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第43話 大神の処分:大神視点

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 留置場、だか少年院だか鑑別所だか知らないが、そんなところに俺は入れられている。

 はずだったが、少し違うな。どこだここ。

 面会、みたいな形で親父がやってきた。

 でも仕切り板はない。どこだここ。

「相当暴れたらしいな。怪我人が何人だって?」

「…………」

「未成年で初めてでここまでのやつは見たことないって話だぞ?」

「…………」

 俺は捕まった。

 逮捕された。

 なにも見えない、なにも聞こえない暗闇に一人いるような気分だった。

 親父の声は遠くから聞こえる気がする。

 親父……。

「俺はなにも間違ったことはしてない! 信じてくれ!」

「ああ。信じるよ」

「親父ぃ……」

 こんなにも親父を頼りに思ったことは今までで一度もない。

 ずっとただのうざいおっさんだと思っていたが、少しは物分かりがよかったみたいだ。

「よかった」

「そうだな。お前の中ではなにも間違っちゃいないんだろうな」

「そういうことじゃない! 俺はなにも間違っていないんだ。視点の違いとか認識の違いとかじゃなく」

「そういうことなんだよ」

「そんなことじゃない!」

「そんなことだろ! 今の状況、そして、一部始終を自分で世間の目にさらしておいてどの口が言ってるんだ」

「世間にさらした?」

「そうだ。ビッグ・オーガ・ゴッドだったか? そんな名前で名乗ったあと、警察に暴行する様子がインターネットで広まってるんだよ」

「は…………」

 嘘だろ。

 いや、違う。嘘じゃない。

 だけど、俺はただ悪意のある拘束から逃れようとしただけで。

「どうして大人しくできなかった。どうして自由を履き違えた? 一体どれだけの人に迷惑をかければお前は気が済むんだ。人としての配慮ってのが足りないんじゃないのか?」

「俺が、いつ、迷惑を」

「この後に及んでそんなことを……はあ。お前にはもう振り回されるわけにはいかない」

「お、俺の言葉は言い訳じゃない。どれも真実だ。俺はずっとよかれと思って」

「お前はもう勘当だ」

「かん、どう?」

 感動。いや勘当だ。

 俺が? 弟のユウセイじゃなく?

 どうして今?

 こんな時こそ子を親が支えるものじゃないのか?

「どれだけ人様に迷惑をかければ気が済むんだとさっきも言っただろ。こうも言ったなお前の言葉は信じてると。だからこそもう一人で生きていけるだろ。うちにはお前を育てる余裕はない。母さんはヒステリーで狂ったようだし、私も職場で居場所がない。ヘタをすればクビかもしれない。ユウセイはお前と違っていい子だからいじめられていないようだ。友人にも恵まれている。だが、強がりかもしれない。もし事実でもいつまで続くかわからない。気の優しい分、気遣ってくれてるかもしれないわけだが、これはお前が迷惑をかけたんだ。それに本人たちでは大丈夫でも親からいろいろ言われるだろう。そうなったらきっと影響が出る。どうなるか今後はまだわからない。だがすべてお前から始まった連帯責任ってやつだな」

「はは。ユウセイ、アイツ。ざまあみろ。いい気味だ」

「はあ。お前はそういうやつだったってことだな」

「あ、いや、今のはユウセイとのちょっかいって言うか」

「それなら今からでもお前にユウセイの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいだ」

 嫌だわ気持ち悪い。

 なんか情に流されて思ってもないこと言ってしまったな。

 こんな状況に置かれれば誰だってこんなことになるのか。

「これはもう私の願いだ。どうか一人で生きてくれ。私たちとは縁を切ってくれ。さっきのようにどうでもいい人間として扱ってくれ。頼む」

「は」

「もう少し、お前が自制できていたらな。それじゃあな」

 親父が立ち上がった。

 背を向ける。

 まだ、時間はあるんじゃないのか。

 一歩、また一歩遠ざかっていく。

 嘘、だろ? これで終わり? 俺に、希望はないってのか?

「ま、待ってくれ。親父」

「もう、面倒見てやるつもりはない。いや、こんな偉そうな口を効くこともできないか。あなたを育てられません。ごめんなさい。高校生。もう大人ですよね?」

「でも、俺まだ高校生」

 そうだ。まだ親として俺を育てる義務があるはずだ。

 人を捨てるなんてことをしたら、それこそ親父の人生が終わる。

「なあ、そんなこと言っていいのか。人生終わるのは俺じゃなくてあんたになるぞ」

「……」

「図星か。だよな。そうだよな。俺を養うのが親としての義務だもんな。いくら俺がやらかそうが、未成年である以上俺じゃなくあんたの責任でもあるはずだ。なあ、そうだろ? 一人にするな。俺は嫌だ。こんなところにいるなんて。こんな時こそ親父の出番だろ。なあ、金で黙らせろよ。ケチってないで。なあ」

「戻ってきてもまともに相手はできませんよ。お金、確かに払わないといけないですし。まあ、保護観察が終われば世話しないといけないことになってるんでしょうが、ここを出たらどう一人で生きるか考えてください。私もそうします」

「おい」

「それじゃ。よろしくお願いします」

「わかりました」

「そんな……」

 部屋を出て誰かと話すとそれ以降、親父が足を止めることはなかった。

 これまでのことは全部俺の勘違いかもしれない。

 最初からもっと突き放すように話されていたのかもしれない。

 俺が思っていただけで、みんな俺を白い目で見ていたのかもしれない。

 冷たいオリ。冷たい部屋。俺が一人。外への道は開かれることはなく……。知らない誰かのところで……。
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