り付けくらいでそこまでの大惨事にはならないと思うぞ」
信頼のなさに打ちひしがれつつ、ええいままよ、と盛り付けていく。
メニューとしてはさして昨日と変わらない。サラダを朝飯用に皿へと盛り付けて、スクランブルエッグを載せていく。そして、残ったちくわやブロッコリー、昨日と同じタコさんウインナーは弁当へと隙間なく詰める。
とにかく入れたが、昨日の持ち物のように整然となるように入れていったからかなんとかなった。それとも、近くの皿に一気に盛り付けられそうなものが乗せられていたからかな? 案外綺麗に入った。
「どうだ。これくらい僕にだってできるってことがわかったろ」
自信ありげに振り向くとタレカは微妙な表情を浮かべて固まっていた。なんというか困惑、みたいな顔でじっと僕の盛り付けた皿と弁当を見ている。
「え、なに? そんなに悪い? 結構上手くできたと思ってるんだけど……」
「そうね。考えを改める必要がありそうだわ」
「それはどういう……?」
恐る恐る聞くとタレカは優しく僕の肩に手を乗せてきた。
「本当にできるとは思ってなかったわ」
「そっちかよ! できるよ。僕は三歳児とかだと思われてるのか?」
「料理スキルだけ見ればまだ乳児レベルだと思っていたわ」
「より低年齢なのか?」
「まあでも、可愛く盛り付けるわね。私はそういう遊び心好きよ」
「おう」
最後に少しだけ褒められたようで、やはり反応に困ってしまう。自分でもちょろいとわかっているが、嬉しいなんて思ってしまう。飴と鞭というのはこういうことを言うのだろうか。
「私のヒントも気づいたみたいだし、ちゃんと知っていればできるんでしょうね」
なぜか妙に嬉しそうな感じでタレカが微笑を浮かべた。
気になってそのままタレカを見ていると、じっとりとした目でにらまれてしまった。
「何見てるのよ」
「いや、満足そうだと思って」
「ええそうね。これはお昼が楽しみだわ。さ、朝ごはん食べて準備を済ませちゃいましょ」
「はーい」
この工程に何の意味があったのか納得はいかないが、これで僕の料理力をわかってくれたのならよしとしよう。
しかし、早く起こされたからか、いつもより余裕をもって食卓につけた。昨日と同じ感じなら、学校にはゆっくり行くことができそうだ。
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