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第63話 剣聖を止めなくては:王国騎士フロニア視点

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~王国騎士フロニア視点~

「どけ! 邪魔だ! どけえ!」

「痛い! やめてください!」

「おい。何をしてるんだ」

「離せ! オレの通り道にいるのが悪いんだよ!」

「ぐあっ!」

「あの剣は……」

 先ほどから街の様子がおかしい。

 そう思い駆けつけたのだが、おそらくあそこで暴れる男が原因だろう。

 持ち物からして剣聖……。

「貴様、国外追放されていた剣聖だろう。どうやってこの国に入ってきた。どうしてこんなところにいる。さっさと出ていけ!」

「ああん? チッ。お前、フロニアっつったか? 王国騎士までお出ましか」

「俺の事を知っているようだな。なら話が早い。さっさと出ていけ」

「どけ」

「俺は出て行けと言ったのだが?」

「オマエこそ、オレの言葉が聞こえなかったか? どけっつったんだよ!」

「どかない」

 剣聖の実力は知っている。強者であり、俺の憧れでもあった。

 力だけを追い求めていた頃の俺は、剣聖こそ至高の存在だと思い込んでいた。

 だが、今は違う。

 リストーマ様と戦い。敗北を経験したことで、力の持ち方、力の使い方を考え直す機会になった。

 かつての力を追い求め、道を誤っていた俺とは違う。リストーマ様が正しき道へと導いてくださったのだ。

 だからこそ、ここを通す訳にはいかない。

 できるだけ、リストーマ様の負担を軽くする。それが、自分がここを通過させないための覚悟だ。

 リストーマ様は自分を犠牲にしてでも相手してしまうだろうから。

「もう一度だけ忠告だ。どけ。オレは闘技場へ行く」

「どかない。行ってどうする」

「知ってどうする」

 ダメだ。話が通じない。

「どうやら、死にたいらしいな。話のわからないやつめ」

「それはこっちのセリフだ」

「剣を抜いたな?」

「抜き身の剣を振り回していた奴がよくいう」

「へっ。オレのことは関係ないな」

 どうやら初めから本気らしい。

「ふぅ」

「震えてるぞ? 本当にやる気か?」

「これはただの武者震いだ」

「どーだか」

 指摘された通り、構えただけで震えが止まらない。気迫がすごい。

 今はもうヨボヨボな男に見えたが、今わかった。

 これが剣聖なのだ。

「今ならまだ間に合う。退け。オマエはよくやった。褒めてやる」

「退かない。俺はこれまで強さというものを履き違えていた。以前の俺なら、今こうして貴様の前に立つことすら叶わなかっただろう。だが、今は違う。体が動く。抵抗できる。ならば、全身全霊を持って貴様を止める」

「はっ! その心意気は認めてやる。さすがは王国騎士団きってのエース」

 舐められている。

 だが、そんなことは関係ない。

 俺の役割は王国騎士として脅威を撃退すること。

「なっ……」

 まだ構えているだけなのに、剣にヒビが。

 いや、関係ない。

「我は王国騎士フロニア! 剣聖ホーミッド・シュウェット! 覚悟!」

 剣と剣がぶつかったように感じたその瞬間、俺の剣が割れ、砕け、粉々になった。

 そのまま、俺の体はゆっくりと剣を受け入れるしかなかった。

「がああああ!」

「だから言っただろう。相手は剣聖なんだ」

「はあ、はあ……」

 まるで玩具を壊すように、いともたやすく俺の剣が破壊された。

 敵わない……。

「信じられないか? 無理もない。今のオレからすれば、オマエの相手なんて赤子の手を捻るようなものだ」

「力不足……。そう、言いたいのか……」

「まだ喋れるのか。丈夫だな。だが、だからこそ、その苦しみが続くことになる」

「どう、なんだっ……!」

「……。そうだよ。今のオマエじゃ力不足。今のオマエにゃ何も守れない」

「かはっ! ……はあ、はあ」

「その様子じゃ長くは保たなそうだな」

 くそ。

 力を求めていた俺が力不足で敗れるとは。

 いつも、いつもそうだ。俺の力が足りないせいで大切なものを守れない。

「さあ、どけ。オマエの負けだ。忠告はしてたからな。オレは悪くない。オマエが悪い。……は?」

 だが、守れなくても、俺は!

「それでも、俺は、貴様を、通さないっ……!」

「はあ、だる……。さっさとどけよ。オラッ!」

「ぐあっ! ここを、通す、訳、には……」

「しぶとかったな。オマエはよくやった。じゃあな」

 結局、力及ばずか……。

 すいません。リストーマ様。姫様。
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