勇者にこの世から追放された俺は妹の姿で生き返る〜妹を蘇生するため、全力で魔王討伐を目指します〜

マグローK

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第34話 魔王を倒した報酬

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 俺は剣についた血を振り落とし、頬についた血を拭う。

 ボトッと大きな音を立て魔王の首が地面に転がった。

 魔王の手には勇者の剣が握られている。もう原型をとどめていない勇者の剣が。

 きっと元に戻らないのだろう。だが、これでベルトレットの無念も報われたはずだ。

「俺の勝ちだ」

「……」

 返事はない。

 だが安らかな笑顔を浮かべている。

 俺にやられて驚いたというよりも、安心したような顔をしている。

「なんでこんな顔してるんだよ」

「魔王の方も貴様を認めたんじゃないか」

「魔王に認められてもな」

 俺は一応王様への報告も考え、魔王の亡骸を持って壁を降りた。

 地形はボコボコにされてしまったが、この国には優秀な人材が山ほどいる。修復にそう時間はかからないだろう。

 そう言えば、魔王の方もって他に誰が認めたんだ。まあいいか。

「お」

「まあ待て」

「なんだよ」

 今も警戒しているタマミやラーブに声をかけようとすると神が俺を止めてきた。

 俺は仕方なく黙って待機することにした。

 もしかしたら魔王が復活してるかもしれないわけだし。

「まず我から言葉を送らせてくれ。魔王討伐ご苦労だった」

「……」

 俺は思わずまばたきを繰り返してしまった。

 魔王討伐。

 そうだ。俺が魔王を倒したのか。さっき確認していたが現実感がなかった。

 改めて神から言われるとやっと魔王を倒せたことが現実なんだと思えてきた。

「お、おお! あいかわらず姿は見えないが倒したぜ」

「貴様との約束だ。願いを叶える。初めの願いから変わりないか?」

 そうか。ここで叶えるのか。

「ああ。俺の妹、アルカを生き返らせてくれ」

「わかった」

 俺からは見えないが、なんだか神がうなずいた気がした。

 神が何かしたのか、どこからともなく光の粒がそこら中に現れた。

 それらは不思議と温かく懐かしい感じのする粒だった。

 バラバラだった光の粒は一箇所へ集まるとすぐに人の形へと姿を変える。

「あ、あぁ」

 見間違うはずもない俺の妹アルカの姿だ。

 光の粒は俺の見慣れたアルカの肉体へと変わった。

 なんだか違和感があるが、違和感なんて後だ後。アルカの復活が大事だ。

 俺は前から倒れてくるアルカを優しく受け止めた。

「アルカ。よかった。アルカ」

 実際に触れると、思わず涙が込み上げてくる。グッと我慢しようとするが、今さら止められない。泣き顔をさらすなんて兄失格だな。

 でも、アルカが生き返ってくれてよかった。

 長いようで短かった魔王討伐までの道のり、それを達成できたのもアルカを生き返らせたい思いがあったからだ。

 話をしよう。ここまでの話を。

 やはり、家族は俺にとって何より大切なものだったんだから。

「アルカ。俺な」

「ちょ、ちょっと何するの!」

「……え?」

 意識が戻ったのか、アルカは俺を突き放した。

 突然のことに理解が追いつかない。

 どうしてだろう。それに目線の高さが全く同じような。

「誰? わたし? どうして。まさかそういうモンスター?」

「ま、待て待て! 待ってくれ!」

 構えようとするアルカを止め、俺は頭を押さえた。ショックのせいか、視界がおぼろげになる。

 全身から急に力が抜け、膝からその場に崩れ落ちる。

「……お、おい神。話と違うぞ」

 そう言おうとしたが、震えでまともに声が出せない。体にうまく力が入らない。

 頭が真っ白になる。なんだ。何も考えられない。

「モンスターじゃないの? じゃあ、そっくりさんってこと? というか、わたしなんで生きてるんだろ。確かおにいを生き返らせるために……」

「……記憶喪失じゃないのか?」

「うん。わたしは自分を犠牲にして神様におにいを復活させてもらった」

「そうか! やっぱりアルカなのか! じゃあ、俺が誰かわかるんじゃないか?」

「もしかしておにい?」

「そうだ。ラウルだよ!」

 立てない俺にアルカは抱きついてきた。

 だんだんと意識が戻ってくる。

 よかった。アルカが生き返った。

 魔王も倒せた。

 これで俺はようやくゆっくり暮らせるんだ。

「でも、おにい。わたしになってるよ? これはどういうこと?」

「えーと」

 アルカに指摘されて俺は自分の体を確かめる。

 そして、目の前のアルカと見比べる。

「ある。な、いった!」

「何してんの!」

「いや、だって俺の体に戻ってないから」

 声もそういえば高いままだ。

 体が戻ってないなら、そりゃ目線がアルカと同じ高さなわけだ。

「俺の見た目アルカのままじゃねぇかあああああ! おい! 神これはどういうことだ」

「神様いるの?」

「ああ。俺の首から生えてくるらしい」

「もっと言い方を選べ」

「俺には見えないんだから仕方ないだろ」

 驚く様子のアルカを見れば、神が現れているんだろうとわかる。

 だが、俺には見えないから本当に説明する気があるのかはわからない。

「我は」

「お前の紹介はいいんだよ。先にこの俺の見た目の方について言うことがあるだろ」

「誰が魔王を倒したら貴様の見た目を戻すと言った?」

「はあ?」

 俺はてっきりただの脅しとして俺をアルカの見た目にしたんだと思っていた。

 だから、魔王を倒せば同時に戻ると思っていた。

 だが、このクソ神。アルカを生き返らせることだけを魔王討伐の報酬にしていたらしい。

「おい。人のことだまして神なのってんじゃねぇよ」

「だましたかどうかは人間の間での話だろう。我は約束通り貴様の妹を生き返らせたぞ」

「神は魔王を倒すシステムじゃなかったのかよ。ちゃんと願いを叶えろよ」

「一応確認はしたぞ。それに、魔王だけを倒すシステムでもない。貴様のような使えるやつはそうそういないからな。まあ、次の目的を達成すれば考えてやらんでもないが」

 つまり、俺はまた魔王級の敵を倒さないと男に戻れないってわけか?

「えーと。よろしくね。お姉ちゃん」

「アルカまで……」

「よかったじゃないかお姉ちゃん」

「神ィ!」

 どうやら男に戻りたければ旅を続けろと言うことらしい。
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