上 下
27 / 69

第27話 弱いヴァンパイア

しおりを挟む
"《セスティーナ》気をつけてください。この辺りは、様子が変です。正確な情報ではないですが、伝承として伝えられている話によれば、死霊が出るとか"

「し、死霊ですか!?」

"《セスティーナ》あ、あまり大声を出しては刺激してしまうかもしれません"

「……は、はい」

 ダンジョンも以前より深くまで進み、明かりを自分で確保しなくてはいけなくなってきた頃。

 姫様の言う通り、いつの間にか周囲が不気味な雰囲気に包まれている場所に来ていた。
 意識したら背筋がゾクゾクしてきた。鳥肌が立つような空気の冷えた感じもするし。

「こんな場所があったんですね……」

"《セスティーナ》私も目にするまで完全に忘れていました。それに、おとぎ話とばかり思っていましたし"

「なるほど。だから、伝承ですか」

 いかに雰囲気があっても、まだ何も起きていない。
 また姫様を心配させすぎては悪い。

「気をつけます!」

"《セスティーナ》は、はい。気をつけてください。あ、でも、ここから少しの間は薄目でいいですからね?"

「はい……?」

 とは言え、薄目だと何も見えなくなってしまうので、そのまま見ることになるのだが……。

"《セスティーナ》骨!? 骨です。骨! 気をつけてください"

「わっと!」

 言ったそばから何かが出てきた。

 相手は、地面から出てきた骨。
 力任せになぎ払う。

"《セスティーナ》骨っ。骨っ!"

「だ、大丈夫です。急いで倒しましたから」

"《セスティーナ》ほ、本当、ですね……。すみません。取り乱しました。恥ずかしいです"

「いえいえ。もう、大丈夫ですよ。ふぅ……」

 姫様、ディスガイア・フォックスを倒した時は大丈夫そうだったのに、骨はダメなんだ。
 今の雰囲気も苦手みたいだし、急いでここを抜けるか。

"《セスティーナ》ま、まだです! 違います。あの、えーと。とにかく油断してはダメです。確か完全に破壊するまで。いやー!"

「せ、セスティーナ!? うおっと!」

 姫様の悲鳴があったから気づけた。

 僕のいた場所を、巨大な腕の形をした骨が押しつぶしている。
 そんなところに追撃で、石の剣を持った骸骨たちが、次々と骨に向かって剣を突き刺している。

"《セスティーナ》大丈夫ですか? 大丈夫ですか?"

「大丈夫です。セスティーナのおかげで助かりました。ひとまず落ち着いてください」

"《セスティーナ》そうは言っても、見ないということができないもので……"

 そうか、僕が目を閉じないと姫様は目を閉じることもできないんだ。

 僕の力は僕の視界で上書きするから、いくら姫様が目を閉じても意味がない。僕が見ている光景を延々見続けさせられるわけだ。

 なら、僕がすみやかに対処するだけだ。

 骸骨たちが、回避した僕に気づき始めた。そこから攻撃に転じる前に即座に反撃。
 袋の中でも動かれるとなるとさすがに今回は持ち帰れない。

 今度は骨を確実に砕く。

「カタカタカタッ!」
「せいやぁ!」

 骸骨たちを片っ端から粉砕していく。

 これで、動き出すことはないはず。

 これが僕にできる精一杯の祈り。死霊というなら、これで安らかに眠れるといいけど……?

 あ、焦ったぁ。
 びっくりしたぁ。

「ちょっと休憩にしましょう。情報を整理したいです」

"《セスティーナ》危険じゃありませんか?"

「大丈夫です。近くに魔獣の気配はありませんから」

"《セスティーナ》油断はしないでくださいね"

「わかってます」

 一応骨から距離を取り、少し歩いた先の壁に寄りかかる。

 だが、目測を誤ったのか、いつまで経っても壁に背中がくっつかず……

「あ、あれっ!?」
「お帰りなさ……ひゃっ!」
「いったた……」

 女の子がスカートを押さえながら飛びのいたように見えた。

 何が起きたのかわからず、ぶつけた背中と頭をさする。

 いや、なんで僕は背中から倒れているんだ!?
 僕は確かに壁に寄りかかろうとしていた。それなのに、気づくと開けた場所。

 そして、色の白い、いや、顔が赤くなってようやく人並みな顔色になった、血色が悪い女の子が。

「きゃあああああ!」
「あ、ちょっと! いきなり何するのさ」

 悲鳴を上げながら手に持っていたもので突然襲いかかってきた。

 僕が回避すると、今度は腕をグルグル振り回しながら迫ってくる。

 僕は、すかさず女の子の頭に手を当てて接近を止める。

 うん。動かない。

"《セスティーナ》色々と聞きたいことは山ほどありますが、もしかして、ヴァンパイアじゃないでしょうか"

「え、ヴァンパイア?」

 それは、僕の知る話と違う。

「ヴァインパイアってもっとこう。怖くて、強くて、恐ろしいんじゃ……?」

 そう、目の前の女の子が本当にヴァンパイアなら、弱すぎる。

"《セスティーナ》もしかして、嘘で身を守っていた、とか……?"

「な、なるほど」

 確かにそれなら納得だ。

 しかし、そう思うとなんだか急に申し訳なくなってくる。
 嘘で身を守らないといけない。そんなになっているなんて……。

「あの、弱っているようですし、このままでは生き残れるか心配です。それに、言葉が通じそうなので、少し事情を聞くためにも連れ帰っていいでしょうか? 情報のためにもなると思いますし」

"《セスティーナ》…………"

 返事がない。

 姫様、迷っているのかな?

 確かに、目の前の女の子は弱そうなふりをしているだけかもしれない。
 もしそうなら危険だ。そう。演じているだけだったら……

「僕が暴れさせません。困っている女の子の事情くらい、聞いてあげるべきではないでしょうか」

「え……」

 女の子も動いて体温が上がったのか、赤い顔で驚いたように顔を上げた。

 僕にはその顔からは、悪意があるようには見えなかった。

"《セスティーナ》わかりました。その代わり。安全第一ですよ?"

「はい!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界のリサイクルガチャスキルで伝説作ります!?~無能領主の開拓記~

AKISIRO
ファンタジー
ガルフ・ライクドは領主である父親の死後、領地を受け継ぐ事になった。 だがそこには問題があり。 まず、食料が枯渇した事、武具がない事、国に税金を納めていない事。冒険者ギルドの怠慢等。建物の老朽化問題。 ガルフは何も知識がない状態で、無能領主として問題を解決しなくてはいけなかった。 この世界の住民は1人につき1つのスキルが与えられる。 ガルフのスキルはリサイクルガチャという意味不明の物で使用方法が分からなかった。 領地が自分の物になった事で、いらないものをどう処理しようかと考えた時、リサイクルガチャが発動する。 それは、物をリサイクルしてガチャ券を得るという物だ。 ガチャからはS・A・B・C・Dランクの種類が。 武器、道具、アイテム、食料、人間、モンスター等々が出現していき。それ等を利用して、領地の再開拓を始めるのだが。 隣の領地の侵略、魔王軍の活性化等、問題が発生し。 ガルフの苦難は続いていき。 武器を握ると性格に問題が発生するガルフ。 馬鹿にされて育った領主の息子の復讐劇が開幕する。 ※他サイト様にても投稿しています。

処理中です...