上 下
32 / 56

第31話 日向が癒やし

しおりを挟む
「最近さ。日向と一緒に話してる時が一番楽しいわ。落ち着く」

「へ!?」

 おじいちゃんと孫みたいなセリフを言ったせいか、悲鳴にも似た声が日向の口から聞こえてきた。

 やっぱ嫌よな。僕といるのは。

 でも、家で一人で配信してても怜に見られている気がして、なーんか前よりもしっかりしないとって思っちゃうんだよなー。

 前より好評ではあるんだけど、肩肘張っちゃうんだよ。

 そう思うと、日向といる時はリラックスできる。

「そ、それってどういう?」

 日向が上目遣いで見てきた。

 これは、怪しまれてる。ここは正直に言おう。顔をのぞき込んできてるし、怖がられてるっぽいし。

「そのままの意味だよ。このまま日向が隣にいる時間がずっと続けばいいのにって思う」

 僕の言葉を聞いて、目で見てわかるくらい、みるみるうちに日向が赤くなっていく。

「そ、そんな急に言われても……ちょっと答えは考えさせて…………影斗この間から積極的すぎだよー」

 答え?

「別にいいけど」

 答えってなんのだ?

「そ、そそ、それより。最近キララちゃん真に迫る感じだよね」

 ドキッとして今度は僕が思わず日向の顔をのぞき込んでしまう。

 そうだった。日向もキララのことを好きだった。ゆったりしていて忘れるところだった。

 しかし、怜の影響で変化してることは気づいてるのか。

「真に迫る感じって?」

「なんか、近くにいるって感じがしてさー」

 さらに心臓が跳ねた。

 迫ってますよー。

 いますよー。隣にいるよー。はは。

「どしたの? 顔、怖いよ?」

「い、いや。急に近くにいるなんて言うし、動揺してたからうつっちゃって」

 僕は努めて鼻で笑った。大丈夫ごまかせてる。

「もー。笑わないでよー。本気で言ってるんじゃないよー? なんて言うか、現実感が増したって言うか。とにかく仮想だけどリアルなの」

「まあバーチャルだしな」

「本当なのー。ちゃんと見てるー?」

 日向が頬をふくらませて僕をにらみつけてくる。

 少しいつもの日向に戻った。よかったよかった。

 でもまあ、リアリティは大事だしな。素直に嬉しい感想か?

 そりゃ、怜がいるせいで常に銃口を額に突きつけられてる気持ちでやってるからな。そんな状況でやってたら現実味も出てくるわな。

「そうだ!」

 猫騙しでもするように日向が手を合わせてきた。

「今度配信一緒に見ようよ」

「え」

 またしてもギクリとしてしまう。

「何時になると思ってるの?」

「ダメ? 確かに影斗部活入ってないけど忙しそうだもんね。もう受験勉強とか始めてるの?」

「そうじゃない、が」

 どうしよう。配信してるから一緒に見れませんなんて言えない。

 ボイチャとかじゃないよな。

 どっちにしろ無理だ。

 僕は一人しかいないんだ。無理だ。

 あ、そうだ!

「怜ちゃんたちとはお泊まりで見たんだけどなー」

「仲良いな。でも女友達のノリ? 僕は男だぞ。それに、僕は配信終わったあとでアーカイブをゆっくりと倍速で見るのが好きなんだよ」

「ゆっくりと倍速で? 矛盾してない?」

「してないしてない。ゆっくりは態度、倍速は速度。あれだよ。ほとんどはいい人だけど、配信中に時々ある変なコメントとか流れてくるのをできれば見たくないからさ」

 まあ、画面にコメントが残るから見える時は見えちゃうんだけど、倍速にしてたら流れるのが速いからダメージが少なくて済む。という寸法。

 その代わりめっちゃ長いしリアルタイムじゃないし、自分のコメントは読み上げてもらえないけどね。

「まあ確かに? うわーってなるコメントでうわーってなる時あるからね」

 よかった。わかってくれた。

 日向が気にしない人じゃなくてよかった。

「ということだから」

「じゃあさ!動画見ようよ」

「え?」

 どうしよう。それは、断りようがない。でも、時間がないとか歩きスマホはダメとか。

「……本当は二人がいいけど……」

 ガバッ! と顔を上げて日向は僕を止めてきた。

「昼にみんなで見ようよ。それなら時間もあるでしょ?」

 こればっかりはどうしようもない気がする。

 というか、断っても動画やら配信を流されそうな気がする。そもそも流されてそうな気がする。

 急に流されるよりはいいか。もうやけだ!

「おうよ! それならいいとも!」

「やったー! 絶対! 絶対だよー!」

「わかった。わかったから」

 何度も指をさして確認してくる日向に僕はニンマリしておいた。

 正直、考えただけで死ぬほど恥ずい。

 よく考えてほしい。両親が運動会の時に動画を撮っていたものを親戚の集まりで流されるようなものだ。

 周りはほほえましかったり、喜ばしかったりするかもしれないが、当の本人からすればたまったものじゃないのだ。

 恥ずかしすぎて死ぬ。

「……これが恥ずか死ってやつか」



 昼。

「よかったー。約束守ってくれてー」

「あ、当たり前だろ?」

 人知れずここは処刑場になっていた。

 むしろ殺してくれ。

 だが、やたらハイテンションの怜と日向のおかげで僕は画面が見れなかった。

 いやー。ははは助かった。

 と思っていたが、いつの間にか指を指で挟まれ、日向から逃げられないようになっていた。

「キャー! かわいいー!」

 それ、本人の前で言うことか。

「当たり前よ。これが雲母坂キララだもの」

 お前は止める側でいてくれよ怜。

「影斗くん顔真っ赤だね」

「はは」

「かげとんって人と見るの苦手?」

「まあね。なんか一人で見てると楽しめるんだけど、人と見てるとどうしてか恥ずかしいんだよ」

 日向と怜が自分の世界に入ってるせいで、関根さんと白鷺さんの矛先が僕に向くんだが。

「うまい! うまい!」

「ここからよ!」

 怜はいいよな。参謀役なのに自分の世界に入ってて。

 僕には無理だよ。嬉しいけどさ。

「影斗くんてさ」

「かげとんかげとん」

 ああ! 早く終わってくれー!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

vtuberさんただいま炎上中

なべたべたい
青春
vtuber業界で女の子アイドルとしてvtuberを売っている事務所ユメノミライ。そこに唯一居る男性ライバーの主人公九重 ホムラ。そんな彼の配信はコメント欄が荒れに荒れその9割以上が罵詈雑言で埋められている。だが彼もその事を仕方ないと感じ出来るだけ周りに迷惑をかけない様にと気を遣いながら配信をしていた。だがそんなある日とある事をきっかけにホムラは誰かの迷惑になるかもと考える前に、もっと昔の様に配信がしたいと思い。その気持ちを胸に新たに出来た仲間たちとvtuber界隈のトップを目指す物語。 この小説はカクヨムや小説家になろう・ノベルアップ+・ハーメルン・ノベルピアでも掲載されています。

処理中です...