キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK

文字の大きさ
上 下
8 / 51

第8話 着られないなら着せてあげるわよ

しおりを挟む
 視界を奪われていた僕は、結局されるがまま、タレカにあっちこっち隅々まで洗われてしまった。

 元はと言えばタレカの体なのだから、当然と言えば当然の措置だが、とは言え、高校生にもなって他人に体を洗われるというのは何とも言えない屈辱感でいっぱいだった。

「色んな意味で体が温まったんだが……」

「それはよかったわ」

「よくないだろ!」

 僕の体をもてあそんできたタレカは、なんのことだかわからないという感じで、不思議そうに小首をかしげた。

 ほんと、あっちこっち洗われて、自分のものとは思えない声が漏れるたび、耳まで熱くなったんだよ。あの恥ずかしさったらなかった。

「ドライヤーで髪も乾かしてもらったし、流石にもういいだろ?」

「ダメよ。そのままじゃ風邪ひくわ」

「パジャマくらい一人で着れるよ」

「じゃあ、はい」

 手渡された寝間着を見て、僕は思わず固まってしまった。

 確かにリラックスできそうな肩肘張らない、柔らかい素材の衣服だった。だがなんだろう、ものすごくデザインが可愛らしい。デフォルメされた動物がプリントされたそれは、本当に普段使いされているのだろうか。

 じっとタレカの方を見ると、ニヤニヤとした顔で僕のことを見てきていた。

 こいつ。わざとこんな、ザ・女の子みたいなパジャマを選んだな。他にダッサいのもあったろうに。

「あら。やっぱり着られないんじゃない。仕方ないわね。お姉ちゃんが着せてあげるわよ。メイトはいつまで経っても甘えんぼさんなんだから」

「おい待て。黙ってるからって勝手に話を進めるんじゃない!」

 しかし、この家での立ち回りは、タレカの方が一枚も二枚も上手なようで、寝間着は即座に奪われてしまった。

「くっ」

「ほら、寝巻きを渡したってことは私に着せてほしいんでしょ? なら、お姉ちゃんお願いって言ってみなさい? ちゃあんと私が着せてあげるわよ?」

「そんなプレイには屈しない。って、なんで僕がこんな立場なんだよ」

「妹だからでしょ」

「妹をなんだと思ってるんだこいつ」

 警戒しながら腕を広げるも、タレカはまた、柔和なほほえみを浮かべて僕の方へと優しく近づいてくる。

「ふっ。また耳を狙うつもりだな? だが、二度同じ手は食らわないぜ」

 僕は耳を覆った。これくらいのハンデ、受け入れなきゃ勝ち目はねぇ。

 そもそも、弱点さらして勝てるほどタレカは甘い相手じゃない。

 ただ、両手が使えないとなると、取れる行動は限られてくる。髪が濡れていれば、長髪による攻撃も可能だったが、今は乾いてしまって使えない。

 うんうんと一人思考の海に漂っていると、その間もタレカ僕の方へと近づいてきていた。

 実のところ、女の子になった僕の身長は元の体が平均身長並みだったことに引っ張られているのか、今の成山タレカの姿である僕よりも小さい。つまるところ、力こそ、元の体を維持しているかもしれないが、 背丈としては低い。つまり、あまり良い姿勢とは言えないが、手で耳をしっかりと押さえてしまえばなかなか下げさせることもできない。

 勝った。これは持久戦だ。そう思ってニヤけ顔を隠そうと顔に意識を向けていると、タレカはおもむろにその手を僕の素肌へと伸ばしてきた。

 胸かっ。体を洗われていた時の感触を思い出し、僕が一歩後ずさるも、その手は僕の胸を通り過ぎ、そのすぐそば、脇へと伸ばされ……

「あっはっはっは」

 僕はまたしても力が抜けてその場にへたりこんでしまっていた。

「ほれほれぇ。ここがいいんだろ?」

「あはっ。ひゃ、ひゃめて。あはっあはははは! いひひひひー!」

 タレカに脇をくすぐられるたび、口から笑い声が漏れて、体からどんどんと力が抜けていく。

 脳から変なものが出ているのか、快楽の波が押し寄せてきて、反射的に体がガクガクと震えてしまう。

「あひっ。やめ、やめて! おかしくなる! おかしくなりゅうううう!」

「私はね。脇をくすぐられると体に力が入らなくなるのよ」

「だからそんな自慢げに言うことじゃ、あははははは! ひー! ひー!」

 しばらくの間、夜だということも忘れて、その場で笑い転がされてから、タレカにパジャマに着せ替えられた。

 なんだか体を洗われていた時とは、また違ったくすぐったさが感じられ、その熱が体に残っているようだった。

 やっぱり、こんな歳で人に服を着せられるというのは、言いようもない恥ずかしさと、申し訳なさに襲われる。

「なんだか、風呂から上がったのに、また汗をかいちゃった気がする」

「なら、一緒に入り直す? 私は構わないわよ?」

「遠慮しとく」

 疲れを取るはずの風呂だったと思うのに、風呂に入る前よりもなんだか疲弊していた。

 ソファーに隣り合って腰かけて、今はぼんやりと、見ているのか見ていないのかわからない感じで、テレビを眺めていた。

「一緒に入って思ったんだけど」

 突然、タレカが斬り込んできた。

「何? 僕の反応が面白かった? それは結構」

「そうじゃなくて、私の体。メイト似の女の子とか言ってたけど、それこそ他の人からはどう判断されているのよ」

 ついさっき、僕らの名前の呼び方に関して、僕が話を振ったことの続きのようだ。

 タレカは不安そうに僕の顔をうかがってきた。

 キセキというものはわからないことが多く、なにぶんどういうものなのか判断がつかない。

 一般的に存在は確認されていないし、その効果がどうなるかというものも判断が分かれるものらしい。

「ねぇ。どうなの?」

 黙りこくって考えている僕に、タレカは僕の太ももに手を乗せて、ずいっと顔を寄せて聞いてくる。

「いやぁ、誠に申し上げにくいのですが、わたくしにはわからないとしか言いようがなく……」

「何よそのふざけた言い方。それに、わからないってどういうこと?」

「わからないものはわからないんだよ。僕自身の体で少し見た目を変えただけでも、存在しない誰かとして扱われたりはしなかった」

「どういうこと?」

「あくまで、人間の姿をしていれば、僕は僕だと看破された」

「じゃあ問題じゃない! こんな見た目の男の子ってことでしょ。お、襲われるわよ!」

「落ち着いて」

 混乱した様子のタレカをなだめるように、僕は両手を突き出した。

「それはあくまで僕の体に起こった場合の現象なんだよ」

「つまり?」

「キセキってのは、似たような現象でも人それぞれ微妙に結果が異なるんだ。だから、僕がタレカを女子として認識しているように、タレカの魂みたいなものに影響されて、女子として認識してもらえる、と思う、多分……」

「そう。なら明日も問題ないわね」

「明日? いや、僕の言葉を信じすぎじゃ」

 晴れやかな表情になると、タレカはその場で立ち上がった。

 それからふわぁと眠そうにあくびをした。

「安心したら眠くなってきたわ。もう寝ましょ」

「いいけど、ちなみにベッドは……?」

「一つしかないわ。当然でしょ? さ、寝るわよ」

「ですよねぇ……」

 僕がそそくさと逃げようとすると、タレカは僕の腕を引いて、ふふんと鼻を鳴らした。

 遠谷メイトは逃げられない!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寝たふりして机に突っ伏していると近くから僕の配信について感想を言い合う美少女たちの声が聞こえてくるんだが!?

マグローK
青春
 木高影斗(きだかかげと)はいじめられっ子である。  学校に居場所はなく、友人などいるわけがなく、親しい人すらいなかった。  いや、正確には一人だけ、幼なじみの入間日向(いるまひなた)だけは、影斗唯一の信頼できる人間だった。  しかしそんな日向に対しても、迷惑をかけないため、高校に入ってからは校内では他人のフリをしてもらっていた。  つまり、学校で影斗と親しくしている人物はゼロだった。  そのため、大神ヒロタカといういじめっ子とその取り巻きにいいようにされる日々が続いていた。  だが、彼は家に帰ってから本領を発揮する。  ひとたび雲母坂キララ(きららざかきらら)というバーチャル美少女の皮を被るなり、影斗はVTuberへと姿を変える。  思いつきで始めた配信者生活だったが、気づけば大人気VTuberと言われるまでになっていた。 「ここでなら僕は本当の自分でいられる」  そんな確信と心の支えがあることで、影斗は学校でもなんとか平静を保って生きていられた。  今までは。 「ねえ、キララちゃんの配信見た?」 「昨日もかわいかったよねー!」  なんと、学級委員、庄司怜(しょうじれい)の所属するグループが雲母坂キララの配信について話をしていたのだ。  思わず美少女グループの話に耳を傾けていたところ、影斗は怜に目をつけられてしまう。  不意打ちのように質問をぶつけられ、周囲の注意を集めることに。  その場ではなんとか答え、胸をなで下ろし油断していた矢先。 「あなたが雲母坂キララってこと?」  怜から確信的な質問をされる。  慌てふためく影斗だったが、その目は失望よりも期待に満ちていて?  影斗の日常はこの日を境に狂い出す。  一方、影斗をいじめていた大神はその地位を失っていく。  いじめられっ子バーチャル美少女の僕が配信している内容をクラスの美少女たちが話してるんだが!? この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません この小説は他サイトでも投稿しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

貧乳姉と巨乳な妹

加山大静
青春
気さくな性格で誰からも好かれるが、貧乳の姉 引っ込み思案で内気だが、巨乳な妹 そして一般的(?)な男子高校生な主人公とその周りの人々とおりなすラブ15%コメディー80%その他5%のラブコメもどき・・・ この作品は小説家になろうにも掲載しています。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...