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第1話 勇者からの呼び出し。そして、奇襲
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「ぐはっ」
突然、背後から何者かに刺された。
周囲に敵はいなかったはず。だからこそ、俺は今拠点にしている町の隣町にわざわざ呼び出されたのだと思っていたが、まさか待ち伏せがいたのか。
「大丈夫か。ベルトレット……」
なんとか壁に体を預け、必死になって振り返ると、そこには血の滴る剣を持ったベルトレットの姿があった。
「なんで……?」
ベルトレットは俺が所属しているパーティのリーダー。
それもただのリーダーではない。魔王に対抗するための希望の存在。世界を代表をする勇者パーティのリーダーであり、勇者本人。
そんなベルトレットが一体どうして俺に攻撃を。
「まさか、操られているのか?」
「……くっく」
ベルトレットは俺の質問には答えず、笑いをこらえているように見える。
やはり、操られているのか? なら、なんとか目を覚まさせないと。
だが、今の俺ではどうしようもない。
剣で刺された程度だが、体が自由に動かない。こんなにも意識ははっきりとしているのに。
「異変を感じ取れば、すぐに仲間たちがやってくるはずだ。それまで、なんとか持ちこたえてくれ」
「ここまでされても、まだ仲間、か」
「ベルトレット。お前は操られているんだろう? なら、正確には今のお前はベルトレットじゃない。話にならん」
「……くっく。そんなわけないだろ。操られていたらここに来る前にパーティの僧侶であるペクターが気づいて治すだろ」
「何?」
それでは、勇者パーティの僧侶であるペクター・ギドーが気づかないほどの洗脳ということか?
「まだわからないのかラウル。俺が言いたいのはお前は必要ないってことだ」
「は?」
必要ない? 俺が? なんでそんな話になる?
というか、そんなわけないだろ。本物のベルトレットならそんなことを言うはずがない。
俺は妹のアルカとともに、今まで勇者パーティで切り込み役をやってきた。俺たちは戦う敵の弱点を洗い出し、可能なら倒してしまう。そんな特攻役をしていたのだ。
今さら俺たちがいなくなったら、どうやって敵の弱点を探るというのだ。
それに、元々俺と妹の二人で冒険していた俺たちを、仲間に引き入れてくれたのはベルトレット本人だ。必要ないなんて言うはずがない。
「まだ信じられないって顔してるな。なら、どうしてお前は意識だけはっきりして、情けなく壁に寄りかかっているんだ?」
「それは、操られたベルトレットに刺されたから」
「だから言っただろ。俺は操られていない。俺は俺の意思でお前を刺したんだ」
「そんなわけ。くっ」
ダメだ。体に力が入らない。
「ようやく倒れたか。一人にしてもなかなかしぶといやつだな」
「俺だって勇者パーティの一員だからな」
「なら勇者パーティのメンバーにも効くような、こんな都合のいい毒を操られている状態で用意できると思うか?」
「毒?」
「ただ刺されただけでお前はそんな風にならないだろ。たとえ妹と離されていたとしてもな」
「アルカがどうしたと言うんだ」
「そうそう。そのアルカ・セレスティーンだよ。俺はあいつだけでいいんだ。お前はいらない」
「そんなことない。俺は妹と二人で発動するスキルを持っているんだ。だから二人でいないといけないんだ」
そう、俺と妹のスキルは「阿吽の呼吸」だ。俺たちは二人の距離が近いほど、さまざまな能力が強化されるスキルだ。
「スキルだけじゃないだろ? 家族が魔王の侵攻で殺されたから兄妹で仲良くってんだろ? だからって俺の邪魔してんじゃねぇよ」
「邪魔?」
妹を大切にすることと勇者の邪魔をすること。一体何が関係あると言うんだ。
「この世の女はみんな俺に好かれるために生まれてきてるんだ」
「何を言って、ぐあっ」
「黙って聞け。次は腹を蹴るだけじゃ済まないぞ」
「……」
体が動かないからっていいようにしやがって。
「そう。この世の女はみんな俺に好かれるためにいる。それを、やれ二人で特訓だの家族の時間だのとぬかして邪魔しやがって、ええ?」
「ぐあっ。黙ってたら蹴らないんじゃないのか?」
「そんなこと言ってないだ、ろ!」
「うっ」
痛い。その辺のモンスターの攻撃より痛い。
勇者だからと言えこの痛みはおかしい。いくら妹と離されているからといって、俺一人でも戦えるくらいには鍛えてきたはずだ。
そもそも、ただ剣に刺された程度でこんなに体の自由が奪われるはずはない。
本当に俺は毒に侵されているのか。
「やっとわかってきたって顔だな。ま、俺の話が嘘じゃないってのはこの子たちが証明してくれる」
「この子、たち?」
ベルトレットの合図で現れたのは三人のパーティメンバー。
女盗賊のカーテット・オーミー。短い白髪がトレードマークの身軽な子ってイメージ。動きやすそうな服装は変わらずだが、今日はベルトレットとの距離が近い。
女魔法使いのリマ・ドット。ツヤのある赤髪に由緒正しき杖を持ったエリート魔法使い。頭がキレ、作戦指示をしているが、今はそんな賢そうな雰囲気はどこにもない。
女僧侶のペクター・ギドー。長い青色の髪、そして全身青で揃えられた神官服の女性。いつも落ち着いており、俺たちパーティの心の支えのような存在だが、どうしてだろう頬を赤らめ普段のペクターではないみたいだ。
「お前もよく知る俺のパーティメンバーだよ。今回の作戦立案をしてくれたリマ。毒の調合と万一の時のための解毒薬を作ってくれたとカーテットにペクター。みーんな俺のことが大好き。そうだろ?」
「もちろんです。ベルトレット様。あなた様のためならラウルなんて殺してしまっても構わないです」
「嘘だろ?」
「嘘なわけないでしょ。妹の幸せを願うなら邪魔しなければよかったのよ」
「俺は」
「神も言っておられます。勇者が世界を救うと、ラウルは不要であると」
「……」
俺は間違っていたのか? 俺が間違っていたのか?
妹との特訓。多すぎたのか? もっとパーティ全体を見ているべきだったのか?
背中合わせが最強だからとコンビネーションを磨こうとしすぎたのか?
「こんな状況になった理由がやっと理解できたか? お前はここで死ぬんだよ。誰にも知られず朽ちていくのさ。勇者に歯向かった罪は重いってことだ」
「……」
「反論する元気もないか。まあ、仕方ない。現実をやっと認識できたってことだろう。成長してくれて俺も嬉しいよ。ま、お前の人生はこれで終わりだけどな」
話をするために毒は即死でなく体の自由を奪うものだったのか。くそ。攻撃一回受けただけで終わりかよ。
足音がどんどんと遠ざかっていく。
二人で話がしたいと呼び出されたが、こんなことになるなんて。
体の自由どころか意識まで遠のいていく。
ああ、アルカ。最後の家族。どうか幸せでいてくれ。
突然、背後から何者かに刺された。
周囲に敵はいなかったはず。だからこそ、俺は今拠点にしている町の隣町にわざわざ呼び出されたのだと思っていたが、まさか待ち伏せがいたのか。
「大丈夫か。ベルトレット……」
なんとか壁に体を預け、必死になって振り返ると、そこには血の滴る剣を持ったベルトレットの姿があった。
「なんで……?」
ベルトレットは俺が所属しているパーティのリーダー。
それもただのリーダーではない。魔王に対抗するための希望の存在。世界を代表をする勇者パーティのリーダーであり、勇者本人。
そんなベルトレットが一体どうして俺に攻撃を。
「まさか、操られているのか?」
「……くっく」
ベルトレットは俺の質問には答えず、笑いをこらえているように見える。
やはり、操られているのか? なら、なんとか目を覚まさせないと。
だが、今の俺ではどうしようもない。
剣で刺された程度だが、体が自由に動かない。こんなにも意識ははっきりとしているのに。
「異変を感じ取れば、すぐに仲間たちがやってくるはずだ。それまで、なんとか持ちこたえてくれ」
「ここまでされても、まだ仲間、か」
「ベルトレット。お前は操られているんだろう? なら、正確には今のお前はベルトレットじゃない。話にならん」
「……くっく。そんなわけないだろ。操られていたらここに来る前にパーティの僧侶であるペクターが気づいて治すだろ」
「何?」
それでは、勇者パーティの僧侶であるペクター・ギドーが気づかないほどの洗脳ということか?
「まだわからないのかラウル。俺が言いたいのはお前は必要ないってことだ」
「は?」
必要ない? 俺が? なんでそんな話になる?
というか、そんなわけないだろ。本物のベルトレットならそんなことを言うはずがない。
俺は妹のアルカとともに、今まで勇者パーティで切り込み役をやってきた。俺たちは戦う敵の弱点を洗い出し、可能なら倒してしまう。そんな特攻役をしていたのだ。
今さら俺たちがいなくなったら、どうやって敵の弱点を探るというのだ。
それに、元々俺と妹の二人で冒険していた俺たちを、仲間に引き入れてくれたのはベルトレット本人だ。必要ないなんて言うはずがない。
「まだ信じられないって顔してるな。なら、どうしてお前は意識だけはっきりして、情けなく壁に寄りかかっているんだ?」
「それは、操られたベルトレットに刺されたから」
「だから言っただろ。俺は操られていない。俺は俺の意思でお前を刺したんだ」
「そんなわけ。くっ」
ダメだ。体に力が入らない。
「ようやく倒れたか。一人にしてもなかなかしぶといやつだな」
「俺だって勇者パーティの一員だからな」
「なら勇者パーティのメンバーにも効くような、こんな都合のいい毒を操られている状態で用意できると思うか?」
「毒?」
「ただ刺されただけでお前はそんな風にならないだろ。たとえ妹と離されていたとしてもな」
「アルカがどうしたと言うんだ」
「そうそう。そのアルカ・セレスティーンだよ。俺はあいつだけでいいんだ。お前はいらない」
「そんなことない。俺は妹と二人で発動するスキルを持っているんだ。だから二人でいないといけないんだ」
そう、俺と妹のスキルは「阿吽の呼吸」だ。俺たちは二人の距離が近いほど、さまざまな能力が強化されるスキルだ。
「スキルだけじゃないだろ? 家族が魔王の侵攻で殺されたから兄妹で仲良くってんだろ? だからって俺の邪魔してんじゃねぇよ」
「邪魔?」
妹を大切にすることと勇者の邪魔をすること。一体何が関係あると言うんだ。
「この世の女はみんな俺に好かれるために生まれてきてるんだ」
「何を言って、ぐあっ」
「黙って聞け。次は腹を蹴るだけじゃ済まないぞ」
「……」
体が動かないからっていいようにしやがって。
「そう。この世の女はみんな俺に好かれるためにいる。それを、やれ二人で特訓だの家族の時間だのとぬかして邪魔しやがって、ええ?」
「ぐあっ。黙ってたら蹴らないんじゃないのか?」
「そんなこと言ってないだ、ろ!」
「うっ」
痛い。その辺のモンスターの攻撃より痛い。
勇者だからと言えこの痛みはおかしい。いくら妹と離されているからといって、俺一人でも戦えるくらいには鍛えてきたはずだ。
そもそも、ただ剣に刺された程度でこんなに体の自由が奪われるはずはない。
本当に俺は毒に侵されているのか。
「やっとわかってきたって顔だな。ま、俺の話が嘘じゃないってのはこの子たちが証明してくれる」
「この子、たち?」
ベルトレットの合図で現れたのは三人のパーティメンバー。
女盗賊のカーテット・オーミー。短い白髪がトレードマークの身軽な子ってイメージ。動きやすそうな服装は変わらずだが、今日はベルトレットとの距離が近い。
女魔法使いのリマ・ドット。ツヤのある赤髪に由緒正しき杖を持ったエリート魔法使い。頭がキレ、作戦指示をしているが、今はそんな賢そうな雰囲気はどこにもない。
女僧侶のペクター・ギドー。長い青色の髪、そして全身青で揃えられた神官服の女性。いつも落ち着いており、俺たちパーティの心の支えのような存在だが、どうしてだろう頬を赤らめ普段のペクターではないみたいだ。
「お前もよく知る俺のパーティメンバーだよ。今回の作戦立案をしてくれたリマ。毒の調合と万一の時のための解毒薬を作ってくれたとカーテットにペクター。みーんな俺のことが大好き。そうだろ?」
「もちろんです。ベルトレット様。あなた様のためならラウルなんて殺してしまっても構わないです」
「嘘だろ?」
「嘘なわけないでしょ。妹の幸せを願うなら邪魔しなければよかったのよ」
「俺は」
「神も言っておられます。勇者が世界を救うと、ラウルは不要であると」
「……」
俺は間違っていたのか? 俺が間違っていたのか?
妹との特訓。多すぎたのか? もっとパーティ全体を見ているべきだったのか?
背中合わせが最強だからとコンビネーションを磨こうとしすぎたのか?
「こんな状況になった理由がやっと理解できたか? お前はここで死ぬんだよ。誰にも知られず朽ちていくのさ。勇者に歯向かった罪は重いってことだ」
「……」
「反論する元気もないか。まあ、仕方ない。現実をやっと認識できたってことだろう。成長してくれて俺も嬉しいよ。ま、お前の人生はこれで終わりだけどな」
話をするために毒は即死でなく体の自由を奪うものだったのか。くそ。攻撃一回受けただけで終わりかよ。
足音がどんどんと遠ざかっていく。
二人で話がしたいと呼び出されたが、こんなことになるなんて。
体の自由どころか意識まで遠のいていく。
ああ、アルカ。最後の家族。どうか幸せでいてくれ。
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