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第39話 大魔王に愛されて、俺の体は……
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「愛してますわ。あなた」
「へいへい。あんがと」
「口だけじゃありませんから」
影になったヨーリンの足元からくる猛烈なアピールが鬱陶しい。
愛してるなんて言ってくるがヨーリンは大魔王、モンスターの元締めだ。
「俺はとりあえず王様に魔王討伐の報告をしないといけないと思うんだ」
「貴様がそう思うならした方がいいんじゃないか? 焦っても邪神が討伐できるわけではないしな」
「そうだった」
大魔王なんてのが間に割り込んで忘れていたが、邪神も今や俺の宿敵だった。
それでも俺は、ガレキの山となった街を見つめながらやっと大魔王も倒せたのだと実感しその場にへたり込んだ。
ヨーリンが影から出てこないと知ると体から力が抜けてしまった。
「あなた。大丈夫ですか? 疲れてますの? どうしましょう。体がないので癒してあげることができません」
「何するつもりだよ。って言うか、そのあなたってのやめろ」
「ではなんと呼べば?」
「ラウルでいいから。あなたってなんか変な感じなんだよ」
「わかりました。ラウル様。大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。お前に何かやられるような状態じゃない」
ヨーリンはさっきから、ずっとこんな調子で話しかけてくる。
まあ、長いこと一人だったならわからないではない。それに、自分がこそ正義って感じだったから、今は俺と話すことが大事なんだろう。
そうだ。やっと戦いが終わったんだ。アルカのことを任せっぱなしだったし、タマミとラーブのところへ行かないと。
まともに説明しないでヨーリンと戦ってしまったからな。
「ワタクシもいいですか?」
「なんだよ。今考えを整理してるところなんだが」
「ワタクシもお前じゃなくてヨーリンという名前で読んでほしいです」
「わかったよ。ヨーリンね。めんどくさいな」
「ありがとうございます!」
表情なんてわかるはずないが、何だか物凄く笑顔になった気がする。
影も若干薄くなったような。
いや気のせいか。影が薄くなるなんてないだろ。
それで、そうだ。まずはタマミとラーブに報告だな。
「少し待ってくれ」
「何だよ今度は神かよ。あんまりうるさくするのはやめてくれないか? ヨーリンはテンションが高くてずっと独り言ぶつぶつ言ってるし、それで神まで邪魔するってどうなんだ? 俺だって一人で考えたい時もあるんだが」
「いや、それはすまないと思っている。しかし、大魔王を無力化させておいて何も与えないのはどうかと考えてな」
「何? 何かくれるの?」
神は黙り込んだ。
考えているのか何なのか。何しているのか見えないから物凄くもどかしい。
「男に戻れる力を与えようかと」
「マジ? じゃあ、邪神は?」
「それは倒してもらわねば困る。貴様もだろう?」
「だよなぁ。邪神は邪神で倒さないとだよなぁ」
となると大魔王討伐の報告はカーテットあたりに任せようかな? 多分生きてるだろうし。
「それじゃあ願いは変わらずか?」
「もちろん」
「準備はいいな?」
「ああ」
俺は尻を払って立ち上がり目をつぶった。
目をつぶっていてもわかるほど強い光が俺を取り囲むのを感じた。
アルカが戻ってきた時のように俺の体に変化が起こっているのだろう。
だが、期待して待っている俺の体は全く変化した気がしない。
光が収まっていないが俺は目を開けた。
「全然戻ってないんだけど!? しっかりやってる?」
「すでにやっている」
「本当か? 何も起こってないぞ」
光ったはずだがアルカが出てきた時のようには俺の体は変化していなかった。
てっきりすぐに戻るもんだと思っていただけに拍子抜けだ。
「おい。何も起きないぞ」
「待て、落ち着け」
「落ち着けるか! なんだって俺が戻れないんだよ。だましたな!」
「違う。そんなはずは」
「ワタクシがいるからではないですか?」
影から声がした。
冷静になったのかヨーリンが口を挟んできた。
影に大魔王がいると神の力を使えないのか?
確かに普通の神は人間にしか力を与えられないって言ってた気がするし。
「痛っ!」
突如右足に痛みが走り、俺は飛び上がった。
見てみると俺の右足とすぐ近くの影から煙が上がっている。
俺の体は戻らないってのに何が起きてるんだ?
「乗っ取りは無理なようだな」
「乗っ取りじゃありませんわ。そもそも今のワタクシにそんな力は残っていません。できることはラウル様に力を貸し与えるくらいです。しかし、影がワタクシになったせいで純粋な人間として扱われていないのかもしれません。きっとワタクシが原因です。申し訳ありません」
なんだか影が一段と暗くなった気がする。
見るからにしょぼんとしているのがわかる。
「だまされるな。相手は大魔王だ。何をするかわかったもんじゃないぞ」
「そう言うけど、俺としては願いを叶えられない神様ってのも信じにくいんだが」
「くっ」
「そうですわ! 約束を破るなんて神としてどうなんですか?」
「いや、ヨーリンもヨーリンだからな。入ってこなきゃ無事だったんだし」
「大魔王が悪い」
「神が悪いに決まってますわ」
「勝手に人の体を使ってにらみ合いするのはやめてもらおうか」
「そうだな。大魔王なんて相手にしている場合じゃあない」
「わかりましたわ。ラウル様の頼みです」
はあ。やれやれだ。
ひとまず今の話を整理すると、ヨーリンがいると神が力を使うことができず、俺は男に戻る力を手にすることができない
加えて、神がいるせいでヨーリンの力を俺が貸してもらうこともできない。
こっちは正直神のさじ加減な気もするが。
「お前ら人間を何だと思ってるの?」
「魔王を倒すための協力者。今は邪神に対してか」
「ラウル様は大切な思い人」
「他は?」
「どうでもいい生命体」
どっちもろくでなしだな。
「とりあえず、ヨーリンを影から外に出せない以上、神の力と大魔王の力を両立する方法を探さないとな」
「すべての問題を解決する方法はすでに思いついているぞ」
「そういうの早く言えよ」
神が不敵に笑っている。
見えないところでテンションが上がっているが、これもヨーリンが同居している影響だろうか。
「大魔王の力もいくらかは邪神から与えられたもののはずだ。邪神がいなくなれば力は弱まり、我の力を使うこともできよう。また大魔王の力が弱まれば、我の力に妨害されずラウルに貸すことも通り抜けられるだろう」
ヨーリンはこれでも神の力に弾かれるほど強力ってことか。
何だかいいように神に話をもっていかれている気がするが、全て解決できるねぇ。
胡散臭いが他に方法はない、か。
「邪神討伐。やってやんよ!」
「へいへい。あんがと」
「口だけじゃありませんから」
影になったヨーリンの足元からくる猛烈なアピールが鬱陶しい。
愛してるなんて言ってくるがヨーリンは大魔王、モンスターの元締めだ。
「俺はとりあえず王様に魔王討伐の報告をしないといけないと思うんだ」
「貴様がそう思うならした方がいいんじゃないか? 焦っても邪神が討伐できるわけではないしな」
「そうだった」
大魔王なんてのが間に割り込んで忘れていたが、邪神も今や俺の宿敵だった。
それでも俺は、ガレキの山となった街を見つめながらやっと大魔王も倒せたのだと実感しその場にへたり込んだ。
ヨーリンが影から出てこないと知ると体から力が抜けてしまった。
「あなた。大丈夫ですか? 疲れてますの? どうしましょう。体がないので癒してあげることができません」
「何するつもりだよ。って言うか、そのあなたってのやめろ」
「ではなんと呼べば?」
「ラウルでいいから。あなたってなんか変な感じなんだよ」
「わかりました。ラウル様。大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。お前に何かやられるような状態じゃない」
ヨーリンはさっきから、ずっとこんな調子で話しかけてくる。
まあ、長いこと一人だったならわからないではない。それに、自分がこそ正義って感じだったから、今は俺と話すことが大事なんだろう。
そうだ。やっと戦いが終わったんだ。アルカのことを任せっぱなしだったし、タマミとラーブのところへ行かないと。
まともに説明しないでヨーリンと戦ってしまったからな。
「ワタクシもいいですか?」
「なんだよ。今考えを整理してるところなんだが」
「ワタクシもお前じゃなくてヨーリンという名前で読んでほしいです」
「わかったよ。ヨーリンね。めんどくさいな」
「ありがとうございます!」
表情なんてわかるはずないが、何だか物凄く笑顔になった気がする。
影も若干薄くなったような。
いや気のせいか。影が薄くなるなんてないだろ。
それで、そうだ。まずはタマミとラーブに報告だな。
「少し待ってくれ」
「何だよ今度は神かよ。あんまりうるさくするのはやめてくれないか? ヨーリンはテンションが高くてずっと独り言ぶつぶつ言ってるし、それで神まで邪魔するってどうなんだ? 俺だって一人で考えたい時もあるんだが」
「いや、それはすまないと思っている。しかし、大魔王を無力化させておいて何も与えないのはどうかと考えてな」
「何? 何かくれるの?」
神は黙り込んだ。
考えているのか何なのか。何しているのか見えないから物凄くもどかしい。
「男に戻れる力を与えようかと」
「マジ? じゃあ、邪神は?」
「それは倒してもらわねば困る。貴様もだろう?」
「だよなぁ。邪神は邪神で倒さないとだよなぁ」
となると大魔王討伐の報告はカーテットあたりに任せようかな? 多分生きてるだろうし。
「それじゃあ願いは変わらずか?」
「もちろん」
「準備はいいな?」
「ああ」
俺は尻を払って立ち上がり目をつぶった。
目をつぶっていてもわかるほど強い光が俺を取り囲むのを感じた。
アルカが戻ってきた時のように俺の体に変化が起こっているのだろう。
だが、期待して待っている俺の体は全く変化した気がしない。
光が収まっていないが俺は目を開けた。
「全然戻ってないんだけど!? しっかりやってる?」
「すでにやっている」
「本当か? 何も起こってないぞ」
光ったはずだがアルカが出てきた時のようには俺の体は変化していなかった。
てっきりすぐに戻るもんだと思っていただけに拍子抜けだ。
「おい。何も起きないぞ」
「待て、落ち着け」
「落ち着けるか! なんだって俺が戻れないんだよ。だましたな!」
「違う。そんなはずは」
「ワタクシがいるからではないですか?」
影から声がした。
冷静になったのかヨーリンが口を挟んできた。
影に大魔王がいると神の力を使えないのか?
確かに普通の神は人間にしか力を与えられないって言ってた気がするし。
「痛っ!」
突如右足に痛みが走り、俺は飛び上がった。
見てみると俺の右足とすぐ近くの影から煙が上がっている。
俺の体は戻らないってのに何が起きてるんだ?
「乗っ取りは無理なようだな」
「乗っ取りじゃありませんわ。そもそも今のワタクシにそんな力は残っていません。できることはラウル様に力を貸し与えるくらいです。しかし、影がワタクシになったせいで純粋な人間として扱われていないのかもしれません。きっとワタクシが原因です。申し訳ありません」
なんだか影が一段と暗くなった気がする。
見るからにしょぼんとしているのがわかる。
「だまされるな。相手は大魔王だ。何をするかわかったもんじゃないぞ」
「そう言うけど、俺としては願いを叶えられない神様ってのも信じにくいんだが」
「くっ」
「そうですわ! 約束を破るなんて神としてどうなんですか?」
「いや、ヨーリンもヨーリンだからな。入ってこなきゃ無事だったんだし」
「大魔王が悪い」
「神が悪いに決まってますわ」
「勝手に人の体を使ってにらみ合いするのはやめてもらおうか」
「そうだな。大魔王なんて相手にしている場合じゃあない」
「わかりましたわ。ラウル様の頼みです」
はあ。やれやれだ。
ひとまず今の話を整理すると、ヨーリンがいると神が力を使うことができず、俺は男に戻る力を手にすることができない
加えて、神がいるせいでヨーリンの力を俺が貸してもらうこともできない。
こっちは正直神のさじ加減な気もするが。
「お前ら人間を何だと思ってるの?」
「魔王を倒すための協力者。今は邪神に対してか」
「ラウル様は大切な思い人」
「他は?」
「どうでもいい生命体」
どっちもろくでなしだな。
「とりあえず、ヨーリンを影から外に出せない以上、神の力と大魔王の力を両立する方法を探さないとな」
「すべての問題を解決する方法はすでに思いついているぞ」
「そういうの早く言えよ」
神が不敵に笑っている。
見えないところでテンションが上がっているが、これもヨーリンが同居している影響だろうか。
「大魔王の力もいくらかは邪神から与えられたもののはずだ。邪神がいなくなれば力は弱まり、我の力を使うこともできよう。また大魔王の力が弱まれば、我の力に妨害されずラウルに貸すことも通り抜けられるだろう」
ヨーリンはこれでも神の力に弾かれるほど強力ってことか。
何だかいいように神に話をもっていかれている気がするが、全て解決できるねぇ。
胡散臭いが他に方法はない、か。
「邪神討伐。やってやんよ!」
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