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第47話 日向とデート

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「おっ待たせー! さそってくれてありがと。影斗と出かけるなんてひっさしぶり、だね……」

 待ち合わせ場所の駅前。

 なんだか言葉が消え入っていくので少し不安になってしまったが、なんてことはない。声からして日向だ。

「いや、待ってない、よ……」

 か、かわいい!? 女の子みたいだ! いやいや、いつも女の子なのだが、少し大人っぽい?

 最近は、制服姿しかほとんど見ていなかった。怜と違って、私服を見るのは初めてじゃないが、なんだろう。胸がざわざわする。

 昔は静かなだけだった。悪い言い方をすれば地味だった。そんな日向が、大人っぽいけど女の子らしさもある服装でやってきていた。

 気まずい。

「こ、こないだその辺歩いただろ?」

「あれは、ほら、出かけてないじゃん」

「……」

 会話が続かない。

 この間休日に遭遇した時は、ラフな格好だったからヨレヨレな服でも大丈夫だと思ったが、これはダメだ。服に関しては怜さまさまだ。

 くそ。それにしても、服も描くからファッション誌を見て勉強しているつもりだったが、本物には勝てない。怜にも勝てなかった。

 ま、まぶしすぎて直視できない。

 でも、このままってわけにはいかない。

「い、行こうか」

「う、うん」

 僕から手を差し出してみたが、嫌がられずに握ってくれた。

 よかった。ここはいつもの日向だ。

 エスコートってよくわからないが、できてるのか?

「あ、歩くペース速くない?」

「大丈夫……」

 隣じゃなくて少し後ろを歩いているから緊張で早足になってるのかと思ったが、そうじゃないのか?

 手は握ってくれたけど、しょっぱなの勢いがない。

 なんか顔を見てくれない。

 どうして……?

「……なんだかカッコよくて見れないよ。どうしたの影斗。わたしもせっかくのお出かけと思って気合いを入れてきたけど、影斗はいつもどおりじゃないのー?」

 いや、気を遣ってくれてるだけかも。

 わからん!

 結局、怜は参謀なのに行き先のヒントを一つも教えてくれなかった。

 完全に誘うのもプランも僕に任せてきた。

 今回は、ただ、デートしろって提案をしてきただけだ。本当に僕を着せ替え人形にしたり、キララとの擬似デートがしたかっただけなのかもしれない。

「今日は水族館でよかったか?」

「もちろん。影斗が行きたいならわたしはどこでもいいよ」

 これはどうなのだろう。

 よくわからなかったから近場の水族館にしてしまったが、反応から判断できない。

 選んだ理由は魚は食べるのも見るのも好きだから、この考え大丈夫かな?

 ここも行きたいところ聞き出せってことだったのだろうか。これも勉強ってことなのか。

 にしても、やはり、声も表情も硬い。まさか、日向が僕に緊張している?

 いや、そんなことがあるとすれば、僕の緊張が日向に伝わってるだけだ。

「改まってこんなことするの緊張するな。前は水族館なんてよく行ってたのに」

「え、うん? 影斗も緊張してたんだ。意外」

「そりゃ、日向いつもと雰囲気違うし、別人みたいでさ。今も真っ直ぐ見れないし」

「それは影斗だって同じだよー」

「え」

「え?」

 影斗もって言ったか? ってことは日向も緊張してたのか。

 というか、僕がいつもと違う格好してたから、逆に緊張させてしまってたのか?

「ふふ」

「はは」

「ふふふふふ」

「ははははは」

 お互いにいつもと違くて緊張していたなんて。

 しかも、そのせいでぎこちなかったなんて。

 わかってしまえば単純なことだ。笑えてくる。なんだか肩の力も抜けた。

 別に、見た目が変わったからといって、日向は日向なのだ。

 最初からいつもどおりやればよかったのだ。

「服装に引っ張られて、行こうか。なんて言ったけど、そんな必要もなかったな。恥ずかしい」

「か、かっこよかったよ……」

 ぼそっと日向は言った。

「いつもの影斗とは違ったけど、かっこよかったよ。最初に言ったけどさそってくれて嬉しかった。忙しいのに、時間を作ってくれたんでしょ?」

「え、いや。ははは。そんな。じゃあ戻すか?」

「ううん。いつもの影斗のがいい」

「そうだよな。じゃあかっこつけても仕方ないな。それに、こんなところで突っ立ってるわけにもいかないし、行こうぜ。いつもみたいに僕を振り回してくれよ。好きなとこどこでもついてくからさ」

「え、でも、水族館は?」

 心配そうに見てくる日向に僕は笑いかける。

「別に日向が行きたい場所でいいよ。いいや、そのほうがいい。行きたかったんだろ? どっか!」

「うん!」

 満面の笑みに元気な返事を聞いて。僕もいつもの日向がいいと思えた。

「……ありがと」

「ん?」

「あ、いや、あ、あのね。影斗」

 元気よく返事しておきながら、急にブレーキをかけたように、神妙な面持ちになった。日向。

 顔を赤らめモジモジしている。

 なんなんだ? 日向は日向じゃないのか? い、いつもとやっぱり違うってのか?

 僕はだまったまま、ゴクリとつばを飲み込んだ。

「あの時の、隣にいる時間がずっと続けばいいって話の、返事、なんだけど……」

「うん」

「……う、ううん! やっぱりなんでもない! 行こ!」

「おう!」

 元の日向に戻った様子で、日向は僕の手を引いてくれた。

 男なら、本当は手を引いてあげるくらいがいいのかもしれない。けど、僕が決めるより、日向が決めるほうがいいだろう。

 僕だって日向が楽しいほうがいい。

 デートのレポートにはそんなことでも書いておこう。
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