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第10話 剣聖を追放
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「この国のヤツら全員に思い知らせてやる。オレがいないと平和な生活なんて成り立たないと思いしれぇ!」
「残念ですが、他の皆さんに迷惑をかけるわけにはいきません」
「オマエッ!」
姫様には隠れてもらい、いつでも増援を送る準備をしてもらった状態で、僕は剣聖の前に出た。
森の中、土煙が舞う視界の悪い状況だが、そんなもの関係ない。
「オマエのせいだ。オマエのせいだからな! 何もかも、全部オマエが悪いんだ! オレがこんなことしなくちゃならないのも、周りから笑いものにされるようになったのも。全部、全部! 何もかもオマエを拾ったせいだ! だが、会うことを禁止されながら、オマエの方からノコノコやってくるとはな。今回オレは何も悪いことをしちゃいない」
剣聖はニタリと笑った。それは、いつも僕を叩くときにする顔。
無慈悲で残酷な暴力を振るう寸前の顔。
思わず体が震える。チラチラと今までされた暴力が、暴言が自分の脳裏にフラッシュバックする。
「はっ。震えてるじゃねぇか。臆病だな。マヌケ。死にに来たのか? 今までのことを反省して、許してもらいに来たのか?」
「い、いいえ!」
違う。絶対に違う。
それに、ここまで連れて来てくださった姫様に万一怪我をさせてしまったなら、僕の方が剣聖よりも重罪人だ。
それは絶対に嫌だ。姫様は僕が守るんだ。
息を大きく吐き、僕はまっすぐ剣聖を見た。
もう、体は震えていなかった。
「何かのおまじないか? まあいい。小細工でどうにかなるなんて思っているようじゃ、オレから何を学んできたのかあきれるな」
「そんなもの必要ありません。ただ一手。一手通せれば、それでいいんです」
「……。オマエのジョブ、配信者だったか? 何を企んでいるのか知らないが、オマエを育てたのはオレだ。どんな手の内を隠していようが関係ない。力で上から叩き潰してやる」
「それならさっさと攻撃してきたらどうです?」
剣聖の額に目に見えて青筋が浮かんだ。
いいぞ。そのまま怒れ。
怒りのままに剣を振れ。
「オマエ、どうやら本当に死にたいようだな。なら、オマエはオレの手でなかったことにしてやるよ」
「セスティーナ、準備が整いました」
「わかりました。近くに何もありません。リストーマ様、遠慮は何もしなくて大丈夫です」
「はい」
テレポートの光。
姫様の避難が完了した。
「チッ。あれを人質に取ってりゃ。いや、関係ないな」
僕をなめている敵は警戒しない。
現に僕に促されているとも知らずに、剣聖はスキル発動の準備を始め、剣が光を放ち始めた。
対して、僕は今武器を持っていない。そのため、剣聖に攻撃を当てることはこのままなら不可能だ。倒すことなんてできない。
だが……。
剣聖は横に剣を構えると、剣にオーラを一際強くまとわせた。
今だ!
「『アルティメット・ブレード』!?」
剣聖は的を大きく外した。
放たれたオーラが僕に当たることはなく、遠く、建物へと直撃した。
「見えない。暗闇だと……?」
「はっ」
「うあっ」
剣聖が状況を理解するより早く剣を奪う。
これで剣聖もただの暴力的なおっさんに成り下がった。
「何をした。オマエは今、オレに何をしたっ!」
「簡単なことですよ。僕はあなたのスキルが放たれる少し前に、自分のスキルを発動させました。それにより、攻撃の軌道をずらしたんです。思った通り、攻撃がずれてくれて助かりました」
「オレが、攻撃を外した、だと……?」
「はい、見てみますか?」
「…………」
僕が無事なことから、攻撃を外したことは確かだが、認めたくないらしく返事がない。
本来なら、剣聖が攻撃を外すなどあり得ないことだ。しかし、斬撃は僕に当たることも、かすることもなかった。
僕は目を開き、強制的に剣聖の視界を戻す。
「あ……。う、嘘だろ? そんな…………。あれを、オレが……?」
「そう。現実ですよ」
「オレの、オレの家が…………」
遠くからでも自分が何をしたのかはっきり理解したようだ。
剣聖は自らの手で自らの家を破壊したのだ。
「もちろん、被害は建物だけです。ですが、これであなたへの処遇がどのようなものかも理解できたでしょう?」
ゆっくりと僕の方を振り返る剣聖。
「国外、追放……?」
「そうです」
怒りの形相で僕から剣を奪おうとする剣聖。だが僕は、再び僕の視界を送り、その手をかわす。
すぐに、、自分がどこにいるのか、そして、僕がどこにいるのかを完全に見失ってしまったようだ。
「ご理解の通り、あなたをこの国に置いておくわけにはいかないようです」
「おい。待て。待てよ!」
「待ちません。これは正式な決定です」
いつの間にか戻ってきていた姫様が剣聖に何かを押し付けた。
そして、剣聖は全て理解したように、その場に膝から倒れ込むとやってきた兵に身柄を拘束された。
「残念ですが、他の皆さんに迷惑をかけるわけにはいきません」
「オマエッ!」
姫様には隠れてもらい、いつでも増援を送る準備をしてもらった状態で、僕は剣聖の前に出た。
森の中、土煙が舞う視界の悪い状況だが、そんなもの関係ない。
「オマエのせいだ。オマエのせいだからな! 何もかも、全部オマエが悪いんだ! オレがこんなことしなくちゃならないのも、周りから笑いものにされるようになったのも。全部、全部! 何もかもオマエを拾ったせいだ! だが、会うことを禁止されながら、オマエの方からノコノコやってくるとはな。今回オレは何も悪いことをしちゃいない」
剣聖はニタリと笑った。それは、いつも僕を叩くときにする顔。
無慈悲で残酷な暴力を振るう寸前の顔。
思わず体が震える。チラチラと今までされた暴力が、暴言が自分の脳裏にフラッシュバックする。
「はっ。震えてるじゃねぇか。臆病だな。マヌケ。死にに来たのか? 今までのことを反省して、許してもらいに来たのか?」
「い、いいえ!」
違う。絶対に違う。
それに、ここまで連れて来てくださった姫様に万一怪我をさせてしまったなら、僕の方が剣聖よりも重罪人だ。
それは絶対に嫌だ。姫様は僕が守るんだ。
息を大きく吐き、僕はまっすぐ剣聖を見た。
もう、体は震えていなかった。
「何かのおまじないか? まあいい。小細工でどうにかなるなんて思っているようじゃ、オレから何を学んできたのかあきれるな」
「そんなもの必要ありません。ただ一手。一手通せれば、それでいいんです」
「……。オマエのジョブ、配信者だったか? 何を企んでいるのか知らないが、オマエを育てたのはオレだ。どんな手の内を隠していようが関係ない。力で上から叩き潰してやる」
「それならさっさと攻撃してきたらどうです?」
剣聖の額に目に見えて青筋が浮かんだ。
いいぞ。そのまま怒れ。
怒りのままに剣を振れ。
「オマエ、どうやら本当に死にたいようだな。なら、オマエはオレの手でなかったことにしてやるよ」
「セスティーナ、準備が整いました」
「わかりました。近くに何もありません。リストーマ様、遠慮は何もしなくて大丈夫です」
「はい」
テレポートの光。
姫様の避難が完了した。
「チッ。あれを人質に取ってりゃ。いや、関係ないな」
僕をなめている敵は警戒しない。
現に僕に促されているとも知らずに、剣聖はスキル発動の準備を始め、剣が光を放ち始めた。
対して、僕は今武器を持っていない。そのため、剣聖に攻撃を当てることはこのままなら不可能だ。倒すことなんてできない。
だが……。
剣聖は横に剣を構えると、剣にオーラを一際強くまとわせた。
今だ!
「『アルティメット・ブレード』!?」
剣聖は的を大きく外した。
放たれたオーラが僕に当たることはなく、遠く、建物へと直撃した。
「見えない。暗闇だと……?」
「はっ」
「うあっ」
剣聖が状況を理解するより早く剣を奪う。
これで剣聖もただの暴力的なおっさんに成り下がった。
「何をした。オマエは今、オレに何をしたっ!」
「簡単なことですよ。僕はあなたのスキルが放たれる少し前に、自分のスキルを発動させました。それにより、攻撃の軌道をずらしたんです。思った通り、攻撃がずれてくれて助かりました」
「オレが、攻撃を外した、だと……?」
「はい、見てみますか?」
「…………」
僕が無事なことから、攻撃を外したことは確かだが、認めたくないらしく返事がない。
本来なら、剣聖が攻撃を外すなどあり得ないことだ。しかし、斬撃は僕に当たることも、かすることもなかった。
僕は目を開き、強制的に剣聖の視界を戻す。
「あ……。う、嘘だろ? そんな…………。あれを、オレが……?」
「そう。現実ですよ」
「オレの、オレの家が…………」
遠くからでも自分が何をしたのかはっきり理解したようだ。
剣聖は自らの手で自らの家を破壊したのだ。
「もちろん、被害は建物だけです。ですが、これであなたへの処遇がどのようなものかも理解できたでしょう?」
ゆっくりと僕の方を振り返る剣聖。
「国外、追放……?」
「そうです」
怒りの形相で僕から剣を奪おうとする剣聖。だが僕は、再び僕の視界を送り、その手をかわす。
すぐに、、自分がどこにいるのか、そして、僕がどこにいるのかを完全に見失ってしまったようだ。
「ご理解の通り、あなたをこの国に置いておくわけにはいかないようです」
「おい。待て。待てよ!」
「待ちません。これは正式な決定です」
いつの間にか戻ってきていた姫様が剣聖に何かを押し付けた。
そして、剣聖は全て理解したように、その場に膝から倒れ込むとやってきた兵に身柄を拘束された。
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