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第17話 不覚っ!:神ノルキー視点
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なんだこの感覚はっ!
どうしてワタシは何もされていない人間から逃げ出してしまったんだ!?
ああ。体が熱い。思考がまとまらない。まるで、別のものにでもなってしまったかのような変な気分だ。
言葉が出せなかった。
なんだ。なんなんだ!
「どうだったうわぁっ」
高所から場所を移し、地上へ降りる。
山。
そう遠くない山から、再び人間を見る。
だが、気持ちが変わることはない。落ち着かない。
「ちょっ! こんなに近くに来なくてもいいじゃん。何、急に、どしたの?」
「ああっ!」
彼のいた国を遠目に眺める。
わけがわからず地面を殴る。
山の土が、ぽふっという程度の力しか出ない。
……力が、出ない……?
何度やろうと体が思うように動かせない。
「ん? なにしてるの?」
「力が入らないんだ」
「いや、アタシをここまで連れて……。なるほど……?」
急に黙り込んだ悪魔。
顔を向けると、口に手を当てニヤニヤしている悪魔の顔が飛び込んできた。
「あっれー? アタシには力をセーブしているようにしか見えないけど、ノルキーちゃん、どうしちゃったのかなー?」
「うるさい! ……自分でも、なんがなんだかわからないんだ」
「ふ、ふーん……?」
今までおちゃらけた感じだった悪魔も、急に何かを感じ取ったのか、少し反応が変わった。
だが、本当に、こんな気分は初めてだ。
何かあった。だが、何があったのかわからない。
正直今は、悪魔に神経を集中させる気にならない。
悪魔のことを二の次にするなんて、ワタシとしては初めての感覚だ。本当に、どうしてしまったというのか。
「何? 演技じゃなくて本当にそんななの? あの子、どうだったのさ。何かされたわけ?」
「いいや。何もされていない。見ていたからわかるだろう、それくらい」
「そうだけど、あまりの変わりように、ちょっと……。……いや、これは、本当に……?」
「ん?」
何やら企んでいるようだが、人間と同じように悪魔も何を考えているかわかったものではない。
さっさと整理をつけないとなのだが、意識がなかなか切り替わらない。
「そもそも、ダンジョンはワタシの管轄じゃない。人間もだ。だから、知ったことではない」
「そうなんだ? じゃあ」
反射的にワタシは悪魔の腕を掴んでいた。
「へぇ? アタシを止めるんだ? 管轄じゃないと言っておきながら」
「やめろ。無闇に傷をつけるものじゃない。それに、貴様が何かすれば、近くの生物に何があるかわからない」
「へー! 周りを気遣うようになったんだね? アタシと戦っていた時は、気にせず地形を変えて、いくつもの生物の生息圏を変えてきたのに」
「違う! いや、違わないが……これは、その…………なんでもない! とにかくやめろ!」
理由もわからず叫び、ワタシは悪魔の腕を離した。
攻撃の意思はなくなったようだが、どうしてワタシは手を離したのか、どうしてワタシがあんなことを言い、こんなことをしているのか、自分でもわからない。
本当に、別の存在に書き換えられてしまったように、頭から離れない。あの人間の顔。
能力も、今はまだ、神と比べれば取るに足らない。それなのに、なんなんだ。
「モノにも当たらないし、アタシの腕を掴みながら、攻撃もしてこないなんて、ノルキーちゃん、本当に変なの」
「黙れ」
「こわーい。じゃ、アタシがあの子をアタシのモノにしてきてあげるよ。ヒトの男なんて、小さくても大きくても関係なく、アタシのこの体でイチコロだから」
そう言いながらクネクネと体を動かす悪魔。
何がイチコロなのか知らないが、調子に乗る理由とは思えない。
「はっ! やってみるがいいさ。どうせできんのだからな。ただし、危害は加えるなよ。あの人間だけじゃない。他の、誰にもだ」
「わかってるよそれくらい。別にアタシはノルキーちゃんと違って、命を奪うことにはさして興味がないんだから」
「ワタシも興味はないがな」
「今はそうみたいだけど……。ま、いいや」
またしても、見えない鎖が悪魔の体を拘束した。
しかし、今回の拘束は動きを止めるものじゃない。危害を加えることを禁止する、ルールに対するもの。
理解しているのかしていないのかわからないが、悪魔はその翼を広げ、天高く飛び上がった。
「そこで何もできないまま見てるといいよ。アタシがあの子を虜にするところをさ!」
それだけ言うと、悪魔は飛んで行った。
本当に悪魔ということを隠す気がないのか、はたまた何か考えがあるのか、明らかに異物な羽を生やしたまま向かっていった。
何にせよ。あんな下品な存在が人間をたぶらかせるとは思えない。戦闘に関して言えば実力は確かだが、技はどれも一流には及ばないちゃらんぽらんだ。
だが、だからこそ。ワタシの手が届かないことがわからない。
そして、もし、と考えてしまう。実力が高いわけではないが、もし、人間の理解できない部分が、悪魔と親和性があるのだとしたら、と考えてしまう。
「この、胸の気持ち悪さはなんなんだ……。いや、考えすぎか」
どうしてワタシは何もされていない人間から逃げ出してしまったんだ!?
ああ。体が熱い。思考がまとまらない。まるで、別のものにでもなってしまったかのような変な気分だ。
言葉が出せなかった。
なんだ。なんなんだ!
「どうだったうわぁっ」
高所から場所を移し、地上へ降りる。
山。
そう遠くない山から、再び人間を見る。
だが、気持ちが変わることはない。落ち着かない。
「ちょっ! こんなに近くに来なくてもいいじゃん。何、急に、どしたの?」
「ああっ!」
彼のいた国を遠目に眺める。
わけがわからず地面を殴る。
山の土が、ぽふっという程度の力しか出ない。
……力が、出ない……?
何度やろうと体が思うように動かせない。
「ん? なにしてるの?」
「力が入らないんだ」
「いや、アタシをここまで連れて……。なるほど……?」
急に黙り込んだ悪魔。
顔を向けると、口に手を当てニヤニヤしている悪魔の顔が飛び込んできた。
「あっれー? アタシには力をセーブしているようにしか見えないけど、ノルキーちゃん、どうしちゃったのかなー?」
「うるさい! ……自分でも、なんがなんだかわからないんだ」
「ふ、ふーん……?」
今までおちゃらけた感じだった悪魔も、急に何かを感じ取ったのか、少し反応が変わった。
だが、本当に、こんな気分は初めてだ。
何かあった。だが、何があったのかわからない。
正直今は、悪魔に神経を集中させる気にならない。
悪魔のことを二の次にするなんて、ワタシとしては初めての感覚だ。本当に、どうしてしまったというのか。
「何? 演技じゃなくて本当にそんななの? あの子、どうだったのさ。何かされたわけ?」
「いいや。何もされていない。見ていたからわかるだろう、それくらい」
「そうだけど、あまりの変わりように、ちょっと……。……いや、これは、本当に……?」
「ん?」
何やら企んでいるようだが、人間と同じように悪魔も何を考えているかわかったものではない。
さっさと整理をつけないとなのだが、意識がなかなか切り替わらない。
「そもそも、ダンジョンはワタシの管轄じゃない。人間もだ。だから、知ったことではない」
「そうなんだ? じゃあ」
反射的にワタシは悪魔の腕を掴んでいた。
「へぇ? アタシを止めるんだ? 管轄じゃないと言っておきながら」
「やめろ。無闇に傷をつけるものじゃない。それに、貴様が何かすれば、近くの生物に何があるかわからない」
「へー! 周りを気遣うようになったんだね? アタシと戦っていた時は、気にせず地形を変えて、いくつもの生物の生息圏を変えてきたのに」
「違う! いや、違わないが……これは、その…………なんでもない! とにかくやめろ!」
理由もわからず叫び、ワタシは悪魔の腕を離した。
攻撃の意思はなくなったようだが、どうしてワタシは手を離したのか、どうしてワタシがあんなことを言い、こんなことをしているのか、自分でもわからない。
本当に、別の存在に書き換えられてしまったように、頭から離れない。あの人間の顔。
能力も、今はまだ、神と比べれば取るに足らない。それなのに、なんなんだ。
「モノにも当たらないし、アタシの腕を掴みながら、攻撃もしてこないなんて、ノルキーちゃん、本当に変なの」
「黙れ」
「こわーい。じゃ、アタシがあの子をアタシのモノにしてきてあげるよ。ヒトの男なんて、小さくても大きくても関係なく、アタシのこの体でイチコロだから」
そう言いながらクネクネと体を動かす悪魔。
何がイチコロなのか知らないが、調子に乗る理由とは思えない。
「はっ! やってみるがいいさ。どうせできんのだからな。ただし、危害は加えるなよ。あの人間だけじゃない。他の、誰にもだ」
「わかってるよそれくらい。別にアタシはノルキーちゃんと違って、命を奪うことにはさして興味がないんだから」
「ワタシも興味はないがな」
「今はそうみたいだけど……。ま、いいや」
またしても、見えない鎖が悪魔の体を拘束した。
しかし、今回の拘束は動きを止めるものじゃない。危害を加えることを禁止する、ルールに対するもの。
理解しているのかしていないのかわからないが、悪魔はその翼を広げ、天高く飛び上がった。
「そこで何もできないまま見てるといいよ。アタシがあの子を虜にするところをさ!」
それだけ言うと、悪魔は飛んで行った。
本当に悪魔ということを隠す気がないのか、はたまた何か考えがあるのか、明らかに異物な羽を生やしたまま向かっていった。
何にせよ。あんな下品な存在が人間をたぶらかせるとは思えない。戦闘に関して言えば実力は確かだが、技はどれも一流には及ばないちゃらんぽらんだ。
だが、だからこそ。ワタシの手が届かないことがわからない。
そして、もし、と考えてしまう。実力が高いわけではないが、もし、人間の理解できない部分が、悪魔と親和性があるのだとしたら、と考えてしまう。
「この、胸の気持ち悪さはなんなんだ……。いや、考えすぎか」
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