11 / 68
第11話 黒龍戦後の勇者
しおりを挟む
目が覚めるとそこは見知らぬ山の中。
いや、見慣れないだけで来たことがある。
「そうか。俺は確か、山で黒龍と戦って、それで……」
どうなったんだ? 途中から無我夢中でよく覚えていない。
生きてるってことは黒龍を倒したってことなのか?
なんだか別人の声が聞こえたような気がしたが、気のせいか?
なんだろう。頭がガンガンする。
「よかったです。目が覚めたです」
「カーテット。当たり前だろ。俺は勇者だ。って、いてて」
「無理は良くないですわ」
「済まない」
俺の周りには黒竜に囚われていた女性たちもいた。
どうやらパーティメンバーだけでなく、囚われていた女性たちも俺の看病をしてくれたらしい。
そして、俺の仲間は装備を破壊されたものの、代わりの衣服をもらった様子だ。
しかし、どれだけ見回してもその中にはアルカの姿はない。
これだけの傷を負っても目的を達成できないってのか?
「くそ!」
「ベルトレット様は悪くありません。相手が悪かっただけです」
「ああ。それもあるかもしれない。だが」
「だが?」
自分が気づいていることに嫌気がさす。だが、言葉にしなければこのイライラは収まらない。
なぜなら、事実だから。
「俺たちのパーティにおけるラウルとアルカの役割、それはあくまで偵察。敵の力を推し量ることだけだったはずだ。それが、これじゃなんだ? 俺たちは二人のお膳立てがないと、まともに戦えない弱小パーティみたいじゃないか」
コボルドの時にしてもそうだ。毎度の戦闘でこんなに疲弊していてはテンポが遅くなってしまう。
先に進むのだっていつまでも待ってくれるわけじゃない。
魔王が静かなのもいつまでも続くとは限らない。
それなのに、今の状態では強かったのは、ラウルとアルカの二人だけだったみたいじゃないか。
「黒龍には勝ったです。それでよくないです?」
純粋なカーテットは不思議そうだ。
そうだよな。勝ちは勝ち。パーティとして人数が減っているだけで質が落ちているわけじゃないってことか。
それに、アルカが出てこないことについては何か理由があるかもしれない。
それについて聞けたから、みんながそのことを黙っている可能性もある。
「この場は勝ちでよしとするか。それでアルカについては何か聞けたか?」
「いいえ。誰も何も知りませんでしたわ。申し訳ありません」
「いや、みんなが気にすることじゃない。ということは黒龍は白だったってことか」
俺は転がっている黒龍の死体を見た。こいつがアルカをさらっていないとすると、アルカは今どこにいるんだ?
そもそも、俺の手に全く手応えが残っていない。
もっと倒した時の感覚は思い出せるものだが、今回はそれがない。
実は自滅技を耐えたとかそういうことはないよな。うん。それはない。切断面は俺のものだとわかる。それくらいはわかる。
「考えすぎか。おっとっと」
立ち上がろうとしたが、一人でまともに立つことすらできなかった。
「お支えします?」
「ありがとうペクター」
みんなに支えてもらわないとまともに立てないなんて、相当疲れているらしい。
全力を出すのが久しぶりだったからかもしれない。
「ひとまず報告に行くとするか。後のことはそれから考えよう。囚われていた皆さんはついてきてください!」
俺は女性たちを引き連れ街に戻った。
街に戻ると女性たちは自分の家の方へと帰っていった。
案外住み心地がよかったのか、感謝してくれる人はほとんどいなかった。いや、一人もいなかったかもしれない。
街の人は見つけてくれたと思ったかもしれないが、囚われていた人たちの感想は違うかもしれない。
看病こそしてくれたものの、俺のことをよく思っていなかった気がする。もしかしたら、冒険者を攻撃していたのも何か別の脅威から守るためで、守れなかったから死傷者が出ていたって話だったりするのか?
いや、さすがにそれは考えすぎか。アルカ探しで頭も疲れているのかもしれない。
「おう。ボケーっとしてんじゃねぇぞクソ勇者」
「あ、ああ」
ギルドのドアを開けただけだが、冒険者に睨まれてしまった。
やはり俺の方は嫌われ者らしい。
「オンボロだな? 勇者様。どうだい黒龍は?」
「倒してきたぞ」
「そうか、倒してきたか。は?」
「本当ですか?」
受付嬢の目が輝いている。
さぞ面倒な相手だったのだろう。この顔を見るからに、俺の考えはただの心配に過ぎなかったと言っていいだろう。
やはり俺は頭もキレる勇者だからな。
それはさておき。
「ああ。ほれ見ろ」
「なんだただの黒い鱗じゃないか。は! そうか、黒龍間違いなんだな?」
「おっとっと。こっちだったな」
先に出したのは戦利品だった。
ただの戦利品だった。
「これは!」
俺のギルドカードを見ると受付嬢はさらに表情を明るくした。
倒したモンスターの欄には黒龍が登録されていることを全員が確認したようだ。俺の顔とギルドカードをしきりに見比べている。
討伐モンスターを記録するのはカードにかかった魔法によるものだから、偽装はできない。
無駄に高位の魔法が使われてるからな。
以前、魔王を倒したことにしようとしたが、俺たち勇者パーティの魔法力ですら無理だった。おそらく現代の魔法とは全く別の魔法が使われているのだと思う。
「本当に倒されたんですね」
「マジかよ」
「当たり前だ」
「報酬は」
「その話は後でいい。今日はこれで帰らせてもらう」
「わかりました」
もっと褒められるかと思ったが、案外淡白だった。
くそ。
なんだかどうにも調子が乗らない。もっと長居すれば褒められたのかもしれないが、体もだるいしなんだか視界がフラフラする。
「大丈夫です? 今にも倒れそうです」
「ん? ああ。大丈夫だ。ただ、拠点に戻るまで、みんなで支えてくれないか?」
全員頷いてくれた。
やはり、過酷な困難を乗り越えた仲間たちだ。
アルカと再開できれば、ここにアルカが加わるかと思うと胸が高鳴る。
やはり早く探さなくては。
しかしそのためにも体を休めないとな。
「全員が回復するまでしばらく大人しくしていよう。俺たち勇者パーティのやることは元から骨が折れる。今の状態で向かうのは無謀だからな」
「わかりましたわ」
「しかし、ペクターの回復ですら治らないなんて、黒龍。厄介なやつだった」
「すぐに回復すればよかったのですが」
「いいって。ペクターが気にすることじゃない。だが、次に行くまでどれだけの時間がかかるか」
少しずつ治っている気はするが、どうにもまだまだ治っていない感じだ。
今は情報収集の期間でもあるし気長に待つとするか。
いや、見慣れないだけで来たことがある。
「そうか。俺は確か、山で黒龍と戦って、それで……」
どうなったんだ? 途中から無我夢中でよく覚えていない。
生きてるってことは黒龍を倒したってことなのか?
なんだか別人の声が聞こえたような気がしたが、気のせいか?
なんだろう。頭がガンガンする。
「よかったです。目が覚めたです」
「カーテット。当たり前だろ。俺は勇者だ。って、いてて」
「無理は良くないですわ」
「済まない」
俺の周りには黒竜に囚われていた女性たちもいた。
どうやらパーティメンバーだけでなく、囚われていた女性たちも俺の看病をしてくれたらしい。
そして、俺の仲間は装備を破壊されたものの、代わりの衣服をもらった様子だ。
しかし、どれだけ見回してもその中にはアルカの姿はない。
これだけの傷を負っても目的を達成できないってのか?
「くそ!」
「ベルトレット様は悪くありません。相手が悪かっただけです」
「ああ。それもあるかもしれない。だが」
「だが?」
自分が気づいていることに嫌気がさす。だが、言葉にしなければこのイライラは収まらない。
なぜなら、事実だから。
「俺たちのパーティにおけるラウルとアルカの役割、それはあくまで偵察。敵の力を推し量ることだけだったはずだ。それが、これじゃなんだ? 俺たちは二人のお膳立てがないと、まともに戦えない弱小パーティみたいじゃないか」
コボルドの時にしてもそうだ。毎度の戦闘でこんなに疲弊していてはテンポが遅くなってしまう。
先に進むのだっていつまでも待ってくれるわけじゃない。
魔王が静かなのもいつまでも続くとは限らない。
それなのに、今の状態では強かったのは、ラウルとアルカの二人だけだったみたいじゃないか。
「黒龍には勝ったです。それでよくないです?」
純粋なカーテットは不思議そうだ。
そうだよな。勝ちは勝ち。パーティとして人数が減っているだけで質が落ちているわけじゃないってことか。
それに、アルカが出てこないことについては何か理由があるかもしれない。
それについて聞けたから、みんながそのことを黙っている可能性もある。
「この場は勝ちでよしとするか。それでアルカについては何か聞けたか?」
「いいえ。誰も何も知りませんでしたわ。申し訳ありません」
「いや、みんなが気にすることじゃない。ということは黒龍は白だったってことか」
俺は転がっている黒龍の死体を見た。こいつがアルカをさらっていないとすると、アルカは今どこにいるんだ?
そもそも、俺の手に全く手応えが残っていない。
もっと倒した時の感覚は思い出せるものだが、今回はそれがない。
実は自滅技を耐えたとかそういうことはないよな。うん。それはない。切断面は俺のものだとわかる。それくらいはわかる。
「考えすぎか。おっとっと」
立ち上がろうとしたが、一人でまともに立つことすらできなかった。
「お支えします?」
「ありがとうペクター」
みんなに支えてもらわないとまともに立てないなんて、相当疲れているらしい。
全力を出すのが久しぶりだったからかもしれない。
「ひとまず報告に行くとするか。後のことはそれから考えよう。囚われていた皆さんはついてきてください!」
俺は女性たちを引き連れ街に戻った。
街に戻ると女性たちは自分の家の方へと帰っていった。
案外住み心地がよかったのか、感謝してくれる人はほとんどいなかった。いや、一人もいなかったかもしれない。
街の人は見つけてくれたと思ったかもしれないが、囚われていた人たちの感想は違うかもしれない。
看病こそしてくれたものの、俺のことをよく思っていなかった気がする。もしかしたら、冒険者を攻撃していたのも何か別の脅威から守るためで、守れなかったから死傷者が出ていたって話だったりするのか?
いや、さすがにそれは考えすぎか。アルカ探しで頭も疲れているのかもしれない。
「おう。ボケーっとしてんじゃねぇぞクソ勇者」
「あ、ああ」
ギルドのドアを開けただけだが、冒険者に睨まれてしまった。
やはり俺の方は嫌われ者らしい。
「オンボロだな? 勇者様。どうだい黒龍は?」
「倒してきたぞ」
「そうか、倒してきたか。は?」
「本当ですか?」
受付嬢の目が輝いている。
さぞ面倒な相手だったのだろう。この顔を見るからに、俺の考えはただの心配に過ぎなかったと言っていいだろう。
やはり俺は頭もキレる勇者だからな。
それはさておき。
「ああ。ほれ見ろ」
「なんだただの黒い鱗じゃないか。は! そうか、黒龍間違いなんだな?」
「おっとっと。こっちだったな」
先に出したのは戦利品だった。
ただの戦利品だった。
「これは!」
俺のギルドカードを見ると受付嬢はさらに表情を明るくした。
倒したモンスターの欄には黒龍が登録されていることを全員が確認したようだ。俺の顔とギルドカードをしきりに見比べている。
討伐モンスターを記録するのはカードにかかった魔法によるものだから、偽装はできない。
無駄に高位の魔法が使われてるからな。
以前、魔王を倒したことにしようとしたが、俺たち勇者パーティの魔法力ですら無理だった。おそらく現代の魔法とは全く別の魔法が使われているのだと思う。
「本当に倒されたんですね」
「マジかよ」
「当たり前だ」
「報酬は」
「その話は後でいい。今日はこれで帰らせてもらう」
「わかりました」
もっと褒められるかと思ったが、案外淡白だった。
くそ。
なんだかどうにも調子が乗らない。もっと長居すれば褒められたのかもしれないが、体もだるいしなんだか視界がフラフラする。
「大丈夫です? 今にも倒れそうです」
「ん? ああ。大丈夫だ。ただ、拠点に戻るまで、みんなで支えてくれないか?」
全員頷いてくれた。
やはり、過酷な困難を乗り越えた仲間たちだ。
アルカと再開できれば、ここにアルカが加わるかと思うと胸が高鳴る。
やはり早く探さなくては。
しかしそのためにも体を休めないとな。
「全員が回復するまでしばらく大人しくしていよう。俺たち勇者パーティのやることは元から骨が折れる。今の状態で向かうのは無謀だからな」
「わかりましたわ」
「しかし、ペクターの回復ですら治らないなんて、黒龍。厄介なやつだった」
「すぐに回復すればよかったのですが」
「いいって。ペクターが気にすることじゃない。だが、次に行くまでどれだけの時間がかかるか」
少しずつ治っている気はするが、どうにもまだまだ治っていない感じだ。
今は情報収集の期間でもあるし気長に待つとするか。
1
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜
マグローK
青春
かつて体が溶ける不運に見舞われたぼっち体質の主人公遠谷メイト(とおたにめいと)は、クラスだけでなく学校でも浮いている美少女、成山タレカ(なりやまたれか)と肉体が入れ替わってしまう!
過去の伝手を頼り、今回も本人の願いが歪んだ形で叶ってしまうキセキだと判明。
願いを処理してタレカを元の体に戻るため、メイトはタレカの願いを叶えようと奔走する。
果たして、二人は元の体に戻れるのか!?
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
この小説は他サイトでも投稿しています。
転娘忍法帖
あきらつかさ
歴史・時代
時は江戸、四代将軍家綱の頃。
小国に仕える忍の息子・巽丸(たつみまる)はある時、侵入した曲者を追った先で、老忍者に謎の秘術を受ける。
どうにか生還したものの、目覚めた時には女の体になっていた。
国に渦巻く陰謀と、師となった忍に預けられた書を狙う者との戦いに翻弄される、ひとりの若忍者の運命は――――
【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉
ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー
それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった
女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者
手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者
潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者
そんなエロ要素しかない話
TS調教施設 ~敵国に捕らえられ女体化ナノマシンで快楽調教されました~
エルトリア
SF
世界有数の大国ロタール連邦の軍人アルフ・エーベルバッハ。彼は敵国アウライ帝国との戦争で数え切れぬ武勲をあげ、僅か四年で少佐にまで昇進し、救国の英雄となる道を歩んでいた。
しかし、所属している基地が突如大規模な攻撃を受け、捕虜になったことにより、アルフの人生は一変する。
「さっさと殺すことだな」
そう鋭く静かに言い放った彼に待ち受けていたものは死よりも残酷で屈辱的な扱いだった。
「こ、これは。私の身体なのか…!?」
ナノマシンによる肉体改造によりアルフの身体は年端もいかない少女へと変容してしまう。
怒りに震えるアルフ。調教師と呼ばれる男はそれを見ながら言い放つ。
「お前は食事ではなく精液でしか栄養を摂取出来ない身体になったんだよ」
こうしてアルフは089という囚人番号を与えられ、雌奴隷として調教される第二の人生を歩み始めた。
※個人制作でコミカライズ版を配信しました。作品下部バナーでご検索ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる