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第46話 弟成敗

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「リトート? どうしてここに」

「近づくな。コイツは危険だ。コイツは前々から君のことを狙っていた。危険度の低さから放置していたが」

「離せ! 離せよババア!」

「まーたババアって言ったー!」

「おとなしくしろ!」

 僕の義理の弟であるリトートが、女性二人に取り押さえられていた。

 この様子だと、剣を持って街で暴れていたのはリトートなのか。

 僕を狙っていたってことは、僕をさそい出すために……?

 僕の義弟が僕を狙って、僕のことを助けてくれたのは、いつか話しただけの白と黒が印象的な女性たち。こんなことってあるんだな。

「おいダメ兄。いいや、クソ野郎。俺のことを上から見下してて楽しいか? あ? お前のせいでな。俺たちの生活めちゃくちゃなんだよ!」

「自分たちでやったことのせいだろ?」

「お? お前、誰が俺にそんな口の利き方していいって言ったよ。ぶっ飛ばしてやる!」

「そんな体勢で何ができる? ワタシは解放する気はないぞ」

「そうそう。ゆっくり痛ぶってあげる。さすがに二度三度とババア呼ばわりされるのは看過できないからねぇ!」

「あ、あの、できれば離してやってもらえませんか?」

「なに?」

 驚かれるのは当たり前だ。僕を狙っていた相手なんだから。

 でも、これはきっと僕のまいた種。自分で解決しないといけない問題。

「なんだ? 兄気取りか?」

「違う。やるなら正々堂々とやろう。不意打ちを狙ったり、周りの人を巻き込んで迷惑をかけたりしないで」

「いいぜ。ほら、離せよババア! アイツが離せって言ってんだからいい加減どけよ! 重いんだよ」

「……わかった」

「すみません。でも、ありがとうございます!」

 女性たちは、おとなしく僕の頼みを聞いてくれた。

 解放されたリトートはニヤリと笑うと、指をクイクイっと動かした。

「さっさと外に出ようぜ? クソ野郎が。ここじゃ邪魔って話だろ?」

「ああ」





「すみません。セスティーナまで巻き込んでしまって」

「いえ。構いません。私としても、あのまま帰るわけにはいきませんから。それに、これはリストーマ様だけの問題ではありません。剣聖の決定には私も関わっていますから」

「ありがとうございます」

「何をごちゃごちゃ言ってるんだよ! さっさとやるぞ」

「もちろんだ。セスティーナは下がっててください」

「はい」

 僕たちは試合のために近くの森まで移動してきた。

 僕を守ってくれたくらいだから、二人の女性は信頼できるはず。ということで、姫様の警護を任せた。

 それだけでなく、今回の試合を見届けてくれるらしい。

 本当に助けてもらったのにありがたい。

「クソ野郎が俺に勝てるわけがない。時間稼ぎは終わりにしようぜ」

「はあ……」

 リトートは、いつからこんな感じになってしまったのだろう。

「ああん? そこのババアには取り押さえられたが、俺がお前に負ける理由がないのは明白だろ?」

 確かに、剣聖の家を追い出される前の僕なら、リトートに対して萎縮してまともに動けず、一方的に暴力を振るわれるだけだっただろう。

 でも、それは僕がジョブすら扱えていなかった頃のこと。

「ジョブにも覚醒していない、スキルも使えないような人間に、僕だって負けるつもりはない。もし僕が負けたとなれば、色々な人に顔向けできないから」

「調子に乗りやがって。顔向けできない相手って誰だよ。それってもしかして後ろの女か? なら、お前をここで圧倒的な実力差でぶっ飛ばして、その女も俺がもらってやるよ」

 最近はもう、僕の前だといつもこうだ。

 リトートは、父親にだけいい顔をする。

 だから、今のリトートに対して、いい思い出はない。

「腹立つ顔だな。接近禁止、国外追放の対象を父様だけにしたこと、後悔させてやるよ。スキルが役立たずなんだ。どうせ条件は俺と同じだろ? 勝った気になるな」

「そろそろ始める。双方準備はいいな?」

「もちろんだよババア」

「はい」

「……。それでは、初め!」

「ヒャッハー! ここでお前の人生はジ・エンドだ!」

「どうやって?」

「え」

 うん。剣を軽く交えただけでわかる。

 リトートはフロニアさんたちより弱い。

「ど、どうして俺の剣を防げる。どうして、どうしてどうしてどうして!」

 少し防がれただけなのに、焦り、不安、混乱。

 当然のように感情も安定していないし、動きにスキだらけ。しかも、この間のオークのようにスピードが上がるようなこともない。

 リトートの動きはただただつたなく、どんどんと動きがバラバラになっていく。

「これで剣聖の息子だって威張ってたのか?」

「くっ! 黙れ! おかしい、何かがおかしい。俺とお前の戦いで、こんなことが起こるはずないんだ!」

「ふーん? 現に起こってるけど? これが現実ってことじゃないかな?」

「うるさい。黙れ黙れ黙れ黙れぇ!」

 剣聖も、剣聖というジョブやスキル頼りで、きっと剣の扱いに秀でていたわけじゃない。

 それなら、目の前のただの一般人が、僕や王国騎士団の方々より、剣を扱える理由はない。

「どうしてだ。どうして攻めきれない!」

「それが実力だよ」

「違う! 俺の実力はこんなもんじゃ……。そうか、そういうことか……」

 突然諦めたように、リトートは剣を振るのをやめた。

 だが、その顔は気持ち悪い笑みでゆがんでいる。

「この卑怯者め!」

「なに?」

「わかったぞ。後ろのやつらを使って何かしやがったな! クソ野郎! そこまでして弟に勝ちたいか!」

「何を言っているんですか?」

「セスティーナ!」

「大丈夫です」

「なんだ? やろうってのか? いいぜ。俺は女相手でも手加減しない」

「私たちは何もしていない。そうですね?」

「……。そうだ……。俺は何もされていない」

「意外と正直者なのか? 認めなかったらワタシが認めさせようかと思ったが不要だったな。そうだ実力差だ」

「何今の?」
「あの少女のスキルだろう」
「へー」

「……認めた……? 俺が……? いや、だが、そんなわけ、そんなわけあるものか! 違う。なら、どうして……。うあああああ!」

 まだやるか。

 打ち合い。いやそろそろ頃合いだな。

 攻撃も見切った。

 もう終わりにしよう。

「うあああああああ。ああああああっ! はあっはあっ。血、血が。血があっ! 痛い。痛いよぉ」

「うそ、だろ……?」

 軽くかすっただけの一撃で、リトートは倒れてしまった。

 切った箇所を押さえながら、激しくのたうち回っている。

「えっと……」

「あああああっ! 死、死ぬ! 死ぬぅ! いや、嫌だ!」

「……。早く母親に治してもらうといい」

「お、覚えとけよぉ!」

 剣を杖代わりにして、リトートは必死になって逃げていった。
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