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第29話 ベルトレットに怒る
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ベルトレット。こいつは生かしてちゃいけないやつだ。勇者だろうがなんだろうが知ったこっちゃない。
ちょうど新しく出てきた四天王は、どういうわけか素顔が見えないようにフードを深く被っているせいで姿は見えない
しかし、ベルトレットに待てと言われ動かないことから、巻き込むようにして同時に倒せばいいだろう。
タマミやラーブをダンジョンへ入れたと知らなければ、魔王の後でもよかったが、今となってはムリだ。
「お前みたいな悪はここで打ち倒さなくてはならない」
俺は剣を持った状態で出せる最高速度で移動した。
「俺が悪? はっ! 笑わせるな」
「それはこっちのセリフだベルトレット!」
俺はベルトレットを真っ二つにするつもりで剣を振った。
確かな手応え。先にあるだれもいない建物が崩れる。
だが、剣先には布切れがわざとらしく引っ掛けてあるだけでベルトレットの姿はなかった。
まるでふわりと風にでも飛ばされていなくなったかのような感覚。
キョロキョロと近くを見回すが、ベルトレットは見当たらない。
「ラウルちゃん! 上、上!」
「上? なっ!」
タマミの声に顔を上げると、まさしくふわふわと浮かぶ四天王。
そして、その四天王にかかえられるベルトレットの姿があった。
ベルトレットは抵抗しているようだが、四天王の方は動じる様子がない。
もしかして仲間だったのか?
どういうことだ。ベルトレットは勇者だ。攻撃するわけではなく、ベルトレットをかばうなんてどうかしてる。
「こっちだこっち。お仲間さん」
四天王は俺に、手を招くように動かしながら言ってきた。
なんだかイライラする動きに声色だ。
「最後がキングじゃないんだな」
言い返してやろうと俺が口にすると、四天王はふっと笑った気がした。
「本当は魔王様が僕たちのキングだからね。僕がエースなのも、最後の切り札ってところかな」
最後の切り札か。
確かに、空中浮遊なんて技はなかなかできるものではない。
実力者なのは確かだろう。
それなら、そんなやつがどうしてベルトレットを守った?
「さて、言いたいことは終わったかな? じゃ、改めまして。僕はエース・シクサル。同士討ちするとは、人間の程度の低さが知れるよね」
シクサルは名乗りながらかぶっていたフードをとった。
「…………!」
あらわになったシクサルの見た目は、俺が一度として忘れたことのなかったモンスターの姿。
人間と見間違うほどの美少年のような見た目。エルフのようにとんがった耳。
唯一獣のような鋭い牙。
そう。
「家族の仇ッ……!」
俺が子どもの頃、村ごと壊滅させながらその痕跡すら残さなかったモンスター。
ここまで戦ってきた四天王のことを考えると、人を直接攻撃する珍しい四天王だったのだろう。
だが、珍しいかどうかなんてどうでもいい。
痕跡が残らなかったのは、今ベルトレットをさらったような移動の速さ。突然消えたような能力。
「我の移動と同じような性質らしいな」
神の助言。
つまり、瞬間移動のようなもの。
「だよな。あの速さは場所ごと移動してないとあり得ない」
今の俺は、ラーブみたいな異常なほど足の速いやつでなければ、反応する前に攻撃を当てられる自信がある。
タマミのスキルもあるし、この自信は根拠があると言っていいだろう。
だが、単に場所を変えられてしまえば、俺より速いと言うこともあり得る。
「どうやら僕のスキルについて、少し気づいちゃった?」
シクサルは楽しそうに笑っている
合ってるのか嘘をついてるのかわかりにくい。
わかることは今突っ込むのは無駄足だろうということか。
「それとも、二人とも今残っている勇者とパーティメンバーだ。もしかして、気づいてる?」
「「何言ってる」」
ベルトレットとハモリイラっとする。
こうなってしまえば、一緒に犠牲になっても仕方ないよな。
「神」
「いいだろう。協力してやる」
偉そうだが、力を貸してくれるらしい。
俺は剣を構えた。
「なんだ。二人して無能か」
「それはあり得ない。俺は無能じゃないからな」
しばらくおとなしくしていたベルトレットが突如動き出した。
かかえられる時に剣を落としていたベルトレットができることなど体を揺らすことのみ。
それも、シクサルが滞空するのにほとんど影響はなかった。
だが、ベルトレットはシクサルに噛みつき出した。
その姿は人間というよりも、まるでモンスターのような凶暴さだった。
「な、何してる。なぜ僕を噛むんだ。わかるだろう。今僕は君をあの子から救ったんだ」
「うるさい! 勇者である俺がモンスターなんぞに助けられる筋合いはない!」
「くっ! キングが気づいて僕が気づかないわけない。やはりこれは本物だ。人間のアゴでモンスターを噛みちぎれるわけがない」
そう、あり得ない。
モンスターの皮は丈夫だ。装備にできるくらいには。
だからこそ、弱い人間は武器や魔法、スキルで対抗するのだ。
それを今、ベルトレットは自分の歯とアゴで対処している。あんなのは人間の戦い方じゃない。
「や、やめろ! やめるんだ」
「嫌だね。どういうわけかわからないが、俺は今ものすごく血と肉に飢えてるんだよぉ!」
「いい加減に! なっ、速い!? こんなボロボロの体のどこに力が残ってるんだ」
シクサルはベルトレットをつまみ上げようとした。
だが、今まで腕から出られなかったはずのベルトレットは、突如シクサルの背中に回った。
その後も、自力でシクサルを掴んだままベルトレットは文字通り喰らいついている。
俺は二人同時に撃墜すればいいものを、ここまでの流れをただ見守っていた。
かろうじて生きてる様子の怯えた四天王。楽しそうに四天王の体に噛みつくベルトレット。
「ハハッ! どうしてだ? 急に体の痛みが消えてく! 最高だ! 最高の気分だ!」
「や、やめてくれ! お願いだ! これ以上僕に攻撃しないでくれ!」
この際どっちがやられてくれても構わない。倒れてくれるなら共倒れでもいい。
だが、なんだ。この雰囲気。あれは本当にベルトレットだったのか?
ちょうど新しく出てきた四天王は、どういうわけか素顔が見えないようにフードを深く被っているせいで姿は見えない
しかし、ベルトレットに待てと言われ動かないことから、巻き込むようにして同時に倒せばいいだろう。
タマミやラーブをダンジョンへ入れたと知らなければ、魔王の後でもよかったが、今となってはムリだ。
「お前みたいな悪はここで打ち倒さなくてはならない」
俺は剣を持った状態で出せる最高速度で移動した。
「俺が悪? はっ! 笑わせるな」
「それはこっちのセリフだベルトレット!」
俺はベルトレットを真っ二つにするつもりで剣を振った。
確かな手応え。先にあるだれもいない建物が崩れる。
だが、剣先には布切れがわざとらしく引っ掛けてあるだけでベルトレットの姿はなかった。
まるでふわりと風にでも飛ばされていなくなったかのような感覚。
キョロキョロと近くを見回すが、ベルトレットは見当たらない。
「ラウルちゃん! 上、上!」
「上? なっ!」
タマミの声に顔を上げると、まさしくふわふわと浮かぶ四天王。
そして、その四天王にかかえられるベルトレットの姿があった。
ベルトレットは抵抗しているようだが、四天王の方は動じる様子がない。
もしかして仲間だったのか?
どういうことだ。ベルトレットは勇者だ。攻撃するわけではなく、ベルトレットをかばうなんてどうかしてる。
「こっちだこっち。お仲間さん」
四天王は俺に、手を招くように動かしながら言ってきた。
なんだかイライラする動きに声色だ。
「最後がキングじゃないんだな」
言い返してやろうと俺が口にすると、四天王はふっと笑った気がした。
「本当は魔王様が僕たちのキングだからね。僕がエースなのも、最後の切り札ってところかな」
最後の切り札か。
確かに、空中浮遊なんて技はなかなかできるものではない。
実力者なのは確かだろう。
それなら、そんなやつがどうしてベルトレットを守った?
「さて、言いたいことは終わったかな? じゃ、改めまして。僕はエース・シクサル。同士討ちするとは、人間の程度の低さが知れるよね」
シクサルは名乗りながらかぶっていたフードをとった。
「…………!」
あらわになったシクサルの見た目は、俺が一度として忘れたことのなかったモンスターの姿。
人間と見間違うほどの美少年のような見た目。エルフのようにとんがった耳。
唯一獣のような鋭い牙。
そう。
「家族の仇ッ……!」
俺が子どもの頃、村ごと壊滅させながらその痕跡すら残さなかったモンスター。
ここまで戦ってきた四天王のことを考えると、人を直接攻撃する珍しい四天王だったのだろう。
だが、珍しいかどうかなんてどうでもいい。
痕跡が残らなかったのは、今ベルトレットをさらったような移動の速さ。突然消えたような能力。
「我の移動と同じような性質らしいな」
神の助言。
つまり、瞬間移動のようなもの。
「だよな。あの速さは場所ごと移動してないとあり得ない」
今の俺は、ラーブみたいな異常なほど足の速いやつでなければ、反応する前に攻撃を当てられる自信がある。
タマミのスキルもあるし、この自信は根拠があると言っていいだろう。
だが、単に場所を変えられてしまえば、俺より速いと言うこともあり得る。
「どうやら僕のスキルについて、少し気づいちゃった?」
シクサルは楽しそうに笑っている
合ってるのか嘘をついてるのかわかりにくい。
わかることは今突っ込むのは無駄足だろうということか。
「それとも、二人とも今残っている勇者とパーティメンバーだ。もしかして、気づいてる?」
「「何言ってる」」
ベルトレットとハモリイラっとする。
こうなってしまえば、一緒に犠牲になっても仕方ないよな。
「神」
「いいだろう。協力してやる」
偉そうだが、力を貸してくれるらしい。
俺は剣を構えた。
「なんだ。二人して無能か」
「それはあり得ない。俺は無能じゃないからな」
しばらくおとなしくしていたベルトレットが突如動き出した。
かかえられる時に剣を落としていたベルトレットができることなど体を揺らすことのみ。
それも、シクサルが滞空するのにほとんど影響はなかった。
だが、ベルトレットはシクサルに噛みつき出した。
その姿は人間というよりも、まるでモンスターのような凶暴さだった。
「な、何してる。なぜ僕を噛むんだ。わかるだろう。今僕は君をあの子から救ったんだ」
「うるさい! 勇者である俺がモンスターなんぞに助けられる筋合いはない!」
「くっ! キングが気づいて僕が気づかないわけない。やはりこれは本物だ。人間のアゴでモンスターを噛みちぎれるわけがない」
そう、あり得ない。
モンスターの皮は丈夫だ。装備にできるくらいには。
だからこそ、弱い人間は武器や魔法、スキルで対抗するのだ。
それを今、ベルトレットは自分の歯とアゴで対処している。あんなのは人間の戦い方じゃない。
「や、やめろ! やめるんだ」
「嫌だね。どういうわけかわからないが、俺は今ものすごく血と肉に飢えてるんだよぉ!」
「いい加減に! なっ、速い!? こんなボロボロの体のどこに力が残ってるんだ」
シクサルはベルトレットをつまみ上げようとした。
だが、今まで腕から出られなかったはずのベルトレットは、突如シクサルの背中に回った。
その後も、自力でシクサルを掴んだままベルトレットは文字通り喰らいついている。
俺は二人同時に撃墜すればいいものを、ここまでの流れをただ見守っていた。
かろうじて生きてる様子の怯えた四天王。楽しそうに四天王の体に噛みつくベルトレット。
「ハハッ! どうしてだ? 急に体の痛みが消えてく! 最高だ! 最高の気分だ!」
「や、やめてくれ! お願いだ! これ以上僕に攻撃しないでくれ!」
この際どっちがやられてくれても構わない。倒れてくれるなら共倒れでもいい。
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