寝たふりして机に突っ伏していると近くから僕の配信について感想を言い合う美少女たちの声が聞こえてくるんだが!?

マグローK

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第38話 話題の切り抜き職人日向

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 朝のピンポンが来て家を出ると、なぜか日向が腕を組んで立っていた。

 昨日は逃げ出したきり、まともに話せなかった。

 今日は逃げないみたいだが、なんで仁王立ち?

「ふふふ。来たな、影斗よ」

「いや、ここ僕の家だから」

「お願い! そんなより話を聞いて。今しかできない話なの!」

 手を合わせながら日向は猛烈に頼み込んできた。

 いつにも増して変なテンション。いや、いつもこんなか。子どもでもないのに手をつなごうなんて言ってくるわけだし。正直、恥ずかしいけど、別に嫌じゃない。

 それにしてもどうしたのだろうか。いつもは手を繋いで! と言ってくるのに、今しかできない話、か。

 まさかこいつも。

「日向、なにか変なものでも食べたか?」

「ちがわい! ちょっと準備に時間がかかっちゃったんだ。でも、ここまではやってから見せたくて」

「準備?」

「そう。他のみんなには内緒だよ? いろいろ言われちゃうから。影斗だけに話すんだからね」

 なんだろう。準備とか、内緒とか。日向らしくない。

 そわそわしてるし、まさか日向はやっぱり僕がキララだってことに気づいた?

 どこかから音源を入手したとか。

 い、いや、日向に限ってそんな頭脳プレイはないはず。

「これ」

「ひっ」

 反射的に目をそらしてしまった。

 やっべー。めっちゃ目が泳ぐ、どうしよう。

 日向が見せてきたのはスマホ。そこに写るのは動画投稿アプリのチャンネル画面だった。

 なんかキララが見えた気がする。

 で、デジャブだ。

「……」

 日向がじゃっかん引いた様子で僕を見てる。

「……なに、今の声……」

「な、なんでもないっ! それより、その画面に写ってるのって……」

「そーそーこれ! よくぞ聞いてくれた!」

 いや、まだなんなのか聞いてないような気がするけど、日向は自慢げに胸を張り、再度スマホを突き出してきた。

 改めてスマホの画面をよく見ると、雲母坂キララのチャンネルではなかった。

 キラララララー切り抜き。最近、僕が勝手に優遇している切り抜きチャンネルだ。そして、昨日僕が話題にあげたチャンネルでもある。

 うん。そのはず、間違ってないよな。なんだか前に見た時よりもチャンネル画面が豪華になっている気がする。

 にしても、チャンネルの表示が違うような。

「わたしがキラララララー切り抜きなのでしたー!」

「……へー……? ……え!?」

 今の自分の目はきっと点になっていることだろう。

「おどろいた? おどろいたよねー! あれだけほめてくれちゃった切り抜き職人がわたしなんだもんねー。でも、そう。キラララララー切り抜きはわたしなのでしたー! ファンのたんぽぽぽとしてこれは見逃せないからねー。どう? どーう? わたしをもーっとほめてくれていいんだよー?」

 先ほどよりも調子に乗り上がった様子。まさに有頂天といった感じで日向が最高の笑顔を浮かべている。

 対する僕は思考が追いつかない。恥ずかしいのと驚きとで目しか動かせない。

 それに、今回はまったく言い返せない。

 情報量が多すぎて今も理解が追いついていない。

 なに? 日向がキラララララー切り抜きでたんぽぽぽさん? 最初から見ててくれたファンであり、切り抜きの応募もしてくれたらしいあのたんぽぽぽさん? え、どうしよう。言葉が見つからない。

「お、おーい? おどろいたのは伝わったけど、おどろきすぎじゃない? ちょ、ちょっとやりすぎちゃったかなー?」

「あ、ああ。おどろきすぎてなにも言えない。人間、おどろきすぎるとなにも言えないんだな」

「おんなじこと繰り返してるよ? でも、わたしだってあんなにいろいろと言われるとは思ってなくて、嬉しいのと恥ずかしいのいっぱいだったんだから。ちょっとくらいお返ししてもいいでしょ?」

「そう、だな」

 調子に乗ってからかった罰か。

 そもそも、僕がいる時にキララについて話されている時、僕がいつも感じてることなんだよ。ま、こっちは言えないけどさ。

 いや、でも別に嫌な罰じゃない。

 しかし、すんなり帰って怜との作戦会議ができていたが納得だ。どおりで最近は、あそぼーあそぼーと言ってこなくなったわけだ。

「ボイチャでいろいろと教えてくれてありがとね。影斗が動画編集に詳しいなんて知らなかったけど、これも影斗のおかげだよ」

「いやぁ。ははは」

 代わりにボイチャをせがんできて、暇な時、配信のないタイミングでいろいろと動画編集について聞かれていた。

 主に配信の僕だが、別に簡単な編集くらいはできてるから、やり方を聞かれた時はお小遣いでも稼ぐのかと思ったが、こんなことをしていたとは考えもしなかった。

 しかし、四六時中つきあったわけじゃないのに、僕がキララとして認めるまでの切り抜きを作るようになるとはな。

「ね、ねぇ? もしかして黙ってたこと怒ってる?」

 さっきまでの威勢はどこへ消えたのか、一気に不安そうになりながら僕のことを見上げてきた。

 僕は日向の気を紛らわせるためにできる限り優しく笑った。

「いや? 怒ってないよ。世界って狭いなって思って。あと、日向はすごいな」

「そ、そんな直球で言われると照れるよ。えへへ。でも、嬉しい」

「よかった」

 気になっていたことも解決し、僕はなんだかスッキリした気持ちだった。

 だが、打って変わって全部話せたはずの日向の顔はみるみる青くなっている。

「やばい。今日学校だった」

「そうだよ! なんでこんなタイミングで話したんだよ!」

「だって、今くらいしか誰もいないタイミングないでしょ。帰りは誰かいるかもしれないし」

「ああ、くそ! 急ぐぞ!」

 僕と日向は焦って学校へ走った。

 学校にはなんとか間に合った。が、死ぬかと思った。

 二度とこんなことにはしてなるものか。
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