16 / 68
第16話 勇者の休息を邪魔するものたち
しおりを挟む
「はあ、時間の流れがゆっくりだ」
俺は仲間のおかげで宿まで辿り着いた。
ベッドに横になり、ただ天井の木目を数えている。
体が動かせない。動かそうと思えば動かせるが、満足に動かせない。
仲間たちもほとんど同じような状況らしく、死んだように眠っている。
「まさか、動けなくなるほどボロボロになる日が来ようとは」
そして、それがラウルとアルカがいなくなってからなんて。
俺は無能じゃない。無能じゃないはずだ。
コボルドから情報を引き出したし、他の冒険者が苦戦する黒龍だって倒した。俺が無能なわけがない。
「そう。今は戦略的療養。ただ休む時ってだけだ」
勇者である俺にも休みは必要だ。
休みが必要だからこそ。こうして休ませてもらうための時間が世界から与えられてるのだからな。
今は俺が休むための時間のはずなのだが、外がやけにうるさい。
少しずつ騒ぎが近づいてきているような気さえする。
「一体何が」
「んん」
声がした方を見ると、どうやらカーテットが起き出していた。
「起こしてしまったか」
「いえ。大丈夫です」
カーテットは今のメンバーでは一番に警戒してくれる存在。盗賊の仲間だ。
俺が起こしたと言うよりも、周りの音で起きてきたのだろう。
「カーテット。外の様子を確認してくれないか。どうも騒がしい」
「ちょうどそう思ってたです」
俺と同じところに目をつけるとはさすが俺の仲間。
ゆっくり体を起こすと、カーテットは窓から外の様子を確認し出した。
音を立てるほど窓に接近したのか、ガタガタという振動が聞こえてくる。だが、すぐに俺に知らせることはなかった。
「おい。どうした。何が起きてる」
「巨龍です。巨龍の群れ。他にも魔王軍と思われる軍勢が街を襲ってるです」
「は? なんだそれ。天変地異でも起こったのか?」
「わからないです。ただ、町中に騒ぎが広がってる原因はおそらく巨龍と魔王軍の同時襲撃かと」
「くっ。俺の体は動かない時だというのに、好き勝手しやがって」
さすがにこれはピンチだ。ゆっくり休んでる場合じゃない。場合じゃないが体が言うことを聞かない。
このままだとなす術なくやられる。
巨龍なんて、黒龍みたいなモンスターの後に連戦するような相手じゃない。
それも群れなんて、さすがに俺ほどの勇者でもパーティ程度で相手できない。もっとパーティの集まった国家的な集団でないと。
「どうするです?」
カーテットから心配そうな視線を感じ、俺は思わず目をそらした。
きっと俺たちが勇者パーティである以上、カーテットは戦うことを望んでいるはずだ。
俺も万全な状態ならそうする。こんなピンチはこれ以上ない報酬をもらうチャンスだからだ。
だが、今の俺はそこらの一般人よりも足手まといだ。いや、鼓舞するくらいはできるかもしれないが、ここの冒険者が俺を守り切れるとも限らない。
「……逃げるぞ」
「でも」
「いいから逃げるぞ。今は何よりも俺たちが生き残る方が大事だ。街は滅んでも立て直せる。だが、勇者が死んでも生き返らせることはできない。死者は生き返らないんだ。だから俺たちは嘘つきを処罰したんだろう」
「ですけど」
「リマとペクターを起こせ。それに荷物からフードを出せ。隠密効果がある。かぶってれば俺たちの正体はバレないだろう」
「……わかったです」
色々と思うところはあるだろう。だが、命大事にが最優先だ。
俺の命を大事に。俺が回復すれば一体ずつならパーティ単位でも潰すことができるのだから。
町民よ辛抱しろ。俺が回復するのを。
「準備できたです」
「私もですわ」
「完了しました」
「よし。行くぞ。街を出て西へ向かう。そこがここから一番近くて拠点にできる場所だ。そのはずだよな」
「えーと」
「そのはずですわ」
「確認済みです」
「よし、場所はセーイット。行くぞ」
これはただの退散ではない。撤退ではない。
いずれモンスターを倒すための闘争だ。戦わずとも次に進むための闘争なのだ。
逃走とは訳が違う。
そもそも、俺の目的は魔王であって龍種じゃない。
「多少動けるな。少しは回復したってことか」
「無理しちゃダメです」
「担がれてちゃ目立って仕方ないだろう」
ペクターの回復とエンハンス魔法のおかげで、普段のように動けるようにはなった。
回復は効いていないのではなく、ものすごく効きが悪くなっているだけのようだ。
これなら、数年とかからずこの街も奪還できる。
「黒龍はいなくなった。我々巨龍がこの地域を支配する!」
「魔王様! 魔王様はどこですか! 確かにここの近くに反応があったという連絡が! 私です! 部下のセブディです!」
「我々巨龍が黒龍に負けるはずはない! が、いなくなったのなら話は早い! ここは我ら巨龍の土地!」
「私も参りました! 魔王様! 姿を表してください! 魔王様! 個人で活動されるつもりですか!」
どうやらカーテットの見立ては正しかったようだ。巨龍の主張に魔王軍と思われる者の声が聞こえてくる。
だが、どれも戯言にすぎないだろう。
反目しあっていたからと言って、同じ龍種だ。本当なら悲しんでいるはず。
それに、魔王がこんな街にいるはずがない。
「ベルトレット様」
「リマ、惑わされることはない。そもそも龍も魔王も人間にとってほとんどが信頼に足る存在じゃない」
「ですが」
「ペクター。なら聞くが、龍は俺たちを助けるために、魔王を倒してくれたか? 魔王は一度として俺たちのためを思って侵攻を止めてくれたか?」
「い、いえ」
「だろ? そういうことだ」
そう。今の出来事は、決して俺が黒龍を倒したことが原因なわけないのだ。
俺は仲間のおかげで宿まで辿り着いた。
ベッドに横になり、ただ天井の木目を数えている。
体が動かせない。動かそうと思えば動かせるが、満足に動かせない。
仲間たちもほとんど同じような状況らしく、死んだように眠っている。
「まさか、動けなくなるほどボロボロになる日が来ようとは」
そして、それがラウルとアルカがいなくなってからなんて。
俺は無能じゃない。無能じゃないはずだ。
コボルドから情報を引き出したし、他の冒険者が苦戦する黒龍だって倒した。俺が無能なわけがない。
「そう。今は戦略的療養。ただ休む時ってだけだ」
勇者である俺にも休みは必要だ。
休みが必要だからこそ。こうして休ませてもらうための時間が世界から与えられてるのだからな。
今は俺が休むための時間のはずなのだが、外がやけにうるさい。
少しずつ騒ぎが近づいてきているような気さえする。
「一体何が」
「んん」
声がした方を見ると、どうやらカーテットが起き出していた。
「起こしてしまったか」
「いえ。大丈夫です」
カーテットは今のメンバーでは一番に警戒してくれる存在。盗賊の仲間だ。
俺が起こしたと言うよりも、周りの音で起きてきたのだろう。
「カーテット。外の様子を確認してくれないか。どうも騒がしい」
「ちょうどそう思ってたです」
俺と同じところに目をつけるとはさすが俺の仲間。
ゆっくり体を起こすと、カーテットは窓から外の様子を確認し出した。
音を立てるほど窓に接近したのか、ガタガタという振動が聞こえてくる。だが、すぐに俺に知らせることはなかった。
「おい。どうした。何が起きてる」
「巨龍です。巨龍の群れ。他にも魔王軍と思われる軍勢が街を襲ってるです」
「は? なんだそれ。天変地異でも起こったのか?」
「わからないです。ただ、町中に騒ぎが広がってる原因はおそらく巨龍と魔王軍の同時襲撃かと」
「くっ。俺の体は動かない時だというのに、好き勝手しやがって」
さすがにこれはピンチだ。ゆっくり休んでる場合じゃない。場合じゃないが体が言うことを聞かない。
このままだとなす術なくやられる。
巨龍なんて、黒龍みたいなモンスターの後に連戦するような相手じゃない。
それも群れなんて、さすがに俺ほどの勇者でもパーティ程度で相手できない。もっとパーティの集まった国家的な集団でないと。
「どうするです?」
カーテットから心配そうな視線を感じ、俺は思わず目をそらした。
きっと俺たちが勇者パーティである以上、カーテットは戦うことを望んでいるはずだ。
俺も万全な状態ならそうする。こんなピンチはこれ以上ない報酬をもらうチャンスだからだ。
だが、今の俺はそこらの一般人よりも足手まといだ。いや、鼓舞するくらいはできるかもしれないが、ここの冒険者が俺を守り切れるとも限らない。
「……逃げるぞ」
「でも」
「いいから逃げるぞ。今は何よりも俺たちが生き残る方が大事だ。街は滅んでも立て直せる。だが、勇者が死んでも生き返らせることはできない。死者は生き返らないんだ。だから俺たちは嘘つきを処罰したんだろう」
「ですけど」
「リマとペクターを起こせ。それに荷物からフードを出せ。隠密効果がある。かぶってれば俺たちの正体はバレないだろう」
「……わかったです」
色々と思うところはあるだろう。だが、命大事にが最優先だ。
俺の命を大事に。俺が回復すれば一体ずつならパーティ単位でも潰すことができるのだから。
町民よ辛抱しろ。俺が回復するのを。
「準備できたです」
「私もですわ」
「完了しました」
「よし。行くぞ。街を出て西へ向かう。そこがここから一番近くて拠点にできる場所だ。そのはずだよな」
「えーと」
「そのはずですわ」
「確認済みです」
「よし、場所はセーイット。行くぞ」
これはただの退散ではない。撤退ではない。
いずれモンスターを倒すための闘争だ。戦わずとも次に進むための闘争なのだ。
逃走とは訳が違う。
そもそも、俺の目的は魔王であって龍種じゃない。
「多少動けるな。少しは回復したってことか」
「無理しちゃダメです」
「担がれてちゃ目立って仕方ないだろう」
ペクターの回復とエンハンス魔法のおかげで、普段のように動けるようにはなった。
回復は効いていないのではなく、ものすごく効きが悪くなっているだけのようだ。
これなら、数年とかからずこの街も奪還できる。
「黒龍はいなくなった。我々巨龍がこの地域を支配する!」
「魔王様! 魔王様はどこですか! 確かにここの近くに反応があったという連絡が! 私です! 部下のセブディです!」
「我々巨龍が黒龍に負けるはずはない! が、いなくなったのなら話は早い! ここは我ら巨龍の土地!」
「私も参りました! 魔王様! 姿を表してください! 魔王様! 個人で活動されるつもりですか!」
どうやらカーテットの見立ては正しかったようだ。巨龍の主張に魔王軍と思われる者の声が聞こえてくる。
だが、どれも戯言にすぎないだろう。
反目しあっていたからと言って、同じ龍種だ。本当なら悲しんでいるはず。
それに、魔王がこんな街にいるはずがない。
「ベルトレット様」
「リマ、惑わされることはない。そもそも龍も魔王も人間にとってほとんどが信頼に足る存在じゃない」
「ですが」
「ペクター。なら聞くが、龍は俺たちを助けるために、魔王を倒してくれたか? 魔王は一度として俺たちのためを思って侵攻を止めてくれたか?」
「い、いえ」
「だろ? そういうことだ」
そう。今の出来事は、決して俺が黒龍を倒したことが原因なわけないのだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉
ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー
それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった
女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者
手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者
潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者
そんなエロ要素しかない話
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる