キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK

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第1話 入れ替わってる!?

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 パンッ! と乾いた音が教室に響いた。

「返してよ! 私の体、返してよ!」

 高音を無理やり出そうとしている男のような、なよっとした感じの声で、僕が言ってきた。

 じんじんと叩かれた左頬が痛む。

 反射的に涙がにじんでくる。

「なんとか言いなさいよこの変態!」

 怒りで顔を真っ赤にしながら、僕は再度その手を振り上げた。

「ま、待って。落ち着いて!」

 目の前の僕に対して放った声は、僕のものとは思えないほど可愛らしく、それは目の前の僕とは対照的に、低音を頑張って出そうとしている女子のような不釣り合いな声になってしまっていた。

 それでも、僕の突き出した両手に、目の前の僕は少しだけ冷静さを取り戻したのか、振り上げた腕を下ろした。

 それからじっとりとした目で僕のことをにらんでくる。

「これはどういうこと? 遠谷とおたにくん。遠谷メイトくん」

「僕にもさっぱり。ただ、僕と成山なりやまさんが入れ替わったってことはわかる」

「こんな意味がわからないことが起きてるっていうのに、どうしてそんなに冷静でいられるわけ? やっぱり、女の子の体になれて嬉しいとかそういうこと? 信じらんない」

「そうじゃないけど、でも、こんなキセキは初めてじゃないから」

「奇跡なんて、やっぱり下心のせいでしょ。変態」

「違うんだけど、初めてなら仕方ないか」

 僕は今、女の子と入れ替わっていた。

 それも、クラスメイトの成山タレカさんとだ。

 彼女はクラスだけでなく学校でも浮いていて、腫れ物扱いされているようなとびっきりの美少女。

 たかがクラスメイトの僕は、去年も同じクラスだったが、名前を覚えられていただけでも驚きなほど住む世界が違う人間だった。

 それが今は、僕が成山さんの見かけになり、代わりに成山さんが僕の肉体になっていた。

「それで、初めてじゃないなら、解決方法もわかるんでしょ?」

「ううん」

「なんでよ!」

 キンキン声を響かせながら、成山さんが絶叫した。

 僕の体でやられるとオネエの方々みたいでちょっと背筋がゾクっとする。

「このキセキって現象は、人によって起こる内容が違うんだ」

「起こる内容が違う……?」

 僕は改めて自分の体を見下ろしてみた。

 普段なら存在しない胸の膨らみが、視界の一部で主張してくる。そのせいで思うように全身を見下ろせなかった。

 ただ、制服のスカートによるヒラヒラした感覚や、ズボンとは違うスースーとした感覚が、僕が男子用のブレザーを着ていない事実を僕へ伝えてきていた。

 僕はすでに遠谷メイトの肉体じゃない。

 僕が願った消滅願望とはどう考えても種類が違う。

「急に黙ってどうしたのよ」

「別に」

「変なこと考えたんじゃないでしょうね!」

 正直なところ、成山さんの反応は僕としては意外だった。

 普段はすんと澄ましていただけに、激しやすい性格だとは思いもしなかった。

 とか現実逃避しているところに、振り上げられた手のひらを視界に入り僕は現実へ思考を引き戻す。

「違う。違うって。状況分析だよ」

「やっぱり私の体で、その、え、えっちなこと考えたんでしょ!」

「違うって。そりゃ、成山さんの体だってことは改めて思ったけど」

「思ったんじゃない!」

「誤解だよ誤解。待って、これ成山さんの体だから。そして、男に叩かれるとめっちゃ痛いから!」

 反射的に目をつぶったが、二度目のビンタが飛んでくることはなかった。

 そっと目を開けると、成山さんが僕の手、男としての僕の手を見て動きを止めていた。

 まじまじと見ているその手は、成山さんの柔らかく小さな手と比較すれば、大きく無骨だろう。

「まだ痛むの?」

 そこで初めて心配そうに成山さんが僕に聞いてきた。

「少しは痛くなくなったけど、まだちょっと痛いかな」

 僕がとりつくろうように言うと、成山さんはほっとしたように息を吐いた。

「危うく顔にまで傷が残るところだったわ」

「僕の心配は皆無かよ!」

「つっこまないでくれる? 私、遠谷くんとそこまでの仲良くなった覚えはないんだけど」

「こんな状況になってるのにその反応はひどくない?」

「だって遠谷くん、この状況を打開できるわけじゃないんでしょ? だったら、あなたに媚びても無意味じゃない」

「それは早計だと思うけどな」

「そう言うなら何か見せてよ。経験者だって言うのなら、証拠の一つや二つ示せるんじゃないの? そうすれば私だって、多少はあなたと友好的に接する心の準備くらいするわよ」

「そこまでいったら、心の準備だけじゃなくて友好的に接してほしいんだけど」

「いいから、早くして」

 実際、下校時刻は近づいてきていて、人の少ない校内からはどんどんと生徒が帰宅していた。

 あまり長居していると、教師に目をつけられるし、こんな状態説明しようがない。

 それに、もし成山さんの言っていることを叶えるとすれば、それこそ常識人の方々にはとても見せられるようなものじゃない。

「何もしないってことは、証明できないの? それはつまり、さっきの発言が、私を言いくるめようっていう薄汚い卑しい心根から発せられた妄言だったってこと?」

「いちいち発言に毒があるけど、違うよ。本当に違う。ただ、もしかしたら嫌な気分になるかもしれないけどいいの?」

「いいわよ。もうすでに最悪に近い気分だし、これ以上悪くはそうそうならないでしょ?」

「そうですかそうですか」

 はあっと大きく息を吐いてから、僕はじっと成山さんの顔を見上げた。

 正確には僕の顔だが、細かいことはどうでもいい。

 今からどうせ変わるのだし。

「じっとしてて。抵抗しないで」

「何をする気よ」

「いいから」

「仕方ないわね」

 僕のことを警戒しながら見つめ返してくる成山さんの目を見つめたまま、僕はその頬に手を伸ばした。

 意識を集中させて、手と僕の肉体の接する感覚に集中する。

 つい最近まで体感していた、僕に起きたキセキを探る。

 どろっとした感触に触れた瞬間、僕は妹の姿を想起した。

 瞬間、目の前の僕の肉体がどろっとゲル状に溶けた。

 成山さんが驚きに目を見開いたのも束の間、瞬時に身に纏った制服ごと体を溶かす。そして次の瞬間には、成山さんと同じ、公立玉ヶ原たまがはら高校の女子制服に身を包んだ女の子の姿がそこにはあった。

「あれ……?」

 きょとんとした顔で声を漏らすと、成山さんがビクンとはねるように反応して、ペタペタと自分の体を確かめ始めた。

「戻ってる? でも、声も体も少し違う。でもでも、男の子じゃないし。何これ、嘘……」

 そこで成山さんは力が抜けたように僕の方へと倒れ込んできた。

「成山さん! 成山さん!」
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