2 / 68
第2話 仲間殺しの勇者
しおりを挟む
「少し待っててくれって、いつまで待たせるのよ」
おにいが勇者に呼び出されてからだいぶ時間が経つ。
拠点にわたしを置いて行ってそのままだ。
気がつけば他のパーティメンバーまでどこか行ってるし、みんなして何してるんだろ。
「おにいの反応も動いてないし。本当にただ話してるだけ?」
スキルのおかげでおにいの居場所は大体わかる。高さまではわからないが、スキルの反応があれば距離感はわかる。
それを頼りにすれば戦う相手が選べるくらいには、わたしもスキルについて詳しくなってきたはずだ。
子供の頃、おにい以外の家族を殺されたあの日から、わたしたちは魔王軍を滅ぼすために生きてきた。
これ以上わたしたちのような悲しい思いをする人を出さないため、目覚めたスキルを使ってきた。
だからわたしは、「阿吽の呼吸」というスキルを家族からの贈り物だと信じている。
「はー」
最初は二人だったわたしたちは、活躍を聞きつけた勇者パーティにスカウトされ、順風満帆、魔王までの道を着実に進んでると思っていたんだけど、最近その勇者の様子がおかしい。
前はもっとリーダーって感じで頼れる人って感じだったけど、最近はどうも強欲というかなんというか。
おにいは信頼しきってるけど、絶対裏があるよ。
そんなことを考えていたら、どこかへ行っていた人たちはダラダラと帰ってきた。
「お待たせアルカ。暇にして悪かったね」
「……」
勇者は最近、おにいにだけ笑顔を見せない。
誰にでも優しい模範のような人だったのに、本当になんなんだろ。
「無視はベルトレット様に失礼です」
「そんなことよりおにいは?」
「ラウルのこと? そんなに兄のことが心配なの? 大好きなのね」
「そうですよ。家族ですから。そもそもおかしいじゃないですか。てっきり全員揃って戻ってくると思ったのに」
「パーティだからと言って、常に一緒に行動というわけではありません。ラウル様は少し用があるとおっしゃっていました。すぐに戻ってくると思われますが」
「あーもう!」
いっつもおにいはふらっとどこかへ行っちゃうんだから。
わたしが一緒じゃないとただの一般人なのに。そういうことわかってないのかな?
全く世話が焼ける。
「わたし、おにいの迎えに行ってきます。皆さんはここで待っててください」
「ちょっと待つので」
勇者がカーテットさんを止め首を横に振った。
どういう風の吹き回しかわからないが、行っていいってことでしょ。
あんたに言われなくてもわたしはおにいのところに行くから。
「よかったんです? アルカを止めないで」
カーテットの疑問はもっともだろう。
今ラウルのいる場所まで向かわせたら、死んでいることがバレてしまう。
だが、だからどうしたというのだ? 誰が俺を疑うことができる?
ちょっと用がある。その後に襲われた可能性だってあるじゃないか。最後に話をしたのが俺とは限らない。俺はただ、ラウルを呼び出して話をしただけだ。その後のことは何も知らない。
「いいのさ。ここで向かわなければもう会えないかもしれないだろう?」
「ベルトレット様やっさしー。そうよね。いくらダメな兄でも別れは済ませておかないとね」
「そういうことさ。別れを済ませることできっと強くなる。それがいいんだ。リマの言う通りどんなダメな兄だとしても家族は家族なのだから」
「そうですね。アルカ様の様子ですと、家族は何よりも大切なようでした。ですが、ワタクシどもと同じようにベルトレット様を信仰なさればいいのに」
「無理はないさ。君たちと比べれば知り合って日が浅い。兄を失ったとしても優しくしてくれた。だからこそ俺を信じるってものだろ」
そう。ストーリーが大事なのだ。
ただ仲良くなるだけではいけない。俺たちは勇者パーティ。危機的状況を乗り越えて絆を深めてこその仲間だ。
カーテットもリマもペクターも俺のことを心から信じてくれている。
それはストーリーがあったからだ。
まあ、そもそも女は誰だってそうなる。俺は勇者なのだから。誰より強い人類唯一の希望なのだから。
「しかしあっけなかったな。アルカと一緒なら俺の攻撃なんてかすりもしないラウルがただの短剣、それもその先についた毒でくたばるなんてな」
そこら中に俺たちの笑い声が響き渡る。
楽しそうな雰囲気に流され、周囲の人間もつられて笑っている。
そう、これでいい。これでいいんだ。みんな俺のことが大好きだからな。
「唯一の解毒薬は俺たちの手の中にある。そして、蘇生できる可能性のある人間は始末しておいた。蘇生魔法なんて使えるはずないからな。実在しないものが存在するなんて言っている嘘つきは、処刑されて当然だ。不届き者は成敗しないとな」
「その通りです」
「ベルトレット様が一番だわ」
「なんてったってワタクシたちの神ですから」
「フハハ。はーっはっはっは。後は、傷心で帰ってきたアルカを優しく受け止め、抱きしめ、受け入れてやるだけだ。こうして落ちなかった女はいない。なぁに、いくらアルカでもその悲しみの元が造られたものだなんて気づかない。そうだろ?」
「そうです」
「その通りですわ」
「神が正しいのです」
こいつらだって、俺の作ったストーリーを与えたやつらだが、こうして他人のストーリー作りに手助けしても自分のことには当てはめて考えない。
ショックで頭がおかしくなってるのか? いや、そんなわけない。全て俺のカリスマ。
わかっていたとしても、俺から離れる方が損だと理解しての行動だ。
なんてったって、俺は勇者なのだから。
「今から帰りが楽しみだな」
おにいが勇者に呼び出されてからだいぶ時間が経つ。
拠点にわたしを置いて行ってそのままだ。
気がつけば他のパーティメンバーまでどこか行ってるし、みんなして何してるんだろ。
「おにいの反応も動いてないし。本当にただ話してるだけ?」
スキルのおかげでおにいの居場所は大体わかる。高さまではわからないが、スキルの反応があれば距離感はわかる。
それを頼りにすれば戦う相手が選べるくらいには、わたしもスキルについて詳しくなってきたはずだ。
子供の頃、おにい以外の家族を殺されたあの日から、わたしたちは魔王軍を滅ぼすために生きてきた。
これ以上わたしたちのような悲しい思いをする人を出さないため、目覚めたスキルを使ってきた。
だからわたしは、「阿吽の呼吸」というスキルを家族からの贈り物だと信じている。
「はー」
最初は二人だったわたしたちは、活躍を聞きつけた勇者パーティにスカウトされ、順風満帆、魔王までの道を着実に進んでると思っていたんだけど、最近その勇者の様子がおかしい。
前はもっとリーダーって感じで頼れる人って感じだったけど、最近はどうも強欲というかなんというか。
おにいは信頼しきってるけど、絶対裏があるよ。
そんなことを考えていたら、どこかへ行っていた人たちはダラダラと帰ってきた。
「お待たせアルカ。暇にして悪かったね」
「……」
勇者は最近、おにいにだけ笑顔を見せない。
誰にでも優しい模範のような人だったのに、本当になんなんだろ。
「無視はベルトレット様に失礼です」
「そんなことよりおにいは?」
「ラウルのこと? そんなに兄のことが心配なの? 大好きなのね」
「そうですよ。家族ですから。そもそもおかしいじゃないですか。てっきり全員揃って戻ってくると思ったのに」
「パーティだからと言って、常に一緒に行動というわけではありません。ラウル様は少し用があるとおっしゃっていました。すぐに戻ってくると思われますが」
「あーもう!」
いっつもおにいはふらっとどこかへ行っちゃうんだから。
わたしが一緒じゃないとただの一般人なのに。そういうことわかってないのかな?
全く世話が焼ける。
「わたし、おにいの迎えに行ってきます。皆さんはここで待っててください」
「ちょっと待つので」
勇者がカーテットさんを止め首を横に振った。
どういう風の吹き回しかわからないが、行っていいってことでしょ。
あんたに言われなくてもわたしはおにいのところに行くから。
「よかったんです? アルカを止めないで」
カーテットの疑問はもっともだろう。
今ラウルのいる場所まで向かわせたら、死んでいることがバレてしまう。
だが、だからどうしたというのだ? 誰が俺を疑うことができる?
ちょっと用がある。その後に襲われた可能性だってあるじゃないか。最後に話をしたのが俺とは限らない。俺はただ、ラウルを呼び出して話をしただけだ。その後のことは何も知らない。
「いいのさ。ここで向かわなければもう会えないかもしれないだろう?」
「ベルトレット様やっさしー。そうよね。いくらダメな兄でも別れは済ませておかないとね」
「そういうことさ。別れを済ませることできっと強くなる。それがいいんだ。リマの言う通りどんなダメな兄だとしても家族は家族なのだから」
「そうですね。アルカ様の様子ですと、家族は何よりも大切なようでした。ですが、ワタクシどもと同じようにベルトレット様を信仰なさればいいのに」
「無理はないさ。君たちと比べれば知り合って日が浅い。兄を失ったとしても優しくしてくれた。だからこそ俺を信じるってものだろ」
そう。ストーリーが大事なのだ。
ただ仲良くなるだけではいけない。俺たちは勇者パーティ。危機的状況を乗り越えて絆を深めてこその仲間だ。
カーテットもリマもペクターも俺のことを心から信じてくれている。
それはストーリーがあったからだ。
まあ、そもそも女は誰だってそうなる。俺は勇者なのだから。誰より強い人類唯一の希望なのだから。
「しかしあっけなかったな。アルカと一緒なら俺の攻撃なんてかすりもしないラウルがただの短剣、それもその先についた毒でくたばるなんてな」
そこら中に俺たちの笑い声が響き渡る。
楽しそうな雰囲気に流され、周囲の人間もつられて笑っている。
そう、これでいい。これでいいんだ。みんな俺のことが大好きだからな。
「唯一の解毒薬は俺たちの手の中にある。そして、蘇生できる可能性のある人間は始末しておいた。蘇生魔法なんて使えるはずないからな。実在しないものが存在するなんて言っている嘘つきは、処刑されて当然だ。不届き者は成敗しないとな」
「その通りです」
「ベルトレット様が一番だわ」
「なんてったってワタクシたちの神ですから」
「フハハ。はーっはっはっは。後は、傷心で帰ってきたアルカを優しく受け止め、抱きしめ、受け入れてやるだけだ。こうして落ちなかった女はいない。なぁに、いくらアルカでもその悲しみの元が造られたものだなんて気づかない。そうだろ?」
「そうです」
「その通りですわ」
「神が正しいのです」
こいつらだって、俺の作ったストーリーを与えたやつらだが、こうして他人のストーリー作りに手助けしても自分のことには当てはめて考えない。
ショックで頭がおかしくなってるのか? いや、そんなわけない。全て俺のカリスマ。
わかっていたとしても、俺から離れる方が損だと理解しての行動だ。
なんてったって、俺は勇者なのだから。
「今から帰りが楽しみだな」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる