勇者にこの世から追放された俺は妹の姿で生き返る〜妹を蘇生するため、全力で魔王討伐を目指します〜

マグローK

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第51話 コーロントでの初めての休息

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 かわいそうなほど貧相な見た目をしている案内役のガラライ。

 気にしないようにしてきたが、どうしても気になる。

 今は戦い相手も聞いてた通りの、会話ができないやからばかりのかなり面倒な道のりを案内させている。

 荒くれをラーブのスキルで女の子にしたせいか、ラーブが言うように俺が子どもに弱いのか見ているこっちが申し訳なくなってくる。

 だが特に貸し出せる装備もない。

「はー。疲れたー」

 ラーブが寄りかかってくる。

「自分で立って歩けないのか?」

「歩けるけどー。疲れたー」

 ラーブはあからさまだが、他のメンバーも準備を整えてきたとはいえ、慣れない場所のせいですでに疲労が溜まってきたのが目に見えてわかる。

 こんなところに人がいるはずもないし、装備も休みもどこか安全なところで考えるしかないか。

「ん? なんだアレ」

 遠巻きに見てもこれまでと雰囲気が違うのがわかった。

「サキュバスじゃない?」

 一応聖職者なだけあり、悪魔にも詳しいのかラーブが言った。

 尻尾や羽根の様子からしておそらくサキュバスなのだろうが、モンスターの実力としてはコーロントには不相応な気がする。

 よほど特殊な個体なのだろうか。

 ガラライの方をちろりと見ると、ラーブに隠れながら話し出した。

「力が全て、力さえあればなんでもできる。私たちの集まりはそうやって小さな集団で生活してます。ここはその一つ、サキュバスが集まるような場所です。男相手なら多分敵なしです」

 なるほど、力が弱くても男なら勝てるせいで生き残れているのか。

 つまり、男子禁制ってことか。

 まあ、チャームとか厄介そうだし、引っかかると一生エサにされるわけか。

「ですが、女性相手ならいがみ合う必要もないので人間相手でも友好的です」

「遠回りするか」

「どうしてですか? 私たちなら問題ないかと」

「ガラライちゃんもこう言ってるよ? ラウルちゃん。せっかく休めそうなところなんだよ?」

 タマミの言い分ももっともだ。

 ここまで戦闘が連続しているせいで体力消費が激しい。

 全員疲労困憊だ。

 だが。

「俺は絶対ここに入りたくない。身の危険を感じる」

「チャームなら我がいることで無効だぞ」

 神が言ってくる。

「そうです。サキュバス程度にそそのかされるラウル様ではありません!」

 ヨーリンまでもこう言ってくる。

「おにいはそもそもこんな時にぴったりのスキル持ってるじゃん」

 アルカが言いたいのは俺の変身だろう。あれはスキルと呼んでいいのかわからないが。

「別に俺がアルカの姿にもなれるのはこう言う時のためじゃないから」

 俺に抗議するようにベヒが眠そうに座り込んでしまった。

「ベヒ疲れた」

 元々巨龍だったとはいえ、今はただの幼い女の子。

 戦闘が続けば誰より疲れるか。

「ラウルちゃんって仲間のためって言いながら結構自分本位だよね」

「ぐぬぬぬぬぬ」

 永年自分本位のラーブに言われるとかなり悔しい。

「仕方ねぇ! サキュバスの村くらい入ってやってやんよ! 休めるってんなら休もうじゃねぇか!」

「行くのなら人伝で聞いた話ですが、サキュバスに対しては人間なら年下として甘える感じがいいらしいです」

「アドバイスありがとよ」

 俺が笑いかけると、ようやく少しは安心したようにガラライが笑い返してくれた。

 しかし、甘える? 甘えるってどうしたら。

「おにい、おにい」

 俺はアルカに呼び止められ、少し耳を傾けた。



「あ、あの」

「はあい?」

 今の俺はアルカと二人。

 大人っぽいサキュバスのお姉さんに今日の寝床を求めて声をかけた。

「お、わたし今日泊まる場所がないの。お姉さんに優しくしてほしいな?」

 顔がゆであがるように熱くなるのを感じる。

 これでいいのか。アルカ。なあ!

「いいわよ。うちへいらっしゃい」

 いいのか?

 さっそく家まで案内されるとそこはいかがわしい雰囲気。

「ここまで来られる人間の女の子なんていつぶりかしら。勇者のツレくらい?」

「へ、へー」

 ダメだ。このキャラクター。俺には無理だ。

 座り方も自由が効かないし、なんか落ち着かない。

 アルカの見た目でも今まで男のままでやってきたから全然できない。

 女の子って大変だ!

「もうげんか、むっ!」

 慌てた様子のアルカに口をふさがれた。

「……おとなしくしてて。女性には友好的って言ってもバレたらどうなるかわからないでしょ」

 俺はコクコクとうなずき、せめて黙っておくことにした。

「ねえ」

「はい?」

 俺の代わりに答えてくれるアルカの声に緊張感が帯びている。

「あなたたち実はかわいらしい男の子だったりしない? この辺、男のにおいがすると思わない?」

 舌なめずりをしながら、なまめかしい吐息を漏らしてサキュバスのお姉さんは頬を赤く上気させている。

 え、俺アルカの姿だよ? バレてるの?

「わたしたちは双子でお兄ちゃんいるから。ね?」

 なんて答えたらいいか慌てる俺にアルカは肘でついてくる。

「う、うん!」

「そうなの? うーん。確かに二人も男の子が目の前にいるにしてはにおいが薄い。確かに兄弟って考えると納得だわ」

 サキュバスのお姉さんは納得でも、俺はビミョーな気分なんだが。

「ごめんなさい。変な態度をとって。これがサキュバスの本能なの」

「いいえ。大丈夫ですよ」

「そう言ってもらえるとありがたいわ。その代わりと言ってはなんだけど、ここでゆっくり休んでいってもらっていいからね。この先にどんな用事があるのかは知らないけど、ここからが過酷だから」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」

「ふふふ。かわいいお客さんね」



 気づくと寝てしまっていたのか、朝だった。

「……ひっ」

 俺は慌てて布団を抱き寄せた。

 今までそこまで寝相が悪かったことはなかったが、相当寝相が悪かったのだろう。

 俺は何も着ていなかった。

 だが、なんだろう。ものすごくスッキリしている。

 今までの人生で最高の目覚めだ。

「んー! おはよう!」

「お、おはよう」

 俺は思わず目をそらす。

 アルカも服を着ていなかったからだ。

 そして、アルカはそれを気にする様子もない。

 兄妹とはいえ気にするもんじゃないか?

「目が覚めた?」

 サキュバスは裸エプロンで何やら準備をしている。

「装備は手入れさせてもらったわ。朝食も食べてって」

 結局、至れり尽くせりやってもらってしまった。

 他のところで休んでいた仲間たちも存分に休めたようだった。

 結果としては無駄な戦闘も避けられ、回復もできた。案内役の装備まで用意してくれたようだ。

 だが。

「絶対来ない! 二度と!」

 十分離れてから俺は大声で叫んだ。

「ちょっと楽しそうだったよ? おにい」

「う、うるさい!」

 とにかく先を急ぐことにした。

「……いずれ会うお姉様方によろしくね。って聞こえないか」

 手を振るサキュバスのお姉さんが何か口を動かしている気がした。
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