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第42話 大神逮捕

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「公務執行妨害で逮捕されたのは十六歳の少年」

「ゴホッ!」

 リビングで朝食を食べていた時に飛び込んできた報道に吹き出してしまった。

「え、ちょっとどうしたの? 笑うところじゃないでしょ? すぐ近くじゃない。それも影斗と同い年。怖いわねぇ」

「ゴホッゴホッ。う、うん。ソウダネ」

 昨日の出来事とリンクする。もしかしたらこれも怜のしわざだったりしてなんて考えてしまう。

 昨日、家の前で見たのは大神くんっぽかった。なんかチラッと見てやばそうだから無視したけど、多分そうだ。

 僕が吹き出したせいで机が真っ白だ。牛乳を母が拭いてくれている。

「大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

 当事者は未成年だから名前が出ていなかった。

 でも、状況から照らし合わせれば、いや、まさか。昨日のアレって……?

「いや、ないないない」

「影斗。なにか知ってるの? もしかして心当たりが?」

「ううん。なんでもないよ。僕も怖いなって思ってびっくりしちゃっただけだから。おどろかせてごめん」

「ならいいんだけど、影斗は気をつけてね」

「わかってるよ」



 登校時、誰だって注目しそうなことが起きたというのに、日向はそのことについてなにも言わなかった。

 昨日、僕と一緒に大神くんと思われる人が警察になにかされているところを見たはずだが、それでも話さないのだ。

 もしかしたら気を遣って話さないでくれているのかもしれない。

「ねえ、今朝の……」

「……見た見た。あれって……」

 だが、日向の気遣いがあっても、学校に着く前から、周りは今朝報道された事件の話題で持ちきりだった。

 そこかしこから大神くんの名前が聞こえ、周りの大人が私服の警察にまで見えてきた。

 それでも日向は徹底して、

「そうだ。昨日の配信、やっぱりよかったよ。アイリーンちゃんもキララちゃんのファンみたいで見てて楽しいんだよね。二回目のコラボまでのペースも早かったしね」

 なんて、キララの話で僕の気を誤魔化そうとしてくれた。

 まあ、大神くんについて考えなくていいならそれに越したことはない。

「そうだな」



 教室に入ると、いや、教室に入る前から、知らない顔が教室をのぞいている。

 マスコミにでもなったかのようにいろいろと聞いている生徒もいる。

 なんだか前にも似たようなことがあった気がするが、大神くんのためにこれだけの人が集まっているのだ。

 みな、不自然にキレイな大神くんの机を見ながらヒソヒソと会話をかわしている。

「影斗は大丈夫だったの?」

 僕が席につくなり怜が言ってきた。

「ちょっと怜ちゃん」

「いや、大丈夫だよ日向。気遣ってくれてたんだろ? ありがとう」

「でも、さすがに」

「そんなに心配しなくて大丈夫だって」

「それでも、影斗なら気にするかなって。キララちゃんの時も気にしてたみたいだし」

「ああ」

 そういえばあの時も大神くんにケンカをふっかけられたことになるのか。

 本当に困った人だな。

「大丈夫。気にはなるけど、気にしても仕方ないし」

「そうだね」

「でも、怜はどうして僕に大丈夫なんて聞いたんだ?」

「それは、逮捕なんて物騒じゃない? 巻き込まれたりしてないか心配になっただけよ」

 怜は怜なりに心配してくれていたってことか。

「さっき日向にも言ったけど大丈夫だよ。そもそも巻き込まれてたらここにいないだろ? 怜こそ大丈夫なのか?」

「私は大丈夫よ。日向さんは」

「わたしも大丈夫だよー。日頃の行いはいいからね。いないのはやっぱり……」

 日向につられてついクラスを見てしまう。来ていないのはどうやら大神くんだけらしい。

「そうだ。その大神だよー! そっちは大丈夫?」

「僕は特別仲がよかったとかじゃないから大丈夫。むしろ逆だし」

「ならよかった。知ってると思うけど、最近キララちゃんの悪口言ったり変な動画あげたりしててさー! それに、昨日の放送だと影斗の家のすぐ近くも写ってたんだよー!」

「え、それはないだろ。停学中だし。家にいるはずじゃないか?」

「見間違いかなー? 似てただけー? でも、顔出ししてあんなことして、許せないよね。どっちもダメだよー!」

 どうやら、日向の中では逮捕と大神くんのことは別件として処理されているらしい。

 僕が思うに多分、関係あるんじゃないかな。周りもそんな雰囲気だし。

 どちらにせよ。許せない気持ちは強いみたいだけど。

「ね、ダメだよね!」

「あ、ああ。そう、だな」

「もっと怒ってもいいんだよ? やられっぱなしじゃないでしょ?」

「そうだけど、ちょっと意外でさ」

「どこがー! 元からおかしなことしそうだったじゃん」

「いや、大神くんじゃなくて、そのことは本当にどうでもいいんだよ。もちろん、この辺で誰かが逮捕されたことも」

「じゃあなに?」

「それよりも日向がキララ、ちゃんのことと一緒に僕のことで怒ってくれたことが意外でさ」

「え? そう? そ、そりゃどっちも大事だし? そもそも同じ人間のやったことなんだからそうなるでしょ? 大神がキララちゃんも影斗も傷つけたんだから。そんなセリフ恋愛漫画の読みすぎだよー」

「そうか? そんなに読んでないけど、怒ってくれて嬉しかった」

「もぉー!」

「え、え?」

 なんだか知らないけど、急に僕がポカポカと叩かれ出した。

 痛くないけど、どうして叩いてくるのかわからない。

 音の鳴らない楽器だと思われてる?

「れ、怜。助けて、日向が」

「影斗が変なこと言うからでしょ?」

「そうだよー心配かけたのにからかうからー!」

「いや、からかってなんか。僕は真剣に言ったんだよ」

「もー!」

「なんで強くなるの?」

「ふふ。二人とも朝から元気でいいわね。周りに惑わされなくてとてもいいと思うわ」

「違うんだって」

 怜はほほえましいものでも見るような笑顔になってる。これもトントン進むように裏でなにかしたのか?

「ひ、日向。怜にまで迷惑かけちゃダメだろ? 学級委員でいろいろと忙しいんだから。怜にも感謝しようぜ。ありがとう、な。それに、日向の気持ちはありがたいって言ってるんだから、そろそろ暴力はやめて」

 なんかこう言っておかないと怜もあとから怖そうな目してるからな。

「もー! 影斗ー!」

「ちょっと痛い痛いって」

 本当になんでかわからないけど、僕は叩かれ続けた。
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