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第25話 コラボをしよう
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「コラボしてないでしょ」
「ギクッ」
今日は家に来るなり怜がそんなことを開口一番言ってきた。
コラボ依頼は今まで放置してきた。
そう、僕はコラボをしていない。コラボをしないで登録者を伸ばしてきたのだ。
それは怜の指摘通りだ。
しかし、思わず声に出るほど動揺してしまった。
資料でもやたら強調されていたし、多分怜が見たいって事なんだろうけど、やっぱり他人は少し怖いし。
「い、いやぁ。僕の部屋に女の子がいると思うといまだに緊張するなぁ。怜は緊張しない? それより、僕と一対一で怖くない?」
「その会話もうしたわよ」
くそう。覚えてたか。
木高影斗として、僕の気持ちを理解してもらおうと思ったが、ダメだったか。
「まあ、緊張はキララた……コホン! キララちゃんの前だからするわよ。でも、怖いとは思わないわ」
今キララたんって言いかけて言い直した?
いや、相手は怜だ。かんだだけだろう。
それより、今の話はきっと僕にとって参考になる。
「怖くない? どうして怖くないの?」
「私にはこれがあるから」
無理矢理に口角を上げて悪い笑みを作る怜。
その手の中にはスマートフォンが握られている。聞きたくもない。僕があいさつする声が録音されている端末だ。
問題は、あいさつがキララの挨拶ということ。
ゴクリ、とつばを飲み込んでしまう。
やはり、脅しのタネってのは心理的余裕を作り出す大きな要因なのかもしれない。ん? 脅しのタネ?
「つまり、コラボ相手の不祥事を手にして」
「そんなわけないでしょ。今私がわざと悪い顔したの気づかなかったの?」
「気づいたけど」
「冗談で言ったのよ。私は影斗を信頼してるから」
「あ、ありがと」
「正直、私は影斗がよからぬことをするとは思ってないから」
え、なんかほめられてる。
じーんときてしまった。今まで信頼してるなんて言われたことがないからだ。
直接言葉にすると、他人を利用しようとするうさんくさい言葉に聞こえるかもしれないが、怜に言われると説得力がある気がする。
「いいのよ。私が影斗をどう思ってるかは!」
ちょっとショック、でも照れてる。
「ふふ。どうして私が参謀役になったと思ってるのよ」
「え、そんなのワンチャン、サインもらうためとかじゃないの?」
「え、くれるの?」
「いや、サインとかないし、したこともないけど」
「い、いえ。そうじゃないわ……ねえ、あとで練習してみてもらえない? 練習したのでいいから。ちょ、ちょっとだけほしいわ」
あとで練習しておいてやろうか。
「や、やっぱりいいわ。なんかずるいし」
「そうか? それで、どうして参謀役になろうとしたんだよ。確かたまたま脅せたからなったみたいな話だった気がするけど、どうだっけ。こうでもしないとみたいに言ってたよな」
「そうよ。私はキララちゃんに貢献して、力になって、より多くの人に雲母坂キララという存在を知ってもらうために参謀役になったのよ」
プレゼンの時に色々と言っていたから話していたのかもしれないが、怜の提案してくれたネタばかりに気を取られて聞いていなかった。
でも、準備もあるし刺激は受けたが、まだ怜のアイデアは実際には手をつけていない。
「その様子じゃ覚えてなさそうね」
「ごめん」
「いいのよ。私の意気込みは覚えていなくても。私はキララちゃんの力になれればそれでいいの。冷や水としての私を覚えてくれただけで充分だわ!」
あれ、気づいたら怜の変なスイッチが入ってる?
「それで、まずはコラボしてみない? そういう話なのよ。コラボ相手やそのファンという新しい人たちにキララのよさを知ってもらうの」
「え……」
なるほど。こうして話がここに帰着するわけか。
思考が固まる。
多少、日向以外とも話すよう意識しているが、まだ他人と話すのは抵抗感がある。
「どうなの!」
怜は銃のようにスマホを突きつけてくる。
「やる、やるから」
僕はいつまでも怜にビクビクするんだろうな。
「会話のリハビリにもなるだろうしちょうどいいと思うわ。はいこれ」
「これは?」
「コラボ相手を募集している人のリスト。といってもあんまり多いと選ぶのを言い訳にしそうだから。この人にしましょ」
「どうして」
「どうしてって。見つけといたのよ。はい。これから一人ずつ渡すから一人ずつ頼んでみましょ」
渡された紙には、見た目や名前、SNSアカウントなどの情報がまとめられていた。
それに、リハビリってキララだけでなく僕のことまで考えてくれているのか。
「いや、リハビリって僕は元々」
「お母様心配してたわよ。小学校に入るまでは日向ちゃんとも元気に外で遊ぶようなはつらつとした子だったのにって」
「母さんが」
そこまで聞き出してるのか。
本当、力を入れるところがズレてるよ。
「ありがとう。にしても用意がいいな。そんなにすぐ見つかるものなのか?」
「さ、参謀だからよ。これくらいやらないと捨てられるかもしれないでしょ。それに、準備ができててこその提案だし」
「じゃあ、怜の方では他の提案の準備もできてるのか」
「キララちゃんのためだもの」
でも、大丈夫かな。コラボ。相手は女の子のVTubetっぽいし。
怜は僕の不安を感じ取ったのか、ぽんっと肩に手を乗せてくれた。
「キララちゃんなら頼めばOKしてくれるわよ。だから大丈夫」
その言葉は嬉しいけど、キララを神かなんかだと思ってないか?
いやぁ、でも断られるの嫌だなぁ。連絡するの怖いなぁ。嫌われないかなぁ。失礼にならないかなぁ。
手汗がぁ!
「ギクッ」
今日は家に来るなり怜がそんなことを開口一番言ってきた。
コラボ依頼は今まで放置してきた。
そう、僕はコラボをしていない。コラボをしないで登録者を伸ばしてきたのだ。
それは怜の指摘通りだ。
しかし、思わず声に出るほど動揺してしまった。
資料でもやたら強調されていたし、多分怜が見たいって事なんだろうけど、やっぱり他人は少し怖いし。
「い、いやぁ。僕の部屋に女の子がいると思うといまだに緊張するなぁ。怜は緊張しない? それより、僕と一対一で怖くない?」
「その会話もうしたわよ」
くそう。覚えてたか。
木高影斗として、僕の気持ちを理解してもらおうと思ったが、ダメだったか。
「まあ、緊張はキララた……コホン! キララちゃんの前だからするわよ。でも、怖いとは思わないわ」
今キララたんって言いかけて言い直した?
いや、相手は怜だ。かんだだけだろう。
それより、今の話はきっと僕にとって参考になる。
「怖くない? どうして怖くないの?」
「私にはこれがあるから」
無理矢理に口角を上げて悪い笑みを作る怜。
その手の中にはスマートフォンが握られている。聞きたくもない。僕があいさつする声が録音されている端末だ。
問題は、あいさつがキララの挨拶ということ。
ゴクリ、とつばを飲み込んでしまう。
やはり、脅しのタネってのは心理的余裕を作り出す大きな要因なのかもしれない。ん? 脅しのタネ?
「つまり、コラボ相手の不祥事を手にして」
「そんなわけないでしょ。今私がわざと悪い顔したの気づかなかったの?」
「気づいたけど」
「冗談で言ったのよ。私は影斗を信頼してるから」
「あ、ありがと」
「正直、私は影斗がよからぬことをするとは思ってないから」
え、なんかほめられてる。
じーんときてしまった。今まで信頼してるなんて言われたことがないからだ。
直接言葉にすると、他人を利用しようとするうさんくさい言葉に聞こえるかもしれないが、怜に言われると説得力がある気がする。
「いいのよ。私が影斗をどう思ってるかは!」
ちょっとショック、でも照れてる。
「ふふ。どうして私が参謀役になったと思ってるのよ」
「え、そんなのワンチャン、サインもらうためとかじゃないの?」
「え、くれるの?」
「いや、サインとかないし、したこともないけど」
「い、いえ。そうじゃないわ……ねえ、あとで練習してみてもらえない? 練習したのでいいから。ちょ、ちょっとだけほしいわ」
あとで練習しておいてやろうか。
「や、やっぱりいいわ。なんかずるいし」
「そうか? それで、どうして参謀役になろうとしたんだよ。確かたまたま脅せたからなったみたいな話だった気がするけど、どうだっけ。こうでもしないとみたいに言ってたよな」
「そうよ。私はキララちゃんに貢献して、力になって、より多くの人に雲母坂キララという存在を知ってもらうために参謀役になったのよ」
プレゼンの時に色々と言っていたから話していたのかもしれないが、怜の提案してくれたネタばかりに気を取られて聞いていなかった。
でも、準備もあるし刺激は受けたが、まだ怜のアイデアは実際には手をつけていない。
「その様子じゃ覚えてなさそうね」
「ごめん」
「いいのよ。私の意気込みは覚えていなくても。私はキララちゃんの力になれればそれでいいの。冷や水としての私を覚えてくれただけで充分だわ!」
あれ、気づいたら怜の変なスイッチが入ってる?
「それで、まずはコラボしてみない? そういう話なのよ。コラボ相手やそのファンという新しい人たちにキララのよさを知ってもらうの」
「え……」
なるほど。こうして話がここに帰着するわけか。
思考が固まる。
多少、日向以外とも話すよう意識しているが、まだ他人と話すのは抵抗感がある。
「どうなの!」
怜は銃のようにスマホを突きつけてくる。
「やる、やるから」
僕はいつまでも怜にビクビクするんだろうな。
「会話のリハビリにもなるだろうしちょうどいいと思うわ。はいこれ」
「これは?」
「コラボ相手を募集している人のリスト。といってもあんまり多いと選ぶのを言い訳にしそうだから。この人にしましょ」
「どうして」
「どうしてって。見つけといたのよ。はい。これから一人ずつ渡すから一人ずつ頼んでみましょ」
渡された紙には、見た目や名前、SNSアカウントなどの情報がまとめられていた。
それに、リハビリってキララだけでなく僕のことまで考えてくれているのか。
「いや、リハビリって僕は元々」
「お母様心配してたわよ。小学校に入るまでは日向ちゃんとも元気に外で遊ぶようなはつらつとした子だったのにって」
「母さんが」
そこまで聞き出してるのか。
本当、力を入れるところがズレてるよ。
「ありがとう。にしても用意がいいな。そんなにすぐ見つかるものなのか?」
「さ、参謀だからよ。これくらいやらないと捨てられるかもしれないでしょ。それに、準備ができててこその提案だし」
「じゃあ、怜の方では他の提案の準備もできてるのか」
「キララちゃんのためだもの」
でも、大丈夫かな。コラボ。相手は女の子のVTubetっぽいし。
怜は僕の不安を感じ取ったのか、ぽんっと肩に手を乗せてくれた。
「キララちゃんなら頼めばOKしてくれるわよ。だから大丈夫」
その言葉は嬉しいけど、キララを神かなんかだと思ってないか?
いやぁ、でも断られるの嫌だなぁ。連絡するの怖いなぁ。嫌われないかなぁ。失礼にならないかなぁ。
手汗がぁ!
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