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第33話 魔王の使う勇者の剣
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眼前に次々と現れる壁。
それらは俺の体当たりで面白いほど簡単に吹き飛んでいく。
「もろい! もろすぎるぞ魔王!」
「ふんっ!」
一段と高く厚い壁を作られたのか、俺の視界から光がさえぎられた。
だが、そんなことは全く関係ない。
拳を突き出し穴を開け魔王へと一直線に進む。
「俺は、自分が殺されるまでベルトレットのことを信じていた。俺が殺されたあの時も、本当に話があるもんだと思ってた。俺と同じように魔王に対抗する英雄。勇猛果敢な人物だと疑わなかった」
「それが、余だ」
「違う! お前は後釜だ。ベルトレットじゃない」
「はあっ!」
横から突き出てくる岩を俺は粉々に粉砕した。
ダメージはないが、体勢を崩したことで魔王への狙いが狂う。
「くそ」
様子をうかがうために玉座を見るとそこに魔王の姿がなかった。
「逃げた?」
俺の知るベルトレットなら強敵を前にしても逃げなかった。
その姿は堂々とし、男なら誰でも憧れるようなかっこよさがあった。ただ平和のため、一時的な武力として戦っていた。
しかし、魔王に変わってからだろう、ベルトレットは権力のために戦うような素振りが増えた。
そう、実を言えば俺だってベルトレットの変化に少しは気づいていた。だが、認めたくないじゃないか、憧れの存在がだんだんとクズになってく姿なんて。
そんな俺だからきっとアルカの忠告を素直に聞けなかったんだ。
「こっちだ。逃げるわけなかろう」
魔王は不敵に笑いながら仁王立ちしている。
「お前は俺から全てを奪った元凶だ」
「そうか。それがどうした。興味のわかない話だ。今、勇者について語ることにどんな意味がある。それよりこっちの方がよっぽど面白いぞ」
魔王はどこからともなく剣を取り出し、抜き放った。
「何……?」
魔王が持っていたのはただの剣ではない。それは、使い手を選ぶ、使う人間を選ぶ剣。
勇者の剣。
俺では抜くことのできなかった剣だ。
それを魔王はいともたやすく抜き放った。
「お前がどうしてそれを」
「当たり前だろう。余が勇者であり魔王なのだ。剣が余を認めるのは当然の通りだろう」
魔王の言葉通りなのか、勇者の剣は黄金色の輝きを放っている。
「だが、これでは余にふさわしくない」
剣はすぐに形を変えた。
魔王の手と一体化した根本は禍々しい黒に、刀身は紫色でおどろおどろしい溶けたようないびつな形へと。
「なっ……」
代々選ばれし人間に使われてきた剣が魔王の手に渡ってしまった。
「あり得ない話ではない。魔王が勇者の中にいたことは事実だ。今は受け入れるんだ」
「そんな」
神が言うなら、魔王は勇者の剣を使いこなせるってことか。
剣が使い手を勘違いしてるってのか?
確かに、勇者の剣は使い手に一番なじむ形へと姿を変えると聞いたことがあるが。
「フハハハハ! とうとう余にふさわしい姿へと変わったな剣よ。どうだ。余にピッタリな装飾だろう。素晴らしいと思わないか」
「……らん」
「何? 嫉妬か? もっと大きな声で言わないと聞こえないぞ」
「くだらないって言ったんだよ!」
「なんだとぉ!」
俺の言葉が気に入らなかったのか、魔王は顔に青筋を浮かべ怒号を轟かせてきた。
「まだ聞こえなかったか? なら何度でも言ってやるよ。お前のやってることはくだらない。それは勇者の剣だ。くだらない使い方をするな」
「人間。それが最後の言葉と思え」
魔王の表情から感情が消えた。
剣を構えたかと思うと、魔王の姿が見えなくなった。
「来るぞ。前だ」
神の言葉を受け、俺は咄嗟に後方へジャンプ。
ほんの少しして俺のいた場所に正確に剣を振り抜いた魔王の姿が現れた。
「ふむ。四天王を倒しただけはある。拳をかわしたのはまぐれではなかったようだな」
再び剣を構えると魔王は言ってきた。
魔王から会話していた時のような余裕は感じられない。
だが、全くスキがない完璧な構えのように感じられた。
「どう動く。余に攻撃を当てるか?」
俺が息を吸おうとした時また魔王は姿を消した。
消える時と出てくる時、瞬間移動とはまた違う移動のような気配。
「左、さらに上だ」
俺は右に転がり込んだ。
魔王は左から斬りかかり、そして上から降ってきた。
「二連撃もかわすか。こうなれば天性のものだな。だが、防戦一方。このまま攻撃をかわし続けるか? それがいつまで続くか」
「ふっ」
「「次で決着をつける」」
どうやら魔王も同じ考えらしい。
「貴様、何か考えがあるのか?」
「そんなもん決まってる。俺が攻撃を当てるんだよ」
「どうやって」
「それをバラすバカがあるか。神は黙って見てな」
「それも、そうだな」
俺は剣を静かに構えた。
「面白い。本気で余に一撃くらわせるつもりか。今のところどこからも当てられていないというのに」
「その通りだな。だが、それがどうした」
「……」
ムッとした表情で魔王は構えた。
どうも感情に飲まれやすいやつらしい。こいつはやりやすい。
今回は消えるまでも時間差があった。
そして、無限にも感じられる静かな時間が流れる。
「下から壁、上、下。後ろだ」
「ふんっ!」
やはり、壁は出せるか。俺を押し上げ、自分と挟み撃ちするつもりだな。
「はあっ!」
「なっ」
俺は上からの一撃をかわし、魔王の右腕を切り落とした。
「そいっ!」
「バカな。腕が」
下からの一撃をジャンプでかわし、左腕を切り落とす。
「終わりだ」
「ふっ。見事」
背後からの体当たりのお返しに首を切り落とす。
「うっせ、バーカ」
それらは俺の体当たりで面白いほど簡単に吹き飛んでいく。
「もろい! もろすぎるぞ魔王!」
「ふんっ!」
一段と高く厚い壁を作られたのか、俺の視界から光がさえぎられた。
だが、そんなことは全く関係ない。
拳を突き出し穴を開け魔王へと一直線に進む。
「俺は、自分が殺されるまでベルトレットのことを信じていた。俺が殺されたあの時も、本当に話があるもんだと思ってた。俺と同じように魔王に対抗する英雄。勇猛果敢な人物だと疑わなかった」
「それが、余だ」
「違う! お前は後釜だ。ベルトレットじゃない」
「はあっ!」
横から突き出てくる岩を俺は粉々に粉砕した。
ダメージはないが、体勢を崩したことで魔王への狙いが狂う。
「くそ」
様子をうかがうために玉座を見るとそこに魔王の姿がなかった。
「逃げた?」
俺の知るベルトレットなら強敵を前にしても逃げなかった。
その姿は堂々とし、男なら誰でも憧れるようなかっこよさがあった。ただ平和のため、一時的な武力として戦っていた。
しかし、魔王に変わってからだろう、ベルトレットは権力のために戦うような素振りが増えた。
そう、実を言えば俺だってベルトレットの変化に少しは気づいていた。だが、認めたくないじゃないか、憧れの存在がだんだんとクズになってく姿なんて。
そんな俺だからきっとアルカの忠告を素直に聞けなかったんだ。
「こっちだ。逃げるわけなかろう」
魔王は不敵に笑いながら仁王立ちしている。
「お前は俺から全てを奪った元凶だ」
「そうか。それがどうした。興味のわかない話だ。今、勇者について語ることにどんな意味がある。それよりこっちの方がよっぽど面白いぞ」
魔王はどこからともなく剣を取り出し、抜き放った。
「何……?」
魔王が持っていたのはただの剣ではない。それは、使い手を選ぶ、使う人間を選ぶ剣。
勇者の剣。
俺では抜くことのできなかった剣だ。
それを魔王はいともたやすく抜き放った。
「お前がどうしてそれを」
「当たり前だろう。余が勇者であり魔王なのだ。剣が余を認めるのは当然の通りだろう」
魔王の言葉通りなのか、勇者の剣は黄金色の輝きを放っている。
「だが、これでは余にふさわしくない」
剣はすぐに形を変えた。
魔王の手と一体化した根本は禍々しい黒に、刀身は紫色でおどろおどろしい溶けたようないびつな形へと。
「なっ……」
代々選ばれし人間に使われてきた剣が魔王の手に渡ってしまった。
「あり得ない話ではない。魔王が勇者の中にいたことは事実だ。今は受け入れるんだ」
「そんな」
神が言うなら、魔王は勇者の剣を使いこなせるってことか。
剣が使い手を勘違いしてるってのか?
確かに、勇者の剣は使い手に一番なじむ形へと姿を変えると聞いたことがあるが。
「フハハハハ! とうとう余にふさわしい姿へと変わったな剣よ。どうだ。余にピッタリな装飾だろう。素晴らしいと思わないか」
「……らん」
「何? 嫉妬か? もっと大きな声で言わないと聞こえないぞ」
「くだらないって言ったんだよ!」
「なんだとぉ!」
俺の言葉が気に入らなかったのか、魔王は顔に青筋を浮かべ怒号を轟かせてきた。
「まだ聞こえなかったか? なら何度でも言ってやるよ。お前のやってることはくだらない。それは勇者の剣だ。くだらない使い方をするな」
「人間。それが最後の言葉と思え」
魔王の表情から感情が消えた。
剣を構えたかと思うと、魔王の姿が見えなくなった。
「来るぞ。前だ」
神の言葉を受け、俺は咄嗟に後方へジャンプ。
ほんの少しして俺のいた場所に正確に剣を振り抜いた魔王の姿が現れた。
「ふむ。四天王を倒しただけはある。拳をかわしたのはまぐれではなかったようだな」
再び剣を構えると魔王は言ってきた。
魔王から会話していた時のような余裕は感じられない。
だが、全くスキがない完璧な構えのように感じられた。
「どう動く。余に攻撃を当てるか?」
俺が息を吸おうとした時また魔王は姿を消した。
消える時と出てくる時、瞬間移動とはまた違う移動のような気配。
「左、さらに上だ」
俺は右に転がり込んだ。
魔王は左から斬りかかり、そして上から降ってきた。
「二連撃もかわすか。こうなれば天性のものだな。だが、防戦一方。このまま攻撃をかわし続けるか? それがいつまで続くか」
「ふっ」
「「次で決着をつける」」
どうやら魔王も同じ考えらしい。
「貴様、何か考えがあるのか?」
「そんなもん決まってる。俺が攻撃を当てるんだよ」
「どうやって」
「それをバラすバカがあるか。神は黙って見てな」
「それも、そうだな」
俺は剣を静かに構えた。
「面白い。本気で余に一撃くらわせるつもりか。今のところどこからも当てられていないというのに」
「その通りだな。だが、それがどうした」
「……」
ムッとした表情で魔王は構えた。
どうも感情に飲まれやすいやつらしい。こいつはやりやすい。
今回は消えるまでも時間差があった。
そして、無限にも感じられる静かな時間が流れる。
「下から壁、上、下。後ろだ」
「ふんっ!」
やはり、壁は出せるか。俺を押し上げ、自分と挟み撃ちするつもりだな。
「はあっ!」
「なっ」
俺は上からの一撃をかわし、魔王の右腕を切り落とした。
「そいっ!」
「バカな。腕が」
下からの一撃をジャンプでかわし、左腕を切り落とす。
「終わりだ」
「ふっ。見事」
背後からの体当たりのお返しに首を切り落とす。
「うっせ、バーカ」
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