3 / 68
第3話 兄の死
しおりを挟む
「おにい! おにい!」
どこにもいない。
勇者に呼び出されたのは拠点の隣の町だよね?
「本当、どこまで行ったの? おにいは」
反応だとこの辺りなんだけど、どうしてこうもはっきりしないんだろ。
まるでもういなくなってるみたいな弱々しい反応しかない。
まさか道端で寝てるとか? いやいや、いくらおにいでもそんなことはしないって。
勇者パーティのメンバーなんだから、さすがにね。
あそこの路地裏で倒れてる男の人はわたしの兄じゃないよね?
「でも、放っておけないか」
人助けをすすんでやるってのは人として大事なこと。
でも、反応が近いのは気のせいだよね?
昼間から飲んでる酔っぱらいか何かでしょ。多分。
「あのー。大丈夫ですか?」
反応がない。ピクリとも動かない。
うつ伏せで倒れているせいで顔がよく見えないが、ぐっすり眠ってるとか?
にしても静かすぎる。
「本当に大丈夫ですか?」
体を揺すってみるも寝息すら聞こえてこない。
もしかして死んでるとか?
暗がりでよく見えないけど、服装や装備に見覚えがあるのは気のせいだよね?
「とりあえず仰向けに……」
手に布とは違う何かが触れた気がした。
よく見てみると赤い? 血?
背中を揺すった時についたの? それとも今。
それにこの顔。間違いない。わたしが見間違うはずない。これは正真正銘。
でも、まだ。
「……うう。泣いちゃだめ。わたしだって勇者パーティの一員なんだから、こんなところで泣いちゃ。泣いちゃ……」
どうにか嗚咽をこらえようとしても、悲しみが押し上げてきて声を上げてしまう。
「うわあああああ! あああああ!」
最後に残っていた家族である兄がこんなよくわからない場所で死んでしまうなんて。
考えもしなかった。急に死んでしまうってこと。
そりゃ、冒険してたら死ぬかもしれないけど、でも。
「……どうして、どうして?」
どうしてわたしのおにいが死ななきゃいけなかったの?
どうして今じゃなきゃいけなかったの?
わたしたちまだ魔王も殺せてないのに。
それに、この程度の刺し傷でおにい死ぬとは考えられない。何か特別な魔法やスキル、あとは毒とかを使われたに違いない。
近くでこんなことできるのはきっと勇者くらい。
「やっぱりあいつが怪しい。でもなんで? わざわざスカウトまでしておいて何がしたかったの?」
勇者だけじゃなく、他の女の子たちも最近は勇者の言いなりって感じだった。
一体何があったの? あの勇者は本当に勇者なの?
いや、今は勇者のことなんてどうでもいい。おにいをどうかおにいを。
でも、世界一の回復魔法の使い手はきっとペクターさんだ。勇者パーティである以上信じられない。
蘇生魔法なんて使える人知らないよ。
「助からないの? お兄ちゃん。返事してよ。ねえ。ねえってば」
普段なら笑いながら返事してくれるお兄ちゃんが何も答えてくれない。
「どうか、どうかおにいをわたしのことはいいからどうかおにいを! 神様ぁ……」
なんて言っても無駄なことはわかってる。
神なんていない。いればわたしは冒険者なんてやってない。
もっと静かに、けれど平和に家族みんなで生きることができたはずだ。
それを奪った魔王を止めない。止めることのできる存在など今のところどこにもいない。
神ならできるだろうが、そんな様子はない。
「……うう。おにい。ごめんね。最後に隣にいなくて。どんな時も一緒だって言ったのに、わたしが離れたばっかりに……誰かおにいを生き返らせて」
「その願い聞き届けた」
「え?」
誰かの声が聞こえた気がしたけど。いや、気のせいか。
「はは。とうとう頭がおかしくなっちゃったかな」
「そんなことはない。我は神なり。人の子よ。貴様の兄、生き返らせてやってもいい」
「はっきり聞こえる。でも、そんな都合のいいことないでしょ?」
「都合の良し悪しはわからん。だが、貴様の言ったように自らの命と引き換えに生き返らせてやってもよい。我はこのよう」
「やる。やります」
「まだ説明の途中なのだが」
なんだか急に地面から草花が生えてきた。
神が現れたのは本当ということか? 幻覚じゃないのか?
「悪魔の取引とは考えないのか?」
「わたし一人生きてても仕方がないから、それなら万に一つの可能性に賭けたい」
「そうか。面白い。ならばこの世界に別れを告げるがいい。さすれば兄は生き返らせてやろう」
「ありがとう神様。ごめんねおにい。本当は一緒に居たいけど、それはダメみたい。おにいは一人でも魔王討伐の力になれるでしょ? 一般人だって言ったけど、おにいは一人でも戦えることわたしは知ってるんだから。本当はおにいが居ないといけなかったのはわたし。だから、わたしの代わりに魔王を倒してね。約束だよ? バイバイ」
言い終わると、なんだか体がぽかぽかしはじめた。
どうしてだろうものすごく安心する暖かさだ。
さっきまでひんやりとした空気だったのに、ひだまりのように心地いい。
ここで眠ったら気持ちいいだろうな。
いつも旅で宿に泊まって、硬いベッドで眠ってたのが嘘みたい。
「眠れ。貴様の願いは我が叶える」
「お願いします」
目をつぶると先ほどまでより暖かさが体を包んだ。
ふわふわのベッドに暖かな布団。
体を包む白い光に溶けるようにわたしは意識を手放した。
どこにもいない。
勇者に呼び出されたのは拠点の隣の町だよね?
「本当、どこまで行ったの? おにいは」
反応だとこの辺りなんだけど、どうしてこうもはっきりしないんだろ。
まるでもういなくなってるみたいな弱々しい反応しかない。
まさか道端で寝てるとか? いやいや、いくらおにいでもそんなことはしないって。
勇者パーティのメンバーなんだから、さすがにね。
あそこの路地裏で倒れてる男の人はわたしの兄じゃないよね?
「でも、放っておけないか」
人助けをすすんでやるってのは人として大事なこと。
でも、反応が近いのは気のせいだよね?
昼間から飲んでる酔っぱらいか何かでしょ。多分。
「あのー。大丈夫ですか?」
反応がない。ピクリとも動かない。
うつ伏せで倒れているせいで顔がよく見えないが、ぐっすり眠ってるとか?
にしても静かすぎる。
「本当に大丈夫ですか?」
体を揺すってみるも寝息すら聞こえてこない。
もしかして死んでるとか?
暗がりでよく見えないけど、服装や装備に見覚えがあるのは気のせいだよね?
「とりあえず仰向けに……」
手に布とは違う何かが触れた気がした。
よく見てみると赤い? 血?
背中を揺すった時についたの? それとも今。
それにこの顔。間違いない。わたしが見間違うはずない。これは正真正銘。
でも、まだ。
「……うう。泣いちゃだめ。わたしだって勇者パーティの一員なんだから、こんなところで泣いちゃ。泣いちゃ……」
どうにか嗚咽をこらえようとしても、悲しみが押し上げてきて声を上げてしまう。
「うわあああああ! あああああ!」
最後に残っていた家族である兄がこんなよくわからない場所で死んでしまうなんて。
考えもしなかった。急に死んでしまうってこと。
そりゃ、冒険してたら死ぬかもしれないけど、でも。
「……どうして、どうして?」
どうしてわたしのおにいが死ななきゃいけなかったの?
どうして今じゃなきゃいけなかったの?
わたしたちまだ魔王も殺せてないのに。
それに、この程度の刺し傷でおにい死ぬとは考えられない。何か特別な魔法やスキル、あとは毒とかを使われたに違いない。
近くでこんなことできるのはきっと勇者くらい。
「やっぱりあいつが怪しい。でもなんで? わざわざスカウトまでしておいて何がしたかったの?」
勇者だけじゃなく、他の女の子たちも最近は勇者の言いなりって感じだった。
一体何があったの? あの勇者は本当に勇者なの?
いや、今は勇者のことなんてどうでもいい。おにいをどうかおにいを。
でも、世界一の回復魔法の使い手はきっとペクターさんだ。勇者パーティである以上信じられない。
蘇生魔法なんて使える人知らないよ。
「助からないの? お兄ちゃん。返事してよ。ねえ。ねえってば」
普段なら笑いながら返事してくれるお兄ちゃんが何も答えてくれない。
「どうか、どうかおにいをわたしのことはいいからどうかおにいを! 神様ぁ……」
なんて言っても無駄なことはわかってる。
神なんていない。いればわたしは冒険者なんてやってない。
もっと静かに、けれど平和に家族みんなで生きることができたはずだ。
それを奪った魔王を止めない。止めることのできる存在など今のところどこにもいない。
神ならできるだろうが、そんな様子はない。
「……うう。おにい。ごめんね。最後に隣にいなくて。どんな時も一緒だって言ったのに、わたしが離れたばっかりに……誰かおにいを生き返らせて」
「その願い聞き届けた」
「え?」
誰かの声が聞こえた気がしたけど。いや、気のせいか。
「はは。とうとう頭がおかしくなっちゃったかな」
「そんなことはない。我は神なり。人の子よ。貴様の兄、生き返らせてやってもいい」
「はっきり聞こえる。でも、そんな都合のいいことないでしょ?」
「都合の良し悪しはわからん。だが、貴様の言ったように自らの命と引き換えに生き返らせてやってもよい。我はこのよう」
「やる。やります」
「まだ説明の途中なのだが」
なんだか急に地面から草花が生えてきた。
神が現れたのは本当ということか? 幻覚じゃないのか?
「悪魔の取引とは考えないのか?」
「わたし一人生きてても仕方がないから、それなら万に一つの可能性に賭けたい」
「そうか。面白い。ならばこの世界に別れを告げるがいい。さすれば兄は生き返らせてやろう」
「ありがとう神様。ごめんねおにい。本当は一緒に居たいけど、それはダメみたい。おにいは一人でも魔王討伐の力になれるでしょ? 一般人だって言ったけど、おにいは一人でも戦えることわたしは知ってるんだから。本当はおにいが居ないといけなかったのはわたし。だから、わたしの代わりに魔王を倒してね。約束だよ? バイバイ」
言い終わると、なんだか体がぽかぽかしはじめた。
どうしてだろうものすごく安心する暖かさだ。
さっきまでひんやりとした空気だったのに、ひだまりのように心地いい。
ここで眠ったら気持ちいいだろうな。
いつも旅で宿に泊まって、硬いベッドで眠ってたのが嘘みたい。
「眠れ。貴様の願いは我が叶える」
「お願いします」
目をつぶると先ほどまでより暖かさが体を包んだ。
ふわふわのベッドに暖かな布団。
体を包む白い光に溶けるようにわたしは意識を手放した。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる