上 下
39 / 69

第39話 今日は一人だ:魔王の娘フラータ視点

しおりを挟む
「見れた! 近くまで来ててよかったー!」

 もうできなくなっちゃったのかと思って心配してたけど、そんなことないよね!
 よかった。本当によかった!

 今日はダンジョンの中でも大きなナメクジと戦ってただけみたいだし、これはもう絶好の日じゃん!

「あー。んふふー! なんだかリストーマくんと一つになったみたいだったなー」

 もう終わったのに、まだ夢の中にいるみたいな気分。

 二回目だからか、フラータがリストーマくんの中に入っちゃったみたいな。リストーマくんがフラータの中に入ってきちゃったみたいな。不思議な感じだった。

 また、パパは騒いでたかもしれないけど、そんなこともうどうでもいい。

 今までこんなに一人のことを思ったことはないんだもん。

「まだかなまだかな? 少し休んでから出てくるかな?」

 まさかフラータが惹かれる相手が人間なんて想像もしてなかった。

 でも、フラータにとっては相手が人間か魔族かなんて小さなこと。

 そもそも、誰かのことが気になったことなんて草花くらいだもん。

「あ、あなたもだよ?」
「……?」

 言葉はわからないけど、いつも話を聞いてくれるうさぎさん。

 魔王軍の間では、魔族に動物はなつかないなんて言われてたけど、そんなことない。

 しっかり気持ちを伝えればこうしてリストーマくんを待つ間、隣にいてくれる。

「チッ。……先客かよ」

 あれ、誰だろう。うさぎさんに夢中で気づかなかった。

 あんまり脅威じゃなさそうだけど、敵意は強い感じ。

 もしかしてフラータと同じ目的……?

 でも、様子からして少し違う感じかな。

 じゃあ、もしかしてフラータに敵対意識……!

 それならどうしてどこかへ行っちゃったんだろう。まるでフラータがいたからやめておくみたいな。

「なんだったんだろう……? あ、来た……!」

 反射的に隠れちゃった。

 そっと顔をのぞかせると、リストーマくんが見える。

「ふぅ。スキルの対象が多いと発動自体は少しラクでも、いっぱい話しかけられるから、ちょっと大変だなぁ」

「一人!」

 近くを念入りに探してみるけど、誰もいない。

 魔族っぽい子も、ドラゴンっぽい子も、お姫様っぽい子もいない。

 さっきの子も帰っちゃったみたいだし、リストーマくん一人。

 今日は一人だ! これはもうフラータに今だと言ってるんだ! 

 今がチャンス、ちょっと緊張するけど、行くしかない!

「ひ、久しぶり! リストーマくん。元気だった?」

「あ、えっと。フラータ!」

「そう! 覚えててくれたんだね」

「この間、走ってどこかに行かなかった?」

「あ、ああ……。ごめんね……? ちょっと緊張しちゃって」

「そうなの!? 別に僕なんかに緊張しなくていいのに」

「そ、そんなことないよ。僕なんかなんてことない。リストーマくんはすごいよ!」

「そ、そうかな? 照れるなぁ」

 あ、ごまかそうと思ったけど、正直に話しちゃった。

 でも、なんだろう。嫌じゃない?

 きっと魔王軍の誰かが相手だったら、どう言ってもダメだったはず。
 ううん。そもそもこんなに正直に話せなかった。

 でも、リストーマくんは安心して話せる。

「そういえば、フラータはここによく来るの? もしかして、フラータが僕に対して危ないって言おうとしてくれてたとか?」

「ううん。フラータが来るのは時々だよ。それに、リストーマくんなら大丈夫だと思う。フラータが、リストーマくんに危険って言われて、気をつけるようにはしてるくらいだから」

「そっか。よかった。でも、注意してね。女の子だし」

「……! ……女の子」
「あれ、何か変なこと言っちゃったかな?」
「ううん! ありがとう!」

 女の子。女の子だって!

 やっぱりこの服のおかげかな?

 リストーマくんに女の子として心配されてたなんて!

「リストーマくん。やっぱり優しいんだね」

「別に普通だよ。それに、フラータは近くを歩くのは慣れてそうで、全然問題ないだろうから、僕の心配なんていらないかもだけど」

「そんなことないよ!」
「え?」

「あ、ごめん。急に大きな声出して……」

 でも、フラータは、フラータは……。

「フラータはね? リストーマくんに心配してもらえて嬉しかった。親が、自分の子どもならって、フラータじゃなくて、あるべき姿ばっかり見てるからさ。でも、リストーマくんは、フラータを心配してくれたでしょ? だから、嬉しかった」

「……少しわかるな」
「そう、なの?」

「僕も、自分としては精一杯やってるつもりでも、本当はそう思われてなくってさ。期待されてたのは、親の決めつけた、あるべき姿だけだったから。……それも、あってなかったような期待だけだし……」

「リストーマくんでも……」

「あ、といっても、今はいい人と出会えて、その人のおかげで楽しく暮らせてるから大丈夫だよ? ごめんね。しんみりさせちゃって」

「ううん。聞けて嬉しい」
「そう?」
「またお話ししてくれるといいな」
「僕でよければ」

 リストーマくんみたいな人でも悩んだりするんだ。

 フラータの悩みも自分だけじゃないのかな?

 一人だけじゃない……?

 ちょっと心が軽くなった気がする。

「そうだ。近くで誰かが見てたんだけど、心当たりとかはある?」

「さあ? ここまで来るとなると知らないな」

「そっか。じゃあ、違ったのかな? またね!」

「うん。また!」

 いいことを聞いた。
 それに、前より長くしっかり話せた。

 リストーマくんのことも前より知ることができたし。

 ちょっとずつちょっとずつ。

「あれ、魅了できてたのかな……? ま、いっか!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界のリサイクルガチャスキルで伝説作ります!?~無能領主の開拓記~

AKISIRO
ファンタジー
ガルフ・ライクドは領主である父親の死後、領地を受け継ぐ事になった。 だがそこには問題があり。 まず、食料が枯渇した事、武具がない事、国に税金を納めていない事。冒険者ギルドの怠慢等。建物の老朽化問題。 ガルフは何も知識がない状態で、無能領主として問題を解決しなくてはいけなかった。 この世界の住民は1人につき1つのスキルが与えられる。 ガルフのスキルはリサイクルガチャという意味不明の物で使用方法が分からなかった。 領地が自分の物になった事で、いらないものをどう処理しようかと考えた時、リサイクルガチャが発動する。 それは、物をリサイクルしてガチャ券を得るという物だ。 ガチャからはS・A・B・C・Dランクの種類が。 武器、道具、アイテム、食料、人間、モンスター等々が出現していき。それ等を利用して、領地の再開拓を始めるのだが。 隣の領地の侵略、魔王軍の活性化等、問題が発生し。 ガルフの苦難は続いていき。 武器を握ると性格に問題が発生するガルフ。 馬鹿にされて育った領主の息子の復讐劇が開幕する。 ※他サイト様にても投稿しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...